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消えた夫

薄暗いcafeの店内
私の好きなウォールナットの色のテーブルに白いコーヒーカップ
前には夫が座っている
二人ともに携帯をいじりながらコーヒーを飲み、いつもと変わらない会話をしていた

突然、夫が目の前の視界から消えた
え?
いない・・・・
瞬間移動しちゃった?
どこに行ったの?
え?
それとも私が タイムワープしたの?
まって ちょっとまって・・・

すると 
夫の手のひらだけが私の手の甲の上に乗っかった。
温かさを感じる。
しかし身体はそこにはない。
どこかへ消えてしまっている。
手だけがそこにある。

「どこにいるの?」

夫に問いかけても 返事はない。
夫が座っていた席の前には さっきまで触っていた携帯がそのままで置かれている。
「ねえ 戻ってきて なにしてんの?」
そう聞いた次に瞬間 
手までも消え去った。

私は不思議と 怖くはなかった。

それよりも
ああ そういう事かもしれない
と 思った
 夫は行ってしまったのだ。
 私からは見えない世界に。
 永遠に交わることのない
 どこか別の世界に行ってしまったのだ。 


私は考えた
これ 夢よね?
嘘だよね?

しばらくすると
何処から来たのか 3人の男女がやってきて
「さて どうなさいますか?
死亡時刻が 選べますが いかがいたしましょう?」

私は言った
「待ってください。
これはたぶん夢なので、だから 夫は戻ってきます」
しかし彼らは続けて言った

「いえいえ、皆さんはじめはそうおっしゃいますが
これは現実に起こっていることなので
決めていただかないと 次に進めません」
さらにつづけた
「それに伴って 葬儀の日時も変わってきますので・・・」

はっきりと 「葬儀」と聞こえた。

やめて!!
絶対に夢だから 
これ以上 話を進めないで!!

さっきまでは冷静だったが
急に寂しいという感情が こみあげてきた

次の瞬間に
目が覚めた

ああ
よかった
ほんとに夢だった。
横には 夫が イビキをかいて眠っていた
いつもはうっとしく感じる イビキも
今日だけは 安心できる音だった。


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