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【My London Days】+【読書日記】

この本を読み始めました。

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イギリス・ブライトン在住の日本人保育士、ブレイディみかこ氏のエッセイ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の続編です。

↓最初の本。

まだ全部読んでいないのですが、第一章を読み終わり、思い出したことがあります。
それが、今日のタイトルです。
『スクイジー片手に近寄って来る女』

イギリスにやって来る移民

第一章『うしろめたさのリサイクル学』では、著者が「配偶者(アイルランド出身の男性)」の、いつか取りかかるつもりで家に置いているレンガや部屋用のドア、フローリング材の板、バスタブ(!)などのDIY用品が、一向にその「いつか」がやって来ないままガレージや庭に放置されているのに業を煮やし「片付けろ」と言うところから始まります。


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「スキップ」と呼ばれる産廃入れの鉄製コンテナを自宅の前庭に置いてもらい、然るべき期間の後、業者が来て不要物を運び去ってくれる仕組みだそうです。

このイラストを見れば、「ああ、あれね」と思う方も多いでしょう。↓

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ちなみに、アメリカ・サンフランシスコ在住の野沢直子さんも最近、利用したようです。
アメリカでは「ダムスター」と呼ばれていますが、イギリスの「スキップ」と目的、仕組みは同じですね。

で、ブレイディみかこ氏のお宅では、モノを捨てられない「配偶者」のおかげで遅々として作業は進まないのですが、ある朝、著者の自宅前にルーマニア人の移民一家がバンで乗り付け、スキップから鉄が付いた粗大ゴミを持って行こうとしました。
ふつうはスキップがあると、よその人が勝手に自分の不用品をそこに投棄していくのが問題だそうですが、移民たちは逆で、鉄は売れるのでこうやって持ち去ろうとしていたのだとか。

ここからは情に厚い「配偶者」と移民たちとの交流の話が始まりますが、最後のところで、私の体験と重なりじ〜んとしたので忘れないうちにあの出来事をここに残しておこうと思い立ちました。

雨の日の信号待ち

ロンドン在住時、私の愛車はフォルクスワーゲンのPOLOでした。
シルバー色の小型車で4ドア、ハッチバック。
後ろの荷物入れ(トランク?)にゴルフバッグは一つしか積めないほどのサイズ感ですが、私がひとりで乗るにはちょうど良い大きさで、雨が多く肌寒いロンドンでは私のbuddyでした。

ある晩秋、買い物だったか仕事帰りだったかの途中で大雨に遭い、交通量が多い幹線道路を慎重に運転して、もう数ブロックで住宅街の道に曲がるところでようやく雨が小降りになり、晴れ間も出て来ました。

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私が信号待ちしながら外を眺めていると、中央分離帯をひとりの女性が歩いており、停車している車の窓を手にしているスクイジーとタオルで拭いているのが見えました。
女性は30代ぐらいで、小花柄の長いスカートにえんじ色だか茶色だかのニットを着て、長い髪は後ろで束ねていました。
窓を拭き終わると、車の窓が少し開いてお金が差し出されていましたが、お札ではなくコインなので、多分、50セントか多くても1ポンドでしょう。
お金をポケットにしまうと、女性ははにかんだような笑顔を運転席に向け、その後ろの車に向かいました。

私の数台前まで女性が来た時、ものすごくドキドキしました。
窓を拭いてもらうつもりはなかったので、断りたいけどどうやって断ったらいいのだろう?
窓を開けて「no thanks」って言うのは危なくないか?
アジア人のしかもまだ若い女性だとわかると、何か嫌がらせをされるのでは?
そんなトラブルの話は時々耳にしていました。

そこそこの交通量がある幹線道路で信号待ちをしていると、中央分離帯や舗道から東ヨーロッパ系の移民男性たちが近寄ってきて「窓を拭いてやる」と、勝手に小汚い雑巾で車の窓を拭き、小銭を要求する。
断ると、窓ガラスを叩いたり、車を蹴ったりする。

今、そこで窓を拭いている女性は東欧人っぽいけど、穏やかというか無気力に見えるし、そんなに強引そうにも見えない、話せば分かるタイプ?

いや、でも関わりたくないな。

そう思いつつ、周りの車を眺めていると、女性が近寄ったある車の主がすばやくワイパーを動かしました。
すると女性は、その運転席に軽く手をあげて通り過ぎ、次の車に向かいました。

そうか!ワイパーを動かすと、「no thank you」の合図なのね!
そうと分かると胸のドキドキとハンドルを握る腕のガクガク、足のワナワナがかなりマシになりました。

女性が私の前の車に取り掛かろうとした時、信号が青に変わりました。
中央分離帯に身を引いた女性の横をゆっくり通り過ぎながら見ると、彼女のニットからのぞくブラウスの襟がきちんと立っているのに気づきました。
アイロンがけしてあるのかも。
大きな目と長いまつ毛が美しく、お金をもらった時に見せた恥ずかしそうな笑顔から、もしかして、のっぴきならない事情があって自国を出なくてはいけなかった人なのかな、とも思いました。

彼女がルーマニア人だったかどうかまでは知る由もありませんが、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の第一章を読んだときに、スキップから鉄屑を持ち去ろうとしたルーマニア人一家と彼女が重なりました。
第一章に出てくる移民は、一度「配偶者」からもらったモノを「もう自分たちには必要なくなったから」と返しに来るのです。

一度はもらったもの。
売ることだってできたのに、わざわざ返却に来るところに彼らの矜持を感じました。
あるいは、心優しいアイルランド人と心が通い合っていたのかもしれません。

続きを読むのが楽しみです。

野沢直子さんのブログとYouTubeもおもしろいですよ。
なかなか海外旅行に行けなくなってしまっている昨今、アメリカ暮らしの日常が見られるので、気に入っています。


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