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【第10章】不確実な社会を恐れず楽しむためのリアル・オプション

※「世界標準の経営理論」で学んだことのメモ一覧はこちら

この章では経済学をテーマにした最終章として、リアルオプション理論を紹介する。リアル・オプションは、金融工学のオプション取引に起源がある。ファイナンス分野では、1970年代からオプション投資理論が発展してきた。その先駆けとなったのが「ブラック・ショールズ方程式」である。同方程式を開発したマイロン・ショールズとロバート・マートンは1997年にノーベル経済学賞を受賞している。
※「ブラック・ショールズ方程式」とはざっくり説明すると、例えば金の価格(オプション=将来価値)が3か月後にいくらになるかを教えてくれる方程式のこと。(らしい)ただ、色んな変動要因があるので必ずしも当たるわけではない。
今回はファイナンスの数理モデルを知ることが目的ではなく、「オプションの基本ロジック」を応用して、これまで説明できなかった企業行動のメカニズムやあるべき戦略を明らかにすることを目的としている。
(そのため、詳しく知りたい方は専門書を読んでいただきたい。)


図1リアル・オプションと不確実性の4つの種類

リアル・オプションは何がすごいのか

近年の研究で革命的なのは、これまで出来ていなかった「事業環境の不確実性」を事業評価に生かす術を提示したことにある
例えばの例として、日本メーカーが2020年に新興市場のミャンマーで今注目されているコーヒー事業を始めようとしており、現地にコーヒー駅をインスタントにするための100万ドルの工場建設を検討しているとする。こんな時、過去の考え方だと建設した後に回収して黒字になる計画があるなら投資すべきだし、それが見えない投資すべきでないという考え方だった。しかし、今の研究では2%~20%がありその中で過去データから8%の成長がされ、もし8%成長するなら黒字になるという目途が立つ時、「まずは4割規模の小さい工場をつくってみよう」という投資判断をする。そして、3年経ってやはり成長が見込めるなら6割の追加投資を行い、見込めないなら撤退するという考え方が提示されるにようになっている。
つまり、不確実な状況に対して、幾つかオプションを出すことでリスクコントロールし、成長する市場に挑戦できる考え方を見出したのだ。このような考え方をリアル・オプションである。

リアルオプションを検討することのメリット

1.ダウンサイドのリスクを抑える
これまでだと100万ドルか0かの2択で投資を考えるしかなかったが、この考え方が考案されたことで最初は小さく初めてだった時に早めに撤退する、ダメージを最小限に抑えつつ勝負ができるようになったことのは、大きな変化である。
2.アップサイドのチャンスを逃さない
一旦小さく初めて想像以上に市場が成長してきた時に乗り遅れずにチャンスを掴むことができるのも1つのメリットだ。金融工学では「ある企業が一定値まで上昇した時に、その株をもともと決められていた価格で買える権利」=コール・オプションという言葉がある。ミャンマーの工場への投資もコール・オプションと考え方は似ていると言えるだろう。
※コール・オプションを行使する際にかかるコストは事前に見積もっておく必要がある。市場から株を集める必要がある場合、株価が上がることでコストを膨れ上がり旨味が薄まるケースがある。
3.不確実性が高いほど、オプション価値は増大する
上ブレするポテンシャルが大きいほど、オプションを活用する価値は向上する。最初に4割の工場の生産をすることは、最大20%の市場成長が見込める可能性の波に乗れる可能性があるというのは非常に大きい。
※逆に市場が成長するポテンシャルが場合、オプションを活用するメリットは薄くなる。
4.学習効果
成功/失敗どちらにしても市場の潜在性や顧客の嗜好についての情報を収集できることで事業環境への不確実性は下がるのでその経験値は企業にとっての資産となる。

さらに筆者は日本ではさらに重要になってくると述べている。理由は2つだ。
1.不確実性の高まり
グローバル化・規制緩和・技術革新のスピード化により、日本における事業環境の不確実性はさらに高まることが予想される。そのため、少し前に話題になった「リーン・スタートアップ」(著エリック・リース)の「不確実性の高い環境下では、とりあえず実用最小限の機能の製品を作って売り、市場の反応を見て、製品を買えながら再投入するサイクル繰り返すべき」でも書かれている通り、リアル・オプションの考え方を取り入れることが重要となる。
2.起業の活性化
日本において企業支援する機運が高まってきている。それに伴い、リアル・オプションで事業がうまくいかなかった時の対応についてもリスクを限定的にするような仕組みが出来てくる時、その考えを活用した企業家の誕生も増加していくかもしれない。

不確実性の4つのレベル

最後にここまで不確実性という言葉が使ってきたが、リアル・オプションの活用について考える参考となるよう、メリーランド大学のヒュー・コートニーが提案した「不確実性のレベル」について紹介したい。
(詳細は表を参照。)
レベル1:確実に見通せる未来
これは今までの考え方で戦略を検討する上では、確度の高い予測が求められていた。
レベル2:他の可能性もある未来
リアル・オプションという考えを取り入れられるようになり、将来について幅を持って検討し、複数の可能性について戦略を検討することで、不確実性の高い状況への対応が可能になった。
レベル3:可能性の範囲が見えている状況
環境はかなり曖昧で起こりうる可能性の幅を上げることは出来ても、具体的に複数のシナリオに落とし込むのが難しい状況。起こりうる範囲の幅が広すぎるとリアル・オプションの活用は難しい。
レベル4:全く読めない未来
何か起きる関係者も絞り込めない状況。この状況では戦略を立てることが難しいため、検討の範囲を絞り込む必要がある。

ここまで書くと必要なのは不確実な状況を見抜く力が重要になってくことは感じていると思う。ただ、どうすればそれが身につくのかについては、事業環境を「いかに正確に認知できるか」に尽きる。そのために鍛えるべきことは認知心理学であるため、第2部以降で詳しく説明をしておきたい。


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