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湯船に潜む生き物


一番最後に風呂に入るのが好きだ。
次に入る人のために綺麗なお湯を保つ必要がなく、湯船に浸かりながら頭を泡立てることができる。身震いをしながら洗い場で体を洗う必要がないのだ。

湯船にザブンと浸かると、冷えていた体はじんわりと暖かくなってくるが、その温度に慣れてしまうとだんだんと鳥肌が立ってくる。湯がぬる過ぎるのだ。

そこで赤色の印のついた蛇口を捻り、湯船にお湯を足す。古い水道の甲高い音と共に、ホワホワな湯気と真っ白なお湯が出てきた。
蛇口の近くから順に、下から上へと、ふくらはぎから腕へと暖かくなる。この感覚が不思議でたまらない。理科の授業で習った、熱運動の図を思い出して、どういったルートで熱が伝わっているのか考えてみる。規則性がないかじっと感じてみる。が、よく分からない。
あちらこちらの熱が動き、まるで湯船の中に生き物がいるみたいだ。

そうこうしているうちに湯船のなかの生き物はどこかにいなくなってしまった。

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