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ノベル『銭湯ガール』

 ルナちゃんは今日も銭湯へいく。身も心も清めようと。若干最早の二十五歳。北海道は札幌出身。趣味はコスプレとカメラ撮影と銭湯と湯上がりバル。人間観察も趣味といえば趣味。そうね女優の黒木華に似ている。京都に凄く憧れがある。同じ京都出身の吉岡里帆も元アナウンサーの田中みな実も好きじゃない。男に媚びを売るあざとい女は反感どころか敵意しかない。やっぱり平陸奥・・。媚びているようで全然媚びない。文学と漫画をこよなく愛するナイスバディの彼女、しかもポルノも辞さない肉弾肉厚のあっぱれ女子。最高よ平陸奥さーん。

 飲食店で働くルナちゃんは頗る優秀だ。接客も調理も雑務庶務も地頭IQがいいからそつなくなんでもこなす。確かに不思議だ。芸能界でもマスコミでも外資金融でもなんでもできちゃうのに。どうして飲食業界に入ったのか。単純明快。手っ取り早く経営者になりたかった。普通のOLには興味なかった。汎用的なスキルアップの専門知識も別段欲しくない。取得に手間暇お金まで掛かる無駄な資格も全然いらない。資格なんて意味ないない。

 一番の理由は大好きなお兄が料理人だったからなの。ルナの実家は韓国ドラマのようなお金持ちだ。同族系列の最上層つまり財閥系ね。大好きな実兄は家出同然勘当も辞さず料理の世界へ飛びこんだ。近親相姦寸前ニアミスす?初恋だってお兄ちゃんだよ。ありえないカッコよすぎ。超憧れ。切なき恋心・・。大好きな兄とお店を出せたら。一日も早く独立するの。兄を迎え入れて・・。
でも死んじゃったの。バイク事故・・。

「ルナ・・涅槃で待つ」

 がむしゃらに札幌・すすき野で朝から晩まで。想いで迷子になりそうだった。ノスタルジーと初恋の愛のアカシヤ・・。あぁ最愛のお兄ちゃんの分までも。イザヤ逝け。雄々しくも居丈高。居酒屋甲子園目指して頑張った。とにかくナンバーワンのお店で働きたい・・。

 ある日、東京からやって来た使者。のぶだかさぶだか?まさに運命の出会い。ヒゲ坊主の店主と面談即決。劇的スカウト。青天の霹靂。札幌から渋谷へ。

 名店「タカジロウ」に入店してはや3年。今やナンバー2である。店主林原鷹次郎がルナにゾッコン。超可愛ゆい。憧れ。好きすぎてカミソリ負けしたくらいの頭皮剝離。つるつるぴかぴか。濃厚ワックスがけも厭わない。ピカピカツルツル。負けてたまるか。ルナは機転が利きすぎる。判断力が凄まじい。いつも即断即決。なにより仕事が早い。聡明な頭脳・高速回転のルナである。男女間の上下関係とくに飲食業の和食の厳しき因果律その独特規範も凌駕超越の神聖関係・・心身も超絶の夢幻極致の関係性である。だからルナは活き活き働く。バコバコズコズコ。店主鷹次郎は実兄そっくり・・。わぉ。タカさん・・抱いてください・・。あぁ。妄想中ちゅう?

 ところでカッコいいクールなレディが憧れる。少しボーイッシュな性癖があるのかな。ヘアスタイルもロン毛よりショートカット否丸坊主の山寺の修行僧のような青味がかった・・。
 ボーイズラブノベルとかすごく好き。

 平陸奥さんが主演の腐女子映画できないかなぁ。
いい原作書いてよ作家さん。お願いしまする。

 やっぱり銭湯が好きなの。時めきの出会いがあるから。銭湯も進化著しい。そのうち飲めちゃうね、生ビールとかワインとか湯上がりに専用スペースで飲めちゃうかもね。屋台村やバル村とか銭湯の中にできちゃうかもよ。バーもいいよね。湯上がりのカクテルとか。もう少し経てば休憩や宿泊や宴会もできる筈だよ。今はころちゃんであれだけど。ころちゃん消えて。バイバイころちゃん!

 さて今回のルナ銭湯行は二回目の中野凱旋である。新装オープンしたまるでパチンコ店のような賑わいの銭湯である。このご時世に銭湯文化を継承発展させるという。

 お風呂屋さんの義理人情?
 お風呂屋さんの夢心地?

「クラウドファンディングでかなりお金が集まったのよ。屋上でテントサウナしたり激辛カレーの屋台やったり・・そう言えばタカちゃんも行ったとか?」
「二時間サウナやりましたよ」店主が言う。
「ホントですかぁ?」
「任侠の方々に囲まれました」
「入れ墨って怖い」
「今は誰でも入れ墨していいわけだけど」
「あんたどこの組なの?」
「わしゃ渋谷の森原組じゃ」
「広島の林原組じゃのぉてぇ?」
「違うんじゃ。わしゃのぉ・・」
「タカちゃん違うじゃん」
「もちろん違いますよ。地元、讃岐ですから」

 東京に住む独身は身にしみる銭湯である。孤独なストレンジャーが都で精一杯生きている。お風呂でリフレッシュ。シャンプーにリンス、ナイロン製のタオル。ボディソープもね。そんなあれこれが入った風呂桶抱えてせっせと通いました。大久保通りも早稲田通りも渡りました。あぁ金のなかった学生時代?

 今ではマンションやアパートにも浴室は当たり前だ。その昔、平成どころか昭和の頃は風呂なしの家屋がひしめいた。江戸の銭湯文化はまだまだ健在だった。風呂がない分家賃も安価。街に何個も銭湯はあった。コンビニの数より銭湯は多かった。番台には若くて色艶のいい女が座っていた。あわてて股間をタオルで隠したものさ。これみよがしに勃起しちゃったら大変だもの。恥じらいってやつがあったっけ。

 店主鷹次郎もかつて入湯した銭湯である。その熱きサウナで発汗しようという。いつも坊主刈りのゲロテクスな風貌だけど。予約の取れない行列のない店も早十年経ったわけだけど。抜群の経営センスそして勘所をおさえたおもてなし。カウンター文化を継承しようと。店主のメガネは黒縁。今どき化石レベルに珍しいのだけど。戦時体制に君臨した東条英機やエグザエルのアツシに凄く似ている。ロン毛なら芸能人でも通用しそうだ。

 ルナは都内全部の銭湯を制覇している。でも中野は銭湯以外出向いたことがないこの界隈だが、確かに酒のたぐいは飲んだことはない。中野区と新宿区を境界する早稲田通りには小滝橋を渡り関東バスセンターを過ぎた場所に日本酒の美味しい会席料理の店もあるのだが、スペインバルで白ワインが飲みたかった。最高の湯上がりに最高のワインと美しいアガシ~。

 気になる店はツモルバッコだ。店名由来は不明だ。

「ルナさん、中野においしい・・女子が創るお店があるんだよね。そうね、料理も最高だけど、凄くおいしいのよ。というより美しい・・ううん、カッコいいかな・・クールでビューティー・・わぉ?」
「どこですか?」
「中野にあるの。そういや改装された銭湯が近くでもないけどあるのよ。そこに行って湯上がりだね。ツモルバッコって言うのよ、スマホでぐぐってみてみて」
「わたし好み。ですか?」
「そりゃもう一目惚れ・・コシヒカリじゃないかしら」
「魚の目じゃなくて魚沼さん?」
「そうね。湯上がりの湯けむり・・サスペンス始まるぅ?」

 豪華に豪勢に改装された最新サウナでルナは潔い発汗を新陳代謝させながら身も心も洗い流す。最強最熱、ヘルシオですか。液晶テレビまではよかったのにね。台湾の会社と業務提携という傘下参入。白物家電は故障が多かった。そりゃ真似した松下電器産業あらため、パナソノックっく?ナショナルじゃないの。サンヨー電機を丸呑みしちゃったけど・・。ソニーも東芝も富士通もパソコン関連はどうなのかな。家電は別に国産にこだわらなくてもいいけど。

 熱々のボディを癒せ。まるで人間蒸し料理ね。ボイル、ボイル。ルナの得意料理だ。蒸し料理・・。肉は蒸すに限る。蒸してこそなんぼ?蒸してこそエロス?茶碗蒸す?出汁を濃厚かつ聖性。汚濁も汚辱も許しませぬ。ルナの液同然のダシ汁だから。旨味も色気も渾然一体のルナそのもの・・次の料理はレシピは・・うぅん。

 我慢する最中いつも想念と思考が去来する。今日も同じような夢想状態になった。変性意識のいざないは強烈だ。パンプアップした筋肉と股の棍棒で殴打しようと馬乗りになった男の汗臭いクリ臭い生烏賊・・鮮魚と山菜・・渓谷と海流・・群島と山脈・・。

「好きにしていいよ」

 ゾラが喘ぐ。渾身のストローク中である。いやらしい突起がついたバンドをきつく細い華奢な腰に装着していた。人為公然。インイン。

「あたいのものだよ。べっこやぁ~ゾラゾラァ」

 不思議と出ちゃうの。サランヘォ。アラッソアラッソ~。見過ぎちゃうの。コリア語感がボキャ的に普通になっているのだけど復讐と激しい愛憎劇のエトセトラ、韓国のドラマっていつも憎しみ恨んで呪って復讐する。大好きな復讐。主人公は臥薪嘗胆。いつまでも死ぬまでどこまでも。はてまでも。敵を恨みを忘れまじ。怖いなぁ。怖いよぉ。

「復讐したらバケモノになる、愛こそ全てだぞ」でも本当なの?

「おぱぁ~おっぱぁー」

 不思議な言葉だ。日本語にはない。だって「甘え」も不思議な言葉だけどお兄さんや恋人なら「チング」?親友とかフレンドシップのハズだけど。

「ねぇかわいいわねぇ」

 セクシーなタレントの平陸奥、現る。ヤラセなし。モノホン・平陸奥その人である。燦然たる当体。すっぽんぽーん。

 デジタル越しの水着姿も圧倒的だけどリアルな面前なんて。ルナちゃん驚愕だよ。熱風うで昏睡寸前だったから幻想幻影の・・

 でも違う。蠱惑の笑顔が熱風ぷぅ。刺すような切り込まれるよなヒリヒリ。媚態も擬態も消え去る。
いきなりルナのタオルをはぐった。
 リアルのルナも素晴らしい。

「きゃ」
「ねぇいいサウナ、ルナちゃん?」
「どうしてあたしを・・」
「大丈夫よ。渋谷、タカちゃんのお店・・カウンター奥のテーブルの奥のその奥おく?」
「あぅ!思い出しました。ありがとうございます」
「ルナ、どう?」

 サンドイッチなのかホットドックなのか。蒸す蒸すルナは熱々ソーセージの気分。
だけど悲しみのテトラポッド。護岸の接岸もあんなにランダム乱雑に置き去りにされて。
思い出では侵食する。護岸の果てのぉ・・。

「瀬戸内海いいよ、仙酔島」
「平陸奥さん・・あたしを連れてって」
「ねぇやっぱりソリソリよねぇ」

 だって密林はノンノン否否のはずはーずぅ。ノーポジションノーポジション。永遠の手数料ガチ。マイナスからプラスへ。プラスマイナス入れ替わるわけだけどスプレッドなコストは永遠なの。だから・・つるつる光沢艶消ししなくていいの。スベスベバコバコ。

「まだ駆け出しだった。カメラマンの言うことがすべて・・だからガムシャラだった」

 ルナは熱風うぷうう。蒸気を逸してよかった。小ぶりだけど素晴らしく形のいいまんじゅうの外見外観そして甘やかなこし餡の・・そりゃつぶつぶはダメよ。ブツブツ・・五感も互換もないわぁ。語感すらね。シコシコでもいいかも。

「おや?コリコリ・・。なぁ~に?」
「あう。護身用の・・スティック・・転ばぬ先つえ」
「やーだー。ねぇ・・」
 そう言えば・・。

 ルナは乗り越えるしかない。平陸奥の記憶でさえも。双対の発汗である関係の事実。接客その起業の合間で。生計とやりがい。お兄ちゃんの仇をとる?コミュニケーションのゆけむり。カウンター越しのエトセトラ。熱い眼差しのその先の。

 客は酩酊しながら思考は覚醒の一途である。日常の社会的道徳的あらゆる規範事案から逸脱の「旅時空」の無意識の自覚は甚だ危なっかしい。事後の確認しかできない。あとは事故の顛末だね。食い逃げやり逃げ。旅の恥はない。あるのはごっこその夢芝居猿芝居。茶番劇もいとわず一糸厭わずの平陸奥の肉団・・。

だから?

(了)


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