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002.too much india|富野ひとみ|CURRYgraphy

青い小窓が印象的な可愛いお店

 週末は名古屋へバビューン。新幹線でノートPCをカタカタやるのは憧れだったけど、開始2分で酔ってしまって断念。瞬きするくらい一瞬で名古屋についたと思ったら、眠ったことにすら気付かなかったらしい。すっかり元気になって、早速モーニングを食べに行った。
 店主の富野さん(以下、トミーさん)は私と一つ違いで、編集者になりたかったことや絵を描くこととカレーが大好きなところなど共通点が多いので、元から凄くお話してみたかった。絶対気が合うよね、っておこがましくも。
 取材って名目だけど、会えることが何より楽しみで、CURRYgraphy作ることにしてよかったーって思っちゃった。


活発で目立ちたがりだった幼少期

 昔から絵を描くことやものづくりなど、表現することが好きだったトミーさん。意外にも料理に興味を持ったのは一人暮らしを始めてからだという。必要に迫られて、図書館で借りた和食やスープの本を見ながら自炊するようになった。
 考古学を専門とする夫と遺跡や寺院を見にインドへ行った際、ゲストハウスで作ってもらった家庭料理のおいしさに感動した。野菜を中心とするインドの食事が体に合うことに気が付き、自分たちでも作るようになった。
 何度かインドに行くうちに、現地の人との交流も増え、家に行って料理を作ってもらったり、教えてもらったりするようになると、いつしか料理を目的にインドへ行くようになった。

カレー屋さんになることは、もう決まっていた

 大学卒業後は出版社で働いていた。条件面で金融を目指した時代もあったが、ものづくりがしたいという気持ちを見つめ直して出版社に方向転換。しかし、金融志望で簿記を持っていたことから、配属されたのは経理部だった。毎日同じことを繰り返す日々に、この仕事を一生できるかな、と考えるように。
 同時期に学生時代から続けていたバンドが解散し、ぽかりと空いてしまった時間を持て余すようになる。
 そんな時インドでカレーと出会い、ポンと「カレー屋さんやったら楽しいかな」と言ってみたときの夫の返事がしびれる。

「もう名前決まってるから」

 友人のバーで間借り営業をしたり、イベントに出店したりしながら腕を磨く日々。これまで飲食業界で働いた経験はほとんどなく、スピードや連携が求められる仕事に苦手意識もあったというが、今、自分の店は自分の居場所となりリラックスして働けている。

今この場でインド人だったらどうするかを考える

 絵を描くこと、音楽が好きなこと、料理をすること。それは、すべてが「表現」である。地球上の植物からできたスパイスを組み合わせて、色々な種類の味や香りが作れるインド料理がおもしろくて仕方がないという。
 ただ、トミーさんはこう続ける。

「前提として、お店で出している料理ってオリジナルじゃないと考えていて、もともとインドにあったレシピを変えずに出そうと思っています。私の料理は私ひとりのものではなく、その料理を教えてくれたインドの人たちとの共作だと感じています。私がインドを旅する中で出会った美味しいご飯や温かい人たち。その思い出が物語となって料理に宿り、個性になっているのだと思います。一番意識しているのは、インドの人だったらどうやってやるかということなんですよ。やっぱりインドと日本って土地が違って、風土が違って、水も空気も違うから、同じようには絶対的にならないんですよ。
現地の味っていうのは色々あると思ってて、インドは広いので、同じインドの現地でも、そこに住んでる人によって現地も違いますし、またはその経験、旅した人によっても行った場所やお店って全然違うから、その人が出会ったものが現地でそれだけだと思うんですよ。
自分の中で大事にしていることは、自分の目で見て出会った経験をアウトプットするっていうことです」

同じ食材が用意できなくても、例えば日本に引っ越してきたインドの主婦だったらどういう風にするかを考えてみる。
インドで一般的に使われる食材を、日本でもそのまま日常的に使うのは価格や鮮度の観点からも現実的ではない。安定してフレッシュでおいしい野菜を使えるよう、日本にあるもので工夫する。組合わせなど、わからなければ具体的に聞いてみる。旅行に行けば食べ合わせを全部メモして、現地で実際に確認する。自分の目で見て、直接聞いたことを根拠にする。

自家栽培・無農薬の野菜について

 インド滞在中、アパートを借りて自炊生活をしたことがあったそう。インドの野菜で作ったインド料理は、何のストレスもなくおいしくなったが、日本の野菜を使うとレシピは同じでも再現性が低く、『インド料理はインド野菜の料理なんだ』と実感した。 

 当日頂いたメニューの中の祝大根(いわいだいこん)は、自分たちの畑で育てたもので、細長い形が特徴的だ。細長ければインド人がよくやるように輪切りにできる。形や味から、トミーさんが選んだ品種だ。そしてその葉は、同じく無農薬・自家栽培した芥子菜とともにサルソン・カ・サーグになっている。

 実は私も、夫が家庭菜園を始めたことで今年からたくさんの無農薬・自家栽培の野菜を食べている。はじめのうちは、掘りたての野菜で冷蔵庫が泥だらけになるし、やっぱり虫が多いし、よく洗わなきゃいけないから水道代は上がるし、ちょっと嫌だった。
 でも、種を撒き、芽が出て、間引きをして、葉を大きく育てて、花が咲き、受粉させて、実を着けて、虫に喰われないようパトロールして、、、そして夏には採れたての極めて甘いドルチェコーンを、冬には寒にあたってぎゅっと味が濃くなったちぢみほうれん草を持ち帰ってくる夫の姿に自然と感謝の気持ちがわいてきた。
 これはtoo much indiaさんのInstagramに書かれていたのだけど、『「自家栽培・無農薬」は言うは易しですが、実践するのはとても大変です』という言葉が心に染みた。
 本当に、”ご馳走”さまでした。

インド人のお客さんにたくさん食べに来てほしい

 将来の展望について伺った際、茶目っ気たっぷりに『2号店ができたら、インドのように分業制にして「コーヒー担当」とか「料理担当」みたいな働き方をしてみたいな~』とお話ししてくれたトミーさん。
 別れ際、「本当の夢は、インド人のお客さんにたくさん食べに来てほしいってことです」とこっそり教えてくれた。

今週の雑記

潜水艦の中みたいな写真

 ついに白状すると、前回も今回も、写真は夫に撮ってもらった。自分で撮るって決めたものの、太陽の光がばっちり入ってきて、その光を薄いレースのカーテンでやわらげた窓辺でないと、まだ私はうまく写せない。ひどく限定的だ。
 2019年に結婚した際、ハワイでフォトウェディングをしようとしていた(コロナで中止になったけど)。たくさんのフォトグラファーのポートフォリオを見ていたとき「ピンクの風が吹いている」と思った人がいた。吉本ばななさんの小説に出てきたハワイのピンクの風は、やわらかい歌声と共に苦しい気持ちを包みこんでくれるものだった。そんな風の温かさを、砂浜の写真に見つけたのは不思議な体験だった。

 トミーさんのSNSの写真は、トミーさんが撮っている。絵を描くことも、料理を作ることも、写真を撮ることも、同じく『表現』だから、その人らしさ、が統一されていくのは不思議なことではない。トミーさんの作品には、朝の太陽が昇ってきたくらいの光が降り注いでいる気がする。(カメラだと朝の光は青みがかって表現するって習ったけど、そうじゃなくて)夜のうちに雨が止んで、塵も埃もない透明の空気の中にさす白っぽいあったかい光。
 トミーさんの作り出す作品に感じる統一感の正体は、『光』だった。

 ちなみに夫の写真は幡野広志さんのやり方に沿っているのでまだ自分の写真とは言えないらしい。私がこのレベルで撮れたら、えばり倒して自分の写真とアピールしてしまうのだが……。

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