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中央アジアの警察機関に関する研究書評 4月27日

『キルギス共和国の警察改革における市民社会アクターの役割と実践: 行動主義、専門知識、知識生産』”The Roles and Practices of Civil Society Actors in Police Reform in Kyrgyzstan: Activism, Expertise, Knowledge Production” Philipp, Lottholz.

【選択理由】警察組織(治安機関)の信頼性を醸成する警察改革の制度的な限界を理解するため。また国家゠治安機関゠市民の関係において、政府が主導する警察改革に加えて、市民が参加する警察改革を分析することで、より警察組織の民主性や参加性が向上すると考える。また市民参加が警察改革に如何にして、どのように影響を及ぼすのか調査する。

【本論内容】世界的なテロ対策への関心の高まりから警察改革に関する文献は増加している(したがって地域間の比較も可能である)。何れの文献でも①統治主体②治安機関③有識者によるトップダウン型の管理・運用ではなく、(前回の書評でも登場した)「民主的な警察」および「民主的な統治」との組み合わせを推奨している(ボトムアップ型)。また民主性に加えて「参加性」の特性も重要であり、抽象的な構造改革と実際的な組織改革に参加することが含まれている。しかし大部分の警察機関は従来のトップダウン型の組織改革を支持しており、民主性や参加性の確保に必要な能力や経験、知識、スキルが欠如していることが確認できる。そのため非政府機関や非専門家といったアクターの関与による影響は、知見が不足しているだけでなく、測定が困難だという課題点がある。階層化゠安全保障では各組織の所掌する領域を確定して、領域に対する説明責任を課す必要がある。先行研究では非政府機関や非専門家は社会的資源を消費することで政治的に動員して、説明責任を果たすよう治安機関に圧力を加える、あるいは政策や法律を治安機関と共同して決定することが期待されている。しかし実際には当該のアクターは加圧や決定から排除される、あるいは反対に政府から操作されることで、国家中心の懲罰的な秩序の形成を支持する「安全保障の異端者」となる可能性がある。なぜなら治安機関の社会的役割と権限の制約を決定する上で、意思決定者は潜在的な脅威―喪失する、あるいは喪失すると予想される政治・経済的資源―を回避するからである。したがって非政府組織や非専門家を関与させ、状況適応した政策立案の重要性を認識している場合でも、考慮すべき市民社会と地域住民の知識と要求を無視して、国家中心的な手段に依存することになる。前回の研究書評で扱ったジョージアとキルギス共和国に加えて、カザフスタンとウクライナは警察機関や社会的慣行、横断的な文化により、国家エリートと社会的利益の競争関係の結果が警察改革に反映されている。また中南米の政治体制は世界的な「地域社会における警察活動」という概念を取り入れることで、厳格かつ懲罰的な警察活動を正当化している。両方の地域において国民と治安機関の関係を改善する取り組みには関心が払われず、非政府組織や国際機関、国際的な資金提供の影響を相対的に受けていない(?)。なぜなら知的生産と政策決定は必要な社会像と権力を確保するため、アクター間の政治的な競争に支配され、戦略的に政治動員される可能性があるからだ。結果として警察改革を含む安全保障の知的生産が「証拠に基づいた政策決定」ではなく、「政治に基づいた証拠の作成」に終始している。以上から「必ずしも成功は保証しないが、考慮すべき重要な要素である」科学的な知識が警察改革には必要である。しかし政府は科学的な知識が欠如した政策を選択する、あるいは科学的な知識に基づいた政策を妨害する場合があり、当該地域においても市民が参加する警察改革の遅延が確認される。また政策決定者は自身の資源やチャンネル、有効な関係に依存しているため、科学的な知識には基づかず議題を追及することとなる。専門家の知識は時として標識や帰属意識の表明に過ぎない場合があり、「活動家」による知的な生産活動が重要な場合がある。専門家や政策課の改革は国際的な影響から既存の政策を保護するのに徹して、象徴的かつ表面的な実施に留まっていた。むしろ政治改革の失敗は統治エリートに対して有利に働く場合すらある。また市民や国際機関と政府の対話プラットフォームは見かけ上は機能しているように思われるが、実際には管理能力の欠如から有効ではなく遅滞を生じさせる可能性がある。活動家には警察が主導する改革の代替手段を提供するには有効性に限界があり、また活動家と政府関係者との間に摩擦を反映している。活動家の痛烈な批判に対して政府は一般的な反応や説明しか行わず、それでいて活動家を政府の要求に従わせ圧倒しようとする。そのため警察改革の過程における資源の任務、権限、責任といった要素の再分配の状態から、警察改革に対して(だれ???)が反対しているように捉えられる。
活動家と専門家の間では世代的なまた、専門領域での懸隔が存在する。閉鎖的な専門的知識の交換の場所やソ連時代から崩壊直後の古い安全保障の考え方、ルールや権力に縛られた専門家にとって、革命や外部の研究に触れた活動家の言動とは反対が巻き起こる。双方には明らかな社会的距離が存在しており、専門家は活動家の介入を厄介だと感じており、交渉の場で明確な敵対行為に繋がる可能性もある。「共通言語(理解)」が見つからない場面は安全保障の分野だけに限らない。しかし治安・法執行と市民の領域の分岐点は明確である。とりわけ前述の内容とは明らかに異なるが、、、、活動家や組織の専門知識は不十分ではなく、実際に達成が可能な内容より上の要求をしている。このことはOSCEといった外部の機関からも指摘されている一方で、専門知識の不足が参加を認めない口実ともなっている。治安機関の要因は自身の安全保障に関する知識とキャリアを自負しており、これは他の領域や地域にもまた適合するであろう。活動家や組織は専門知識を獲得して自身の能力を証明することで彼らを納得させることができる。また橋渡し役となる退官した職員を会議に組み入れることも重要である。彼らは現在の立場を気にする必要がなく、活動家や組織に専門知識や目標・課題を提供することに寄与する。いずれにせよ段階的に相互を理解しながら交渉を進行することが重要である。
ただし安全保障かつ閉鎖的な体制では活動家や組織の関与は限定的なものになる。活動家や組織は単純にアジェンダに従って政府の取り組みに参加するのではなく、成果という「事実を動員する」ため組織の募集活動や政策の実施過程に取り組むことで、挑戦的な取り組みに対する理解を深めてもらう。また治安機関だけでなく地方自治体の代表者を説得する必要もある。
プログラムには協力や速度に差異はあるが協力が十分に得られないプログラム同士の場合は差異が大きくは生じない。これは参加する構成員の属性の多様さにも関係している。また地域議会や地域団体の影響力が強い自治体はプロジェクトの実施が注目されない場合がある。麻薬密輸や不法所持などセンシティブかつ困難な問題はコミュニティの同意を得られない場合がある。宗教過激派や若年者の犯罪は地域の犯罪防止や市民社会の活性化(コミュニティ安全保障の最初の一歩)になりやすい。しかし研究対象とした地方自治体の要には他の自治体での同じ成果が得られる可能性は低い。したがって治安機関や地方自治体の職員から理解や協力を求める必要がある。また構成員の属性や規模が増大するほど、どの主体が関与した結果であるのか、判断することが重要となる。「共同安全保障」の概念は地方自治体と市民社会、そして社会全体、治安機関の協力を通じて共同のセキリュティの提供を促進する(「関連するすべての利害関係者が公の秩序の保護に参加する」)。また警察改革が地域コミュニティから、どのようにプログラムが捉えられ、実際に改善するのかに役立つ。安全を提供するために実行される慣行は、社会内の一部のグループの安全を最終的に制限したり、害したりする可能性のある抑制的または懲戒的な性格を持つ可能性がある。共同安全保障には主体となるコミュニティに特有の排他的で抑圧的な性質がある。まず市民団体は警察改革に関する議論の一役を担い②警察改革を含む警察の課題に明確にして③教育機関や社会機関の緊密な関係を醸成した。
クー(おそらくキルギス革命)後の国家段階における改革は進行しておらず、政府と内務省による改革プロセスの漸進的な再独占が開始された。またシステムの改革という名目で改革プロセスにおける市民参加は更に限定された。最初は政府と官僚のチャンネルだけが強化され、市民団体の排除された議会が開催された。しかし内務省が実権を握ることとなり、首相が市民参加の重要性を強調したことで表面上は改革が部分的に成功したと言える。しかし改革は表面的で部分的な修正に終始したことで、依然として内務省の中枢が警察改革を支配している事実は変化しない。官僚や閣僚のリーダーシップに支配されたままで分離されなかった。警察改革に貢献した首相が安保会議により拘束され、続く改革にも共通して反自由主義的な傾向が観察できる。ともかくジェーンベコフ政権の下では透明性があり説明責任を果たす機関を政府が主導となって、また市民参加を経て形成することは困難であった。
市民団体はビシュケクを管轄する内政局と称されるパトロール組織の創設に貢献した。しかし当局間のコンセンサスに変化は生じなかったが、知的生産と継続した改革が有効であることを示す根拠が得られた。そのことは政府の監視機能や意志決定権を内部に留めて、有効性が確認された市民参加を看過しないこととなった。キルギスの制度的発展において経路依存性が強力であり、非国家的な主体は実績(専門性を問わない共通の言語)の有効性がある。

【内容総評】非政府組織が充分に機能していない中央アジア諸国では、非政府組織はむしろ現体制の維持に利用されるのではないか。前回の研究書評では国際的(特に同地域を戦略的な地域と認識しているアメリカ)の資金提供が、警察改革に対して有効だったと結論が述べられていた。しかし本論文では前回の研究書評で扱った論文を引用しているにも拘らず、国際的な資金提供の影響が相対的に少ないと述べられている。

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