見出し画像

【白井未衣子とロボットの日常】11・包囲の日《5》

※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。


パーティーが順調に盛り上がりを見せている最中、武人は会場を出ていた。宗太郎にすぐ戻る、と耳打ちして。
彼は護衛の付き添いを促したが、武人はこれを拒否した。

外の空気を吸うには、会場の通路で止まるだけでは物足りず。
武人は会場の玄関の扉を開いて、真っ暗な外へ出た。
会場の外はクラシック音楽とは無縁そうな、スラム街が近くの離れた場所に存在した。
敵の襲撃の可能性もあり、パーティ会場の指定をあえてここにしたのだ。

武人が意識していなくても、街の中に訪れる事はできた。
夜の影響もあって、街中は静かだった。
酒場でもあれば、フラッと立ち寄れたが。
(都合よく、飲めるわけないわな。)
仕方なく武人は歩き、5階建ての建物同士の隙間に入った。
片方の壁にもたれ掛かった。

ハァ、と武人は息を吐いた。
(どこまで、保つんやろうな…この身体。)
武人の顔には少し、汗がかかっていた。ポケットのタオルで、流れた汗を拭き取った。

武人の身体は、限界まできていた。
クーランに『ラルク』と呼ばれ、物心ついた頃には他星の制圧に参戦させられた。事実上、11の星を潰してきた。

潰した星全てを力押しで粉砕したわけではない。
民にとっての生命線を破壊し、自然に壊滅させた星もある。
武人はHRでも頭の良い方だった。

12番目の星、金星圏フェルホーンで、武人は運命的な出会いをした。王女エトラトルは、彼の精神的な支えになってくれた者だった。

地球の交流会で失ってしまった。
クーランの襲撃で絶えかけた彼を、彼女は救ってしまい…そのまま消えていった。
地球の血が流れる彼女の想いを武人は継いだ。

他の[宇宙犯罪者]と武人の違いは2つ。
前線に立ち過ぎたのと、身体をいじられた事。
武人はクーランの下に属していた時も、王女の警備時も、[ラストコア]の特別隊長になった時も、ずっと前線に立ってきた。

HRのロボ形態の変身の根幹は、細胞の分裂と破壊の繰り返しである。ロボットになるために細胞の分裂が始まり、元来の生物に戻るために細胞は壊される。
脅威的な力を持つHRの代償である。

他の者は比較的変身をしていない。
マルロのように仲間を使役する者もいれば、ニシアのようにHR以外の戦略を持つ者もいる。
武人は基本、戦い抜くにはHR能力がいる。
せいぜい、武器の銃を単発で出して生身で戦える程度だ。

だから武人は、アレックスに地球産ロボの開発の依頼をした。
同時に自分の身体の検査を彼に認めた。

【パスティーユ】等の超高性能なロボは、武人の身体検査なしでは完成しなかった。原始地球ではHRの知識が足りなかったのだ。

アレックスは武人の身体の検査を幾度も行い、地球上で再現可能な物質と仕組みの構築を模索した。
人間を守るコックピット《剛力ガラススフィア》、ロボの柔軟な骨格をつくる《神経チューブ》、体格の変幻自在を可能にした《熱溶解》を生み出した。
1人乗りではこの環境下でも絶えきれなかった。
だから3人乗りのコンセプトに変えた。特殊性能のオプションをつけて。
オプションが、【パスティーユ】がスピード型・火力近接攻撃型・広範囲攻撃型にチェンジできた。

(なんか売店でも開いてたら、水でも買えたんやけどな…。)
武人は思って空を見上げた。空の色は黒に近い青色。
普通の店舗であれば、閉店を過ぎている頃合いだろう。
(街の雰囲気あんま良くないから、なんか開いてるなぁと期待してたけど…人払いしとるわな。)
武人は空を見上げるのをやめて、背もたれを支えた建物の側から離れた。

帰ろうかとキリをつけて、建物の隙間を出ようとすると…。
武人の両目が細くなった。会場へ戻る足も止まった。
彼は自分の左右を目で追った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?