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【白井未衣子とロボットの日常】14・忘却の日《4》

※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。

未衣子は平然としていて、俺達の慌てぶりに首を傾げていた。
「ご飯はもちろん食べるぜ!」
「その前に未衣子、今わかった事を話したいんだ。『武人兄ちゃん』なんだが…。」
兄貴は事実を話そうとした。妹の左肩に手を置いていた。
話が途切れたのは、未衣子の反応が割り込んだからだ。
え、という声を聞いた俺達は、もしかして夢で彼の行方を見たのだろうか…と推測した。
俺達の説明で行方不明の事実が判明し、妹が泣き崩れると予想した。

予想は、裏切られた。未衣子本人の、反応後の発言によって。
「『武人兄ちゃん』?
誰なのその人。新しい家族でも増えたの?」
この発言は、逆に俺達に動揺を誘っていた。

おかしいと疑った俺達は、もう一度尋ねた。
「家族じゃないけど、家族のような存在の『武人兄ちゃん』だぞ。」
「知らない。」
「お前結構慕ってたじゃねぇか。『武人兄ちゃん』頼りに毎日[ラストコア]に行ってるし。」
「知らないわ。」
一点張りに『知らない』発言を繰り返した未衣子。

冷静さに欠けていた俺は、未衣子の発言に腹が立って声を荒げてしまった。
「俺達をからかっているのかよ!あれだけ『武人兄ちゃん』に会いに行きたいが為に、俺達を足として使いやがって!」
「お婆ちゃんの言いつけでしょ、仕方ないわ。」

「だったら、兄ちゃんの事忘れたとか、平気な顔して言ってんじゃねぇよ!」
「忘れたじゃなくて知らないって言ってるでしょ!」
俺と未衣子は口論になっていた。
大切な存在として扱っていた妹との間に、亀裂が入ってしまった。

修復不可能な亀裂を避けるのに、兄貴が仲裁に入った。
「落ち着け勇希。まずは整理しよう。
…未衣子、俺達の事はわかるか?」
「何言ってるの?和希兄ちゃんと勇希兄ちゃんでしょ。」
未衣子はさっきの口論のせいか、不機嫌な物言いだった。

頭の良い和希兄ちゃんは、未衣子に幾つかの質問を始めた。
淡々と答える未衣子を、俺は黙って見ていた。
最初は俺達の家族構成から、[ラストコア]の知識まで、ありとあらゆる質問を行った。
口に出さないでいた俺だが、質問の合間合間で困惑させられた事もあった。未衣子の答えが影響していた。

例えば、「【パスティーユ】の開発者は誰か?」の質問。
未衣子はアレックスさん、と答えた。
開発者がアレックスさんという答えは正解だ。
これはまだいい。問題は次だった。
「【パスティーユ】開発に立ち会った人物は?」という質問。
これはHRの『武人兄ちゃん』が自分の身体を検査してもらい、擬似的な技術を発明させたと聞かされていた。

ところが、未衣子は違う答えを言った。

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