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【読書日記】 羊は安らかに草を食み 宇佐美まこと 著

みなさま、新年あけましておめでとうございます。

2022年が元気を取り戻せる一年となりますように。

今年、最初の【読書日記】は「羊は安らかに草を食み」です。

反戦小説かも

読み終わったときに、この小説は反戦小説だと感じました。

日本の敗戦が濃厚になった昭和20年8月上旬、北満(満州北部地区)で暮らしていた人々がソ連軍の攻撃から逃れるため、そして、日本へ帰還するために葫蘆(ころ)島という軍港に行き、そこから日本への引き揚げ船乗船を目指すための、過酷な行程をスタートさせます。
現実にあったとは思えない悲惨な日々をたったひとりで生き抜いた「益恵」の過去を振り返る話です。

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あらすじ

俳句教室で出会ったアイと富士子はある日、同じ俳句仲間の益恵の夫・三千男から、益恵を旅に連れて行って欲しい、と頼まれた。
20年来の俳句仲間の益恵は認知症が進行しており、三千男も高齢で妻の世話が難しくなってきたので益恵を施設に入れることにしていた。
その前に、三千男は妻の人生をたどる旅をさせてやりたい、と考えていたが、高齢夫婦の旅は厳しいので、気心の知れたアイと富士子が益恵を連れ出してくれないだろうか、と三千男は頼んだのだった。

満州から佐世保に帰還した益恵はその後、東京で三千男に出会うまでいくつかの街で暮らした。
優しく思いやりのある性格の益恵はどこでも愛され、趣味の俳句を通して友人も多かった。
その友人たちにアイと富士子が手紙を出し、益恵の現状を伝え、訪ねて行くのでぜひ会って欲しい、と頼んだ。

認知症が進んでいる益恵は、三千男やアイ、富士子の前でときおり「カヨちゃん」という名前を口にした。
手土産のお菓子を益恵にすすめると、半分を取っておいて「これはカヨちゃんにあげなくっちゃ」と言うふうに。
「カヨちゃん」が誰なのか問いかけても益恵が答えることはなく、皆はこの旅で「カヨちゃん」と益恵が再会できれば、と願った。

人に歴史あり

70代後半から80代後半の老女3人の旅。
東京を出発し滋賀県から松山、そして九州の離島へと旅は進んで行きます。
現代と昭和20年の章が交互に描かれ、同時にアイや富士子が抱える事情や悩みも織り込まれており、やがて誰にも必ず訪れる老後がリアルに感じられました。

最終章で、ええ〜っ!?と驚く益恵と「カヨちゃん」の秘密が!

そして、老人は決して弱く頼りない、手を差し伸べなくてはいけない存在ではない、とも感じました。

特に敗戦時の混乱を生き抜いた経験がある人たちは、体の衰えこそあるでしょうけれど、優しさと厳しさ、精神力の強さ、そして時流を読む鋭さなどは私たちとは比較にならないと思いました。

推理小説ではなく、ただ益恵の人生をたどる話なのですが、そこに巧妙なプロットがなくても、80余年生きてきた人にはその歴史がドラマなのだと読んでいて感じました。

最初に、「反戦小説である」と書きましたが、益恵が詠んだ俳句がつなぐ次の章は、満州開拓団が敗戦後、大変な思いをして日本に引き揚げてきた様子が描かれているからです。

タイトルは、死と隣り合わせで生きて日本の地を踏んだ益恵が、年老いて認知症になった状態を現しているのかな、と思いました。

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