【第18章】最新のリーダーシップ理論は「みんながリーダー」

本章では「リーダーシップ」の理論を説明している。ある調査によると現在、研究などによるリーダー育成業界の規模は約3660億ドル(約40兆円)に及ぶそうだ。今回の投稿では、章全体の中でリーダーシップの定義について触れた上で1980年代以降のリーダーシップ研究についてのみを抜粋して紹介
していきたい。



そもそもリーダーシップとは何か

そもそもの話だが、リーダーシップについて学術的な定義は完全には定まっていない。時代ごとに求められるがかわるごとがその理由として考えられる。参考までにリーダーシップ研究の第一人者であるニューヨーク州立大学ビンガム校のバーナード・バス教授による定義を記しておく。

リーダーシップとは、状況あるいはメンバーの認識・期待の構成・再構成がしばしば行われる(二人以上のメンバーから成る)グループにおける、メンバー間の相互作用のことである。この場合リーダーとは「変化」を与える人、すなわち他者に対して(その他社がリーダーに影響を与える以上に)、影響を与えることを指す。グループ内のある人が他のメンバーのモチベーション・能力を修正する時、それをリーダーシップと言う。(筆者意訳)

出典:「世界標準の経営理論」(著:入山章栄)

1970・80年代~:リーバー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)

LMXはリーダーと部下(メンバー)の心理的な交換・契約関係に注目する。
以前のリーダーシップ研究では、リーダーの個性はどの部下にも同じように影響を与え、同じような関係性を築く、という暗黙の前提があった。
しかし、LMXでは部下によって関係性は変わることに着目し、どうすれば関係性を高められるかを明らかにした。

内容は以下の通りだ。
1.リーダーは新しい部下が来ると役割業務の期待を伝え、に対して、一定の目標を設定し、パフォーマンスに応じて報酬・評価を与える。
2.部下も「リーダーが期待する仕事を与えてくれるか」「適切な評価をしてくれるか」など観察し、満足なら忠誠心を持って懸命に働き、不満があれば交渉するか、業務を怠慢にこなす。
3.部下からの指示を懸命にこなし、パフォーマンスが上がるとリーダーはそれを高く評価し、部下もまた懸命に働く「心理交換・契約の好循環」が生まれる。
4.逆に不満を持つメンバーが。低いパフォーマンスが出すと、リーダーは低い評価を下し、より怠慢に業務をこなす「心理交換・契約の悪循環」が生まれる。

このようにメンバーによって信頼関係に差が生まれる状態を、平たい日本語で表現すると「えこひいき」になる。このようなメカニズムについて、悪循環に陥っていても「LMXを高めるための部下へのコミュニケーション手法」を教えることで、関係がたかまることも確認されている。
具体的なコミュニケーション手法は以下の通りだ。
1.部下の悩みや課題を聞き出す、アクティブリスニング。
2.アクティブ・リスニングを通じて部下が出してきた課題に対して、自分の考えを押し付けない。
3.部下への期待を部下自身とシェアする。

1980・90~年代トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)

1980年代にリーダーシップの定義で紹介したバス教授はTSLとTFLという概念を提示した。リーダーシップ研究者で知らないものはいないくらい有名な概念なので以下に紹介する。
TSL:
部下を観察し、部下の意思を重んじ、あたかも心理的な取引・交換のように部下に向き合うリーダーシップであり、内容については前述したLMXほぼ同義と言える。(しいて言えば、LMXは「関係性」を主な対象にするのに対し、TSLは「リーダーの(コミュニケーション)スタイル」そのもに焦点を当てているのが違いと言える。
TFL:
TFLが重視するのは「ビジョンと啓蒙」だ。以下の3つの資質から構成される。
・カリスマ:企業・組織のビジョンを明確に掲げ、その魅力を部下に伝え、部下に組織で働くプライド、忠誠心などを植え付ける。
・知的刺激:新しい視点で考えることを奨励し、深く考えてから行動することで、部下の知的好奇心を刺激する。
・個人重視:部下に教育やコーチングを行い、学習による成長を重視する

TSLとTFLについて大きなポイントは2つだ。
1つめは、2つは矛盾しているのではなく補完関係にある。TSLで「質の高い信頼関係」を築きつつ、TFLではビジョンを掲げ「アイデンティティの一体化」を促すのは、リーダーには両方とも必要な要素である。
2つめは、TFLは「カリスマ・リーダーシップ」の基、盲目的に追従しがちな一方でTSLではフォロワーは盲目的に追従するのでなく、考えた上で「みずからの意思」でリーダーに追従する。
この要素は、社会が物質的ゆたかさより精神的ゆたかさを高める傾向にあること、また環境の不確実性が高まっていることから、より高いレベルでバランスを両立させることが求められる現代、さらに重要になってくるだろう。

シェアード・リーダーシップ

これまでの流れを踏まえた上で、近年は全く異なる視点のリーダーシップが提示され始めている。これが、「シェアード・リーダーシップ」である。これは「リーダーシップは一人ではなく、グループにおける複数の人、時には全員がリーダーシップを執る」という考え方だ。
この考え方は、以前に紹介した「新しい知は、既存の知と既存の知の新しい組み合わせ」という考えに基づき、誰かがリーダーになるのではなく、メンバー同士が積極的に知の交換することが新しい知に繋がるという発想から生まれている。メンバーはチームは「自分のもの」という当事者意識をもつことでより積極的に発言するようになるので、全員のリーダーシップの発揮を成果があげるための肝となってくるのだ。
曖昧な概念だが企業事例としては、マッキンゼー・ジャパンが挙げられる。マッキンゼーでは採用においてリーダーシップが重視されており、新卒でも入社した時点から自分がどうしたいかビジョンを語り、リーダーシップを発揮することが求められ、足りない部分は改善しながら学んでいく大事されている。そのような背景から非常にフラットな組織になっており、現在では多数の起業家が誕生している。

これからのリーダーシップ

全体をまとめると「現在のリーダーシップの最強のパターンはSLXTFLの掛け合わせ」である可能性を示唆している。すなわち「チームのメンバー全員がビジョンを持って、全員がリーダーシップを執りながら、互いに啓蒙し合い、知識・意見を交換する姿」だ。
これを実現するためには、「自分は何者で、何をしたいのか」を内省し、磨くことが求められる。そうでなければ全員がTFLを持てず、結果としてSLが十分に発揮されない。

この考えについて、理想的な状態として理解はできるが、全ての組織にとって必要かというとあまり腑に落ちない。具体的には起業するためにプロフェッショナルが集めるというのはイメージできるが、日々のオペレーションにも必要なのかという疑問だろう。ただ、日々のオペレーションにおいても、色々とテクノロジーが進化している今、リーダーが必ず一番効率的なオペレーションを知っているわけではないので、このような考え方は頭にいれておき、メンバーに伝えることでオープンな会話できる環境を保つことは大事なのだろう。

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