見出し画像

【006】人見知りのシンデレラ

娘にカボチャの馬車に乗ってもらおうと、巨大なカボチャを買った。
しかし彼女にはカボチャの概念は無いし(1センチ角の離乳食しか知らない)、馬も見たことは無い(先日動物園デビューをし、フラミンゴを見て興奮していた)ので、自分が何を与えられたかはわかっていないだろう。

少年少女のような夢を見ず現実を直視すると、巨大なカボチャではなく、自転車で牽引するチャイルドトレーラーである。
現代版の牛車のようなものと思ってもらえばよい。
本体色が黄色のため、見方によってはカボチャに見えなくもない。

街中でよく見る、自転車の前後に取り付けるタイプのチャイルドシートは自転車の重心がかなり高くなるので、安全性に懐疑的であった。
娘をそろそろ自転車に乗せられる月齢になったので、前から目を付けていたチャイルドトレーラーを迷わず導入した。
トレーラーが独立しているので自転車の重心は変わらず、トレーラー自体の重心も低いため転倒の危険性がほとんどない、というのが商品の売りである。

まだ数回近所を乗り回しただけであるが、低重心の効果は抜群である。
私が立ち漕ぎで自転車をどれだけ左右に振って漕いでも転倒の気配が全くない。
後ろ付けのチャイルドシートでの転倒事故の痛ましいニュースが多い中、とても安心だ。
ただ、低重心で子どもの目線が低く、私のお尻を常に見ていることになる。
後ろ付けのチャイルドシートならば「父の背中を見て育て」と背中越しに語ることができそうだが、今のままだと尻を追いかける大人になってしまうのではないかと一抹の不安が残る。

このように安全性には絶対的な信頼を置いているが、2点、致命的な弱点があると感じている。

1点目は、私が有名になりすぎる点だ。チャイルドトレーラーがまだ世の中に十分浸透していないので、行く先々で奇異の眼差しで見られることが多い。
某宅配便の方が大きな荷台を牽引しているのになぜ私だけこれだけ注目を浴びるのだろうか。
奇異の眼差しで私を品定めした後、トレーラーの中に娘を見つけ、「あら、可愛い」と態度を豹変させる。
トレーラーを牽引している私を見た段階で、可愛い、という評価を出せないものか。

2点目は、日本の道路事情や、店舗の駐輪場事情がチャイルドトレーラーに追いついていないことだ。
目的地までの交通量や道路幅等を入念に下調べして道のりを考えるなんて、車にカーナビが普及して以来である。
また、目的地に停める場所があるかも予め調べておかないと、ラック式の駐輪場だけしかない場合はトレーラーの置き場がなく途方に暮れてしまう。
これらの問題を解決するには、政治家になり道路整備を行うか、店長になり駐輪場を再整備するかであろう。
しかし一介のサラリーマンである私には、政治家になりたくとも選挙に出るための資金も無ければ、組織票を獲得するための人望も無い。
店長になるためには出世街道を邁進しなければならないが、そんな向上心は持ち合わせていない。
本気になって実現するには少なくとも十年はかかるであろう。
その頃には娘はもう十歳で、チャイルドトレーラーには乗らない。
トレーラーの性能を十二分に発揮出来ないまま使用期間が終わってしまいそうである。

2点目の問題点は私の力ではどうすることもできないので、1点目の問題点を如何に克服するかである。

そのために、人見知りが始まった娘と一緒に、愛嬌を振りまく練習をしようと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?