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【白井未衣子とロボットの日常】9・協議の日《13》

※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。


『エネルギーがあと30%程だぞ!勇希!』
『予備はあるのかよ!』
『補充はするが…装甲も所々傷がいっている!』
『傷ぐらいなんともねぇよ!』
兄達が言い争うように話をしていた。

大将(仮)との戦闘中、【サニー】は拳を交える度に傷を受けていた。
正確に言えば傷ではない。
私も被害状況を逐一確認しているが、『溶けている跡』が多いのだ。
接触を数回行ううちにこの有様。
攻撃方法の変更を示唆する必要があるかも。

「勇希兄ちゃん、【フラワー】にチェンジして。距離を離して撃破していこう?」
『未衣子!【フラワー】だと余計にエネルギー使うだろ!?』
「このままじゃ…装甲のダメージで【パスティーユ】が沈むわよ?」
『くっ、クソッ!』
勇希兄ちゃんがコックピットの足元を蹴った。
モニター越しでも音が聞こえたし。

この時に私は思った。私達に運気が巡ってるんじゃないかなって。

大将(仮)の周辺に、銃弾が数カ所放たれた。
大将(仮)のHRに敵対するのは私達[ラストコア]か、王子達ニコンの人々だ。銃を駆使して挑む者といえば。

「武人兄ちゃん!」
【ブラッドガンナー】が飛行状態で大将(仮)に乱射していた。
威嚇射撃でしかなく、大将(仮)へのダメージは殆どない。
でも足止め自体は有効だった。

『勇希!そのままで倒したいんやったら、一撃で仕留めるんや!』
『武人さん、エネルギーも底をつきます!これ以上、保つかどうかも…』
『和希、今は勇希と話しとる。どうや?』
武人兄ちゃんは【サニー】のままで行く為の手段を授けていた。
勇希兄ちゃんはすぐに返答をしなかった。
『俺は…』
返答の第一声がこれだった。

武人兄ちゃんはもう一押し、勇希兄ちゃんに意欲を湧かせた。
『約束、しとんのやろ?
空手の修行仲間と、思い出話をするんやろ?それを破るんか?』

すると勇希兄ちゃんは、すぐに顔をあげた。
『そうだ、燈太に俺は約束したんだ!』
【サニー】のエネルギー出力が最大になった。
覇気が感じられる程に、機体が燃えあがっていた。
『勇希!』
『和希兄ちゃん、未衣子。フルパワーで使わせてくれ。』
「え?」
『無茶だ、そうなれば【パスティーユ】全体が…』
『もう決めた事だろ?俺達はこのまま戦っていくって。』
『終わりが見えてるかもしれねぇ。けど、ここを乗り越えなきゃ、燈太も兄貴も、未衣子も守れねぇ!
この一撃に賭けたい。だから、許してくれ…。』

『…わかった。お前が寂しくない様に、俺も行こう。』
「私もよ?兄ちゃんが大泣きするのはごめんだし。」
『お前、もうちょっと励ましてくれよ。』

勇希兄ちゃんと私が火力上げの操作をし、【サニー】の機体は更に燃えあがっていた。

『おいおい、燃えて自爆でも図るってか?だったら勝手にやってろ!
俺はラルクに回る…』
大将(仮)の周りにまた、威嚇射撃の弾が。
『俺はただの助っ人や。お前を仕留めるつもりは一切あらへん。』
武人兄ちゃんの発言は、大将(仮)の怒りを爆発させた。
『上等だ火星野郎!テメェは絶対俺様が落としてやる…うおっ!?』

大将(仮)が怒りの宣戦布告をしていたのが、いい狙い目だったかもしれない。
威嚇射撃の時点で動けない大将(仮)に、【サニー】は真正面から突撃した。
炎に包まっていた【サニー】は猛スピードで、大将(仮)のHR形態を真っ二つにした。
炎のおかげで切れ端が燃えて、ついでに心臓部分も見事に燃えていった。

大将(仮)は断末魔をあげる暇もなかった。
恐竜の様な両目がバッチリ開いていた、それだけだ。
大将(仮)のHRの機能が停止した。
大将(仮)の身体を突き抜けた先に、【サニー】は着地した。
着地後すぐに、【サニー】は膝をついた。
エネルギーの残量は、もう僅かな量だった。

はあはあと、勇希兄ちゃんは呼吸を繰り返した。
私も手袋の中で、汗を感じ取っていた。

【サニー】は、【パスティーユ】はしばらく動けない。

こんな時でも運気は巡ってきてたのかな。
他の敵のロボも、既に滅んでいた。

王子の側近兵達と、アレックスさんのAI達の善戦のおかげだ。

『大丈夫か?』
『…生きた心地がしねぇよ…。』
『ハハハ、そうか。
輸送機がもうすぐ来る。それまで俺も付いとるから、辛抱してくれ。』
【ブラッドガンナー】は【サニー】の隣に立っていた。

勇希兄ちゃんはもちろん、私達もシートにもたれていた。
敵を倒して、生き延びて、ホッとしたんだと思う。

『燈太、約束は守るからな…。』
回収前だと言うのに、勇希兄ちゃんの両目が静かに閉じられた。

→『10・誓約の日』につづく。

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