【白井未衣子とロボットの日常】14・忘却の日《13》 1 カレーポーク 2023年11月16日 20:43 ※予告なく変更のおそれがあります。※設定上、残酷な描写があります。「公園の紅葉が綺麗ねぇ。」俺達が愛嬌市の家に帰れたのは、11月半ばになった。結局、武人兄ちゃんの安否は不明だった。捜索も困難だとして、土星圏の人達も切り上げたと、アレックスさんから報告があった。これ以上[ラストコア]にしがみ付く用事は、俺達子供にはなかった。帰宅の為の整理に取り掛かり、愛嬌市内に戻った。荷物を運ぶ用のトラックも同時についてきた。転送装置の腕時計やペンダントは、記念にプレゼントすると言ってくれた。帰宅して数日後、俺達は日程を作って、3人で公園に行った。半年以上前に襲撃事件の場となった、吉川公園。俺達兄妹と武人兄ちゃんの、初対面の場所だった。武人兄ちゃんは自分の消滅で未衣子の記憶から飛んでしまうと、《夢》で言った。でも、希望を捨てたくなかった。ドラマでもアニメでもある、記憶喪失の時はその人物の馴染みのある場所へ行くシーン。小さな事でも蘇れば、と願っていた。だからといって、未衣子が《記憶》を思い出す素振りはなかった。思い出す前の頭痛を感じる行為でさえ、妹は示さなかった。ただ、オレンジと茶色という、秋の典型的な景色に見惚れているだけ。くるくる踊っている未衣子を遠目にして、俺達はひたすら公園の散歩をしていた。「変わってない、よな。」「変わってない、ね。」俺と兄貴が漏らした感想だった。いつも以上にはしゃいでる未衣子をよそに、俺は兄貴に《夢》にまつわる話を始めた。「兄貴。」「なんだい?」「俺達の母さんが火星人って事、父さんやお爺ちゃんやお婆ちゃんは知ってるのか?」「知らないだろうね…。赤髪とは言っても、茶色に近い色合いなら外国の人と変わらなそうだし。」「だよなぁ。ま、俺達お婆ちゃんに育てられたもんだし。」「知らない方が幸せだったのかもね。母さんの正体の話は。」「母さんだけじゃねぇ。未衣子もだよ。」俺達は前へ視線を向けた。未衣子が舞い上がっている先を辿っていくと、敷地内のお花畑に着いた。寒さが増していく秋の終わりは、咲く花の種類も少なかった。俺達の心の虚しさを、表しているようだった。だけど、1本の大木の枝から、薄いピンク色の花が咲かれていた。桜だった。笑顔の未衣子の上を飾っていた。知識の乏しい俺でも、冬の突入前に桜が咲くのはおかしいと思ってた。兄貴が常識を覆した。「『十月桜』という花があるんだ。稀にこの近所で見る時あるけども、この公園でも咲いていたんだな…。」へぇ、と俺は小さく言った。兄貴の知識が別に地味と思ったわけじゃない。桜の木の下を嬉しそうにぐるぐる回る未衣子とは逆に、俺と兄貴は気持ちが沈んでいたから。ただ、兄貴の方をチラッと見ると、安堵したかのように、少しだけ笑みの表情が出ていた。「…幸せなら、それでいいのかもしれないな。」兄貴は未衣子の喜ぶ姿を見て、これを口にしたんだろう。俺は兄貴を否定せずに、同調した。「そうだよな。俺も、未衣子が納得するなら、それでいいよ。」武人兄ちゃんは俺達が未衣子を見守ってくれと頼んだ。だったら、彼女の幸福を壊さないように、俺達が守ってやろう。もう二度と、未衣子を泣かせないように。→『エピローグ・再出発の日』へ続く。 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #つぶやき #妄想 #まとめ #創作1 #ミコロボ 1