中央アジア諸国における警察組織に関する研究書評

①『ソビエト時代から僅かに改善した警察組織』
②『中東・中央アジア諸国における権力構造―したたかな国家・翻弄される社会―』
 「カザフスタンにおける地方政治エリート」
 カザフスタンでは党要職や行政職の経験者が政治エリート候補だが、キルギス共和国では政治エリートが存在しないと指摘されている。理由は社会的エリートが政治領域での成功より、開放性のある経済領域での成功を追求するからだ。キルギス共和国はカザフスタンより多元的な社会であることが確認できる。
 ただし①の前後から本格的に開始された警察改革は、2020年の現ジャパロフ大統領によるクーデタで停滞した。具体的には警察改革により組織に課されていた監査や評価が徐々に撤廃された。しかし2005年のクーデター以降から既に同国の制度運用における自由化や民主化の程度は逓減している。
 報道機関や市民社会の弾圧が開始されたのは、現大統領が権力を簒奪した2020年の「革命」が契機ではない。他の事例も含めて一部の「色の革命」が権威主義を擬装したという認識が必要である。従って先行研究の指摘に倣い権威主義体制でも機能する警察改革が必要である。
 然る上はソ連時代の構造を継承した警察組織の規模が一貫して拡張していることに問題が認識される。一方で警察組織は内部統制を強化するため、国内の軍事組織より遥かに強力であり、変化に乏しい安全保障分野の好例である。他方で国民は警察組織を他の組織犯罪と同一視して、強化された社会的介入に対する反応が減少している。
 警察組織は国家の行政機関および制裁手段(治安サービス)のうち、最も国民にとって身近な政治的装置あるいは行政サービスの一種であり、社会や国家に及ぼす影響は大きいと考えられる。国民の信頼感を喪失する警察組織の行為は汚職である。汚職には日常的な空間での「低度な汚職」に加えて、重要な治安サービスに支障を及ぼす「高度な汚職」がある。例として警察改革での内務省職員の着服、あるいは組織犯罪グループとの癒着が該当するだろう。
 警察組織は経済領域の一部を掌握しており、政治的な役割の肥大を助長して、経済発展を阻害している。国際危機グループ(ICG)のルイス氏に拠れば、2種類の汚職は「統治の問題」であるため、構造改革に着手する指導者が必要だと指摘している。
 ルイス氏は報告書の内容に加えて、タジキスタンでの警察職員の麻薬密売への加担、及びキルギス共和国での警察組織による少数派の抑圧を紹介している。以上からもキルギス共和国に対する直近の批判的な分析を、広範囲かつ通時的な認識に拡大すべき理由が確認できる。ウズベキスタン(カリモフ政権)では警察組織が拷問や弾圧に加担しており、警察組織が最も深刻で政府(それ自体)の改革が必要な国家である。
 キルギス内務省の広報官はICGの報告書へ最初に反応して、報道官は現職の構成員や組織的な犯罪への関与は存在しないと全内容を否定した。広報官は報告書が政府を毀損する内容だと非難したが、調査者は警察改革の議論を進展させるには時間を要すると指摘している。


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