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【第17章】企業も変化できるものだけ生き残る時代。でもどうやって変化する?

本章の最後では、現代の経営学で注目されている一方理論としては確立されていない「ダイナミック・ケイパビリティ」を扱う。現代は変わり続けることが必要ということには多く人が賛成すると思うが、それを実行することは非常に難しい。例えば1892年に総合電機メーカーとして設立されたGEはその後、航空機エンジン・医療機器・産業用ソフトウェアなどを扱うコングロマリットになった後、金融・家電部門を引き離し、IoTに資源を集中投下したものの業績は順調とはいえない状況にある。
アメリカではS&P500に組み込まれた企業の大半が15年で消滅するという調査結果もあり、それほど事業変化と競争が激しい時代となっているのである。※この環境を「ハイパーコンペティション」とも呼ぶ。

このような変化に対応していくどうしたら良いのか、を明らかにしようと試みているのが「ダイナミック・ケイパビリティ」(動的に様々なリソースを組み合わせ直す企業の能力)の研究だ。この研究には大きく2つの流れがあり、以下にそれを紹介していきたい。


ティース型

まずはティース型から解説する。彼が『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』に発表した論文こそ、初めてダイナミック・ケイパビリティの明示的に定義し、その必要性とメカニズムを提示した。そこでダイナミック・ケイパビリティの基礎付けとして提示したのが、センシング(感じる力)とサイジング(捉える力)である。
センシングとは「事業機会・脅威を感知する力」のことだ。これはカーネギー学派が提唱する「サーチ」(認知に限界のある組織が、その認知の幅を広げる行動)とほぼ同義と捉えてよい。ダイナミック・ケイパビリティを高めるには、企業はなるべく遠くの事業機会・脅威までをサーチした方が良い。
さらに、センシングにより感知した事業機会を実際に「捉えること」をサイジングという。具体的には、例えば遠くの事業機会に投資することがこれにあたる。

事例:IBMのもつダイナミック・ケイパビリティ

センシングとサイジングの力のもつ代表例と言われたのがIBMだ。1970年代・1980年代はメインフレーム業界で世界ナンバーワンだったが、やがてパソコン・サーバー事業を展開し、一方で1990年代以降はこれらの事業を大胆に変革し、ソリューション事業中心へと転換した。この成功の背景には、1990年代からのIBMに以下のような施策が組み込まれていたことが要因としてある。
①IBMのセンシングの施策
1.Mgrクラスの戦略立案の巻き込み
ガースナー就任以前は戦略計画は専門家が大半を占めていたが、就任後は実戦経験豊富な事業部門がゼネラルマネージャーを占めるようになった。これにより、現場のナマの情報を扱われるようになり、事業機会を感知できるようになった。
2.ディープ・ダイブ
事業課題に直面するマネージャーからの要請で形成され、マネージャーと戦略部門の人々が共同で徹底的に問題会や戦略的意思決定を行うプロセス。
3.ウイニング・プレー
時期経営リーダー候補約300人が、部門横断型の課題の解決に当たる。この取り組みを通じて、前線で得られた事業機会の共有とセンシングがIBMで行われる。
②IBMのサイジングの施策
1.新興の事業機会(emerging business oppotunities:EBO)
新規事業の実践のために、既存ビジネスとは独立した組織・予算で行われるプログラム・施策の総称。その多くは失敗で終わるが、ライフサイエンス事業は2006年に約50億ドルの事業にまで成長し、大きなビジネスに発展した。
2.戦略的リーダーシップフォーラム
3.5日かけて行われるリーダー育成のためのワークショップ。役員が課題を提示し、リーダー候補は分析とアクションプランの作成を行う。作成されたプランは実際のビジネスにも反映される。
3.コーポレート・インベストメント・ファンド

新規事業に振り分けられる約5億円ファンド。このファンドは、「年次予算編成に組み込まれない事業」となっており、中国・インドなどの新興市場の人材開発に振り分けられてきた。

その他の事例では、アマゾンは事業の共食いを推奨しており「もっとカニバリゼーションを起こせ!アマゾンの既存事業を潰せ」とジェフ・ベゾス自らメッセージを発信しているそうだ。

シンプル・ルール戦略

一方でもう1つのアイゼンハート型は、ルーティンに基づいた側面を強調した考え方をもっている。ルールの骨子は「変化が激しい環境下で企業がダイナミック・ケイパビリティを発揮するには、数を絞ったシンプルなルールだけを組織に徹底させ、後は状況に合わせて柔軟に意思決定すべき」というものだ。行動規範・優先順位などを限られた大枠だけ(シンプル)にして、それをルーティン化しておけば、意思決定者・マネージャーは、大きな環境変化のもとでも、本質的な部分は足並みをそろえ、他の様々な予想外の事象には各自が柔軟に対応しうる。
事例となるのはコンピューターのインテルのシンプル・ルールだ。1980年代日本の半導体メーカーが低価格戦略で席巻し始め、環境は変化した時「メモリーの粗利率が下がってマイクロプロセッサーの粗利率が上がるなら、マイクロプロセッサーを増産する」というシンプル・ルールを徹底し、効果的な資源配分を行うことに成功した。

ダイナミック・ケイパビリティを育てるのは個人か、組織か

ここまで2つの説明をしてきたが、2つの大きな違いは「ティース型」はダイナミック・ケイパビリティは個人に宿ると考えているのに対し、「アイゼンハート型」は組織に宿ると考えている点だ。
この点について特に正解が出ているわけではないが、「ティース型」の次世代リーダー候補にサーチをさせるような取り組み、「アイゼンハート型」もバリューを浸透させ細かい意思決定任せる考え方、どちらも全く新しい考え方ではないと読んで感じた。
研究結果を待つより、自分なりに企業に応じた良いバランスというものを追求していきたい。


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