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ジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』雑感

・はじめに
 先日ジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』を再読しました。
 そこで感じたことは、「いかに自分が以前読んだときに『読めていなかったか』」です。
 以前読んだときは、文体のグルーヴ感と緻密な構成に圧倒され、内容をおおよそ把握するまでに至っていなかったように思います。
 そこで、ここでは『ホワイト・ジャズ』について思ったことをつらつらと書いていきたいと思います。

・文体
 
一部の方には周知の事実かも知れませんが、『ホワイト・ジャズ』の文体は冲方丁氏の生み出した「クランチ文体」の影響元です。
 『ホワイト・ジャズ』では/、=、––––、体言止め、単語の羅列、現在形で終わるセンテンス、突然大きくなるフォントなどを多用し、まるで呪文のような文体になっています(引用は色々あってちょっと難しいのですが)。
 一人称でつづられる文章は、「意識の流れ」というより、「意識の途切れ途切れ」といっていいかもしれません。
 最初のうちはとっつきづらいかもしれませんが、読み進めるうちに圧倒的グルーヴ感で読者を惹きつけます。
 書評家・翻訳者の大森望氏は、日本のライトノベルの文体に大きな影響を与えた海外作家・作品として、レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』(清水俊二 訳)、ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』(黒丸尚 訳)、そしてジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』(佐々田雅子 訳)をあげています。

・内容
 『ホワイト・ジャズ』はLA四部作の最終作にして、警察ノワール小説の大傑作だと思っています。
 本作の主人公は一人称のデイヴィッド・クライン警部補ですが、裏の主人公は前作からの登場人物であるエドマンド・エクスリー刑事部長、そしてシリーズ通しての悪役であるダドリー・スミス警部でしょう。
 「悪役」と書きましたが、この作品には「善人」と呼べる登場人物がほぼ存在しません。クラインも裏組織の殺し屋を兼任したり、賄賂をもらったりしていますし、エクスリーもとても善人とは言いがたい。他の登場人物も同様です。
 勧善懲悪なスカッとする犯罪小説が読みたいのなら、この作品は向いてないのかもしれません。そんな登場人物たちが、「ぐるぐるまわって落ちて」いきつつ、自分の筋を通す作品です。
 エルロイの暗い情念とロマンティシズムが垣間見える、ノワール小説の金字塔と言えるでしょう。
 あと、ノワール小説というと暗い感じがすると思いますが、この作品にはエルロイによってしかけられた一種のユーモアが点在しています。陰惨なのに笑えてしまう、ここが魅力の一つと言っていいでしょう。 

・最後に
 ジェイムズ・エルロイの魅力を簡潔に記したものとして、以下のリンクの電子書籍があります。
 ご興味のある方はぜひダウンロードされてはいかがでしょうか(無料です)。


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