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読書記録:「フードテック革命」(第4章)

ここ数年、食品分野での科学技術の進展に興味がある。技術リサーチャーとして働くようになり、業務として食品分野のリサーチに携わったことも、興味を深めた理由ではあるけれど、一番のきっかけは米国居住時代に、日本にはまだない新しい食の潮流に触れられたおかげだ。

もともと牛乳が合わない体質で(飲めなくはないけれどお腹はゆるくなりやすく安心できる場面でしかとらないようにしている)、そのせいもあり、カフェラテ系の飲み物はあまり好まなかった。それがアメリカに来てみたら、牛乳と同じくらい、ソイミルク(豆乳)やアーモンドミルク、ココナッツミルクという、いわゆる牛乳代替品が溢れているではないか。スタバのアーモンドミルクラテにハマった私は、そこから家でもラテを作るようになり、ミルクティーの登場回数も増えた。日本に帰ってきた今も、冷蔵庫にはアーモンドミルクが常備してある。

住んでいたエリアが、シリコンバレーという先端技術の集まる場所で、さらに多国籍という環境も大いに影響しているだろう。どんな場所でも、ビーガン、ベジタリアンに配慮した選択肢が存在していた。そう、ベジタリアンの入り込むスキなんてなさそうな、バーガーショップにも。

インポッシブル・バーガーの衝撃

「インポッシブル・バーガー」という名前を聞いたことがあるだろうか?
日本語で検索してもかなりの数のニュースがヒットする、今、日本でも注目されている動物由来原料を一切使わない代替肉のバーガーだ。

同製品を手がける米インポッシブル・フーズの創業メンバーインタビュー記事が、日経クロストレンドに掲載されている。(「フードテック革命」にも掲載されている内容だ。)

牛乳の代替品の多さに衝撃を受け、米国における食のトレンド、そしてそれを支える技術革新に大いに興味を持った私が、一番感動したのが、この代替肉技術だった。実際にハンバーガーとして提供されているインポッシブルバーガーを食べてみたが、それはこれまで日本で食べたことのある類似品(例えば豆腐ハンバーグなど)とは全然違っており、滴る肉汁の感じまで、かなり肉に近かった。(大の肉好きである夫に言わせると、本物とはずいぶん違うようだが。)

「フードテック革命」の第4章では、この植物性代替肉を始めとする代替プロテイン市場に関する最新動向を知ることができる。

代替プロテイン市場で何が起こっているか

第4章に入ってすぐ、代替プロテインのカオスマップにまず驚く。

以下サイトに掲載されているもので、本記事を書いているときの最新版(V2.9 2020年7月時点のもの、約200社掲載)が、本書の中に掲載されているもの。

実に多くの企業が代替タンパク質の開発に乗り出している。もちろんそれには理由があり、それについても、本書にまとめられている。食品を提供することに関連した社会課題は、つまり私達一人ひとりにも関わることだ。今の、畜産を中心とした動物性タンパク質の供給という仕組みにどんな課題があるのか、そしてそれを解決するために、欧米企業を筆頭としてどんな取り組みがなされているのか、まず知る良いきっかけになるのではないかと思う。

さらに、インポッシブル・フードを食べた時に受けた衝撃の背景にある、大体肉進化についても解説されている。本書では、代替肉進化について、肉らしさに近づけるという軸からレベル分けしており、これまでどんな代替肉があったのか、そして今この分野での技術革新が、次に狙っているものも知ることができる。

代替プロテインのカテゴリーと現在の先端プレイヤー

この分野の技術調査を始めたばかりの頃、少し混乱したことがある。それは、代替プロテインの用途と、代替プロテインを製造するための技術のそれぞれに、いくつかのカテゴリーがあるからだ。

例えば、代替肉の場合、用途は食用肉(既存の動物に由来する肉製品)の代替だ。一方で、技術としては、植物性プロテイン、培養肉のほか、動物性と変わらない特性を付与するための成分の一部を、微生物発酵(アルコール醸造などのように、酵母などの微生物が持つ代謝経路を利用して、所望の成分を生産する手法)によって製造しているケースもある。代替プロテインの用途の代表例は代替肉だが、他にも乳製品や卵製品といった食品から、化粧品やパーソナルケア製品原料など幅広い。

本書では、まず原料・製造手法の視点から、代表的なカテゴリーに分類し、その中でどんなスタートアップが、どんな技術をつかって製品を開発しているのかをまとめてくれているので、頭の整理におすすめだ。

日本における代替プロテイン技術開発の現状

さて、ではここ日本では、どうだろう? 

食文化の違いや社会的なニーズなどの違いもあってか、近年怒涛のように進む欧米での技術革新に比べると、とてもひっそりとしているように感じる。しかし、日本でも代替プロテイン技術を開発する企業やアカデミア、スタートアップが存在する。まだ数は少ないが、今後注目を集めると期待できるような取り組みが紹介されているので、ここも漏らさずチェックしたい。


発売後に買ってすぐ一読し、今回読書記録を書くにあたって、改めて読みつつまとめたおかげで、これまで仕事で調査した内容の記憶も含め、頭をすっきりと整理できた気がする。内容的には、ニュース等でも取り上げられるような企業や技術情報が多いので、すでにこの分野への理解が深い人にとっては物足りないかもしれない。私のように、半専門外から飛び込んで、細切れに情報収集してきた人や、これまであまり関心がなかった人には良い内容ではないだろうか。とはいえ、実に技術革新スピードが早い領域なので、今後もこまめに情報チェックしていかねばと思う。


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