見出し画像

『車輪の国、向日葵の少女』感想

 どうもです。

 今回は、あかべぇそふとつぅより2005年11月25日に発売された『車輪の国、向日葵の少女』の感想になります。10年以上経った今でも名作との呼び声高い作品で、PSPやPS3にも移植されている様です。また、ファンディスクである『車輪の国、悠久の少年少女』はクリア次第、別途記事を書きます。

 OP「紅空恋歌」は哀愁漂う感じがあって良かったです。オーケストラによるサビの押し寄せ方が好き。フル尺も素晴らしく、クリア後には歌詞の意味もわかるようになりました。
 プレイのキッカケですが、昨年に『G線上の魔王』をプレイしてみて中々良かったので、同じく"るーすぼーい”先生の名作と呼ばれる本作にも興味が湧いたと云う、ごくごく自然な流れです。

 では感想に移りますが、受け取ったメッセージと、キャラの印象を書けたらなと思います。こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。(※率直な感想を読みたい方は "6.さいごに" をお読みください)



1.受け取ったメッセージ

"人が生を全うするに当たっての、強き意志の持ち方"

 この一文でまとめられる位に本作が伝えたかったモノは割とシンプルだったと思います。終始一貫しており、響いた言葉を拾い集めてみても、このメッセージに繋がる表現でした。では、もう少し詳しく書いていきます。

 まず、"意志"ですが、コレはもう本文から。

「意志とは、未来を変えようとする力ね」

橘口璃々子―『車輪の国、向日葵の少女』

 そのまま受け取りはするのですが、"未来"は何も長期的な事に限らず、目の前の数秒先の事でも良いのだと思います。また、急激な変化ではなくとも、ゆっくりとで構わない。重要なポイントはそこではなく、その変化を起こそうとする"力"の方なので。そして、その力による"未来を変えていく様な営み"="生を全うする"に繋がるのかなと思っています。

 "生を全うする"事については、5章での璃々子の演説が印象的でした。

「全ての学問は哲学からはじまりました。それはすべて、豊かに生きるためのものです。いかに己の生をまっとうするかを考えないのであれば、絵を描くことも料理をつくることも、人を愛することもすべて無意味です」
(中略)
「我々は無意味なことに耐えて生きることはできません。無意味なこと、例えば、穴を掘って、その穴をまた自ら埋める。それがあなたの仕事だと、そう言われたらきっとみなさんは生きる力を失うでしょう」
(中略)
「みなさんはどうお思いですか? 日々のみなさんの営みに、意味を見出せていますか? 意味をつくらされていませんか? 気づかないうちに、穴を掘らされていないでしょうか? その穴を埋める毎日に満足させられていませんか?」

橘口璃々子―『車輪の国、向日葵の少女』

 言われてみれば至極真っ当と云うか、"そんな事はわかってんだよ!"と言いたくなる言葉でもあると思います。でも、本当にこの事に向き合ってどうにかしようと生きている人が一体どれだけいますか?自分自身に問うてみた時、自信を持って意味がある営みをしていると答えられますか?って話ですよね。私達の現実世界でも言える話で、思い当たる節がある人が殆どなのかなとは思います。

 では、どうしたら意味を見出せるのか…延いては豊かに生きれるのか。この為に必要な"意志"はどうしたら持てるのか。そのヒントは璃々子が教えてくれました。

「瞳を閉じた世界には、ルールも規則もないわ。身体っていう枠すら超えて、空を飛ぶことも、地の果てまで歩くこともできるでしょう?」
(中略)
「フフ……だから、誰かを想うの。現実逃避じゃないの。あの人に向かって進むんだっていう意志を持つの。それは、言葉にはできない、圧倒的な力

橘口璃々子―『車輪の国、向日葵の少女』

 やや抽象的ではありますが、言いたい事は伝わってきます。”誰かを想う”、その人の存在が自分を突き動かすのは確かに身に覚えがありますし。また、"現実逃避じゃない"が意外と重要だと思っていて、ここには"自身の弱さと向き合う"みたいな意味合いも込められているのかなと思います。
 苦しみ、悔しみ、悲しみ…そして痛み。人間が身体という枠に支配されている以上は、これらが意志を阻みます。逆に、これらと向き合い、克服する事で意志を持つ事に近づく。そして、この"意志の力"を魅せてくれたのが最終章の賢一でした。

何もかもが苦しい。けれど、助けたい。死なせたくない。
過去の罪が、どんなに心を闇に落とそうとも。
この車輪の国で、この先どれほど暗澹あんたんたる未来が待ち構えていたとしても。
胸が締め付けられる思いがして、賢一は最後の意志を全身に送った。
――それでも、進まなければ!

『車輪の国、向日葵の少女』

 このシーンは本当に感動的でした…普通に泣いたし。ヒロイン達、そして璃々子を想い、二度も逃げる訳にはいかないぞと、意志を全身に送る。自分の身体と云う枠をも超えた力をこれまでもかと魅せつけられました。そんな成長した彼を認めるかの様な「昇りきったか」と口にする法月もやっぱり印象的で。もし身の回りに絶望しかなくても、社会がどれだけ理不尽であろうとも、そんなの関係なく生を全うしなければならない。それを絶対に忘れるなと物語っている様なシーンでした。
 やはり社会に対してどうこう言う前に、どうにかしなきゃいけないのは自分自身なんだと思います。璃々子も以下の様に言っていましたね。

「社会にはいろんな枠があるけれど、一番大きな枠は、自分の身体でしょうね」

橘口璃々子―『車輪の国、向日葵の少女』

 そろそろ、まとめていきます。
 痛みなどに蝕まれた時それが例え社会の所為だったとしても、すぐに目を向けるべきは社会ではなく自分自身。変えられないモノより変えられるモノを。超えるべきは自分の身体。本当に生を全うしたいのであれば、そうやって自身の弱さと向き合える強き意志を持って欲しいと、本作はメッセージを残してくれたと思います。

 こうして言葉(字面)だけにしたらチープに聞こえるモノでも、本作の様にその言葉を裏付け、説得力を持たせる物語が強固で記憶に残るものだとやはりしっくり来ると云いますか、言葉の重みを嚙み締める事ができます。そして、何よりそんな作品が僕は好きなので、これで十分満足しています。

 受け取ったメッセージは以上になります。何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら幸いです。


2.三ツ廣みつひろ さち

 絵描きとしての大きいトラウマがあったものの、まなと云う少女の存在はそれ以上に大きかったのが非常に救いでした。まなは、さちの絵が本当に好きで、その凄さも理解してくれている。まなの事が嫌いなのではなく、その期待に応えらない自分にうんざりしてイライラしている様にずっと映っていました。彼女がトラウマを克服し、同時にお金では買えない"想い出(時間)"などに価値を見出すまでの物語だったと思います。
 もしトラウマが無かったらまなとも出逢えていなかったかもしれないし、再び筆を取る事だって無かったかもしれない。そう考えると、まなとの想い出にしっかり焦点を当て、彼女を想いながら絵を描き切る事には大きな意味がありました。『生活時間制限』の義務を言い訳に、色々放棄して時間を無駄にした事もあったけれど、その自身の行動含め間違ってる意識はあったはずで。その無為に過ごしてしまった日々を取り返す様に、全てを背負い一生懸命に時間ギリギリまで絵と向き合った姿には胸が熱くなりました。"まなの為"って云うのがよくわかる、して"あげる"と云う言葉選びも涙を誘うし。

「この絵、まなっていうんだよ」
「だから、なにがあっても、最高の作品にしてあげる」

(中略)
理屈では考えられない指先の舞に、神秘的な美しささえ感じた。
気づいたときには、まなの手を握りながら、膝立ちになっているおれがいた。
さちという一人の画家の矜持に、ひれ伏していた。

『車輪の国、向日葵の少女』

 これまでのツケがやはり回ってくるのが現実、絵は何の成果も挙げれず、まなともお別れになってしまったけれど、絵を見た人に喜んで欲しいと云う想いを取り戻した事で意志を持てる様になり、時間の大切さも解った事が大きな成長でした。一度強く結び付いた縁は途絶えず、エピローグではお互い成長した姿で再会を果たせて良かったです。常にマイブームがある位には自身を見失わない娘でしたし、お決まりの挨拶で溌剌としてたのが好きです。


3.大音おおね 灯花とうか

 複雑な親子関係を軸にドラマチックな物語を描いてくれてクソ泣いた√。自身と向き合わなければならないのが、灯花だけでなく京子もだったと云うのも見所でした。賢一がどちらにも接近して、お互いに認識が共通な部分、相違がある部分の棲み分けをして問題点を洗い出していく。向き合うべきはそこにあるんじゃないかと。ザックリまとめてしまうと、2人とも目の前の現状(『大人になれない義務』も含む)に甘えていると云うか、もう諦めがあった(慣れようとした)のが問題で。でも、そのくせに不満や不安もしっかり残っている、このしこりをどうにかする物語だった様に思います。
 京子は隠そうとするし、灯花も気にしない様にする。今ある現状で別に問題はないから。でも問題は無いと思い込んでいるのが一番の問題だった。そこを剝き出しにし、思いっきり2人をぶつけるしかなくて。シチューをぶちまけると同時に想いも全てぶちまける。そこで真実を目の当たりにしても、絶対に屈しない、譲れない、不変の想いがあるじゃないかと。必死に力強くこれを叫ぶ灯花の意志に涙が止まらなかったです。

「どちらかを選ぶと、選ばれなかったもう一方が悲しむというのなら……」
「世の中が、いつもそうやって、理不尽な選択を迫ってくるというのなら……仕方がないことだって、知ったふうに大人面するような社会なら……」
「私は、一生子供でいい!」

大音灯花―『車輪の国、向日葵の少女』

 彼女は情緒もブレがちで周りの顔色を窺う優柔不断な娘でしたが、それでも不器用なら不器用なりに、大切にしたいモノは全部大切にしたいと、一点突破する姿が最高だった。その為に全てを赦せる彼女は強く優しい娘だと思います。そして、そんな風に灯花を育ててみせた京子もまた強くないはずがないんですよね。自分の弱さを見せられる人こそ本当に心が強い人だと思うので。どこまでも似た親子、エピローグも大団円でもう大丈夫だと安心できました。大人になるとは諦めを知る事でもあるけれど、そんなのクソくらえだと言わんばかりの希望に満ちたこの物語が堪らなく好きです。あと、灯花が格闘技好きで口が悪いトコもw(ぶっ殺すぞ!で何回か笑ったことか)


4.日向ひなた 夏咲なつみ

 理不尽に残されてしまった癒えない傷痕、その影響は性格が変わってしまう程で中々に辛い物語でした。自己否定に走り避け続けるのが優しい”彼女らしい”のも余計に。でも、その傷痕に覆われた想いと約束は7年前から変わらずにあったのが一筋の希望。覆われている以上は傷口に触れないといけない訳で、でも『恋愛できない義務』含めて安易には触れられなくなってしまった。では、どうするか…。子供の頃、彼女が手を差し伸べ温もりをくれた様に接するしかない。この立場が逆転した展開と、彼にとっては贖罪の意もある意地を魅せたのがとても良かったです。理屈どうこうではない、損得勘定ガン無視の迷いのない意志、これを夏咲に想い出してもらう。元はと云えば、この優しさは君から貰ったモノだよと。ある意味、夏咲にとっては嘗ての自分自身との再会でもあった描き方も良かったです。
 そして、法月に問い質されてからの決死の告白。ここも流石に"泣き"でした。涙を流しながらの眩しい笑顔、手を握りながらのCGがこれまたもう…。忘れる事なんてできない手のひらの温もりから思い出す様に「大好きだよっ!」と変わらない愛を叫ぶ夏咲。大切な人を守る為ならば、躊躇ってなどいられないし、愛より強い力はないんだなと思い知らされる名シーンでした。以下の言葉もメッセージに繋がるモノで印象に残っています。

「どんな場所でも、楽しいことは探せます!」

日向夏咲―『車輪の国、向日葵の少女』

 エピローグではひたすらに幸せを願う形。どんな場所でもそばにいてくれるだけでいい。そのひと時を体現する形だし良かったのかなと。最後まで真っ直ぐな強い気持ちを貫いて。夏咲は眩しい笑顔もチャームポイントでしたが、やっぱりクソデカリボンも好きです。


5.樋口ひぐち 璃々子りりこ

 無事ヒロイン3人を更生させ、一気に話が盛り上がる第5章。『G線上の魔王』もそうだったけど、終盤の勢いは相変わらず凄いなと唸りました。プレイ前から少し耳にしていた叙述トリックもこの事だったのかと。んで、ようやく"画面に"登場した璃々子ですが、彼女の「そばにいるから」に噓偽りは無かったんだなと思えた事が何より嬉しかったですね。『存在が認められない』義務を負い、7年間もの孤独に耐え抜いた鋼メンタルは本当に心強かった。直接身を以って学んだ多くを賢一達にも伝えてくれました。
 どれだけ尋問されても暴力を振るわれても屈しない賢一達、全員が同じ方向を向いて信じ抜いたからこそ法月を打ち破ったシーンも感動的で。勢いそのまま町からの脱出は磯野も絶対いると信じてたので最高の流れでした。璃々子を背負って登り切るシーンは、「1.受け取ったメッセージ」の項でも書きましたが、マジで泣いた。挿入歌「そらの隙間」もズルいんですわ。
 普段の璃々子は茶目っ気もあるSなお姉ちゃん。頼り甲斐もあって、弱さを中々見せない姿に惹かれるからこそ、あそこで涙を流してしまった表情が刺さる刺さる。幼少期は泣いてばかりで弱い心を持っていた健、それでも彼は強いと信じてくれた姉の想いに応える為に強き意志を魅せる。特別高等人の訓練を乗り越え、ヒロイン達の成長する姿を見て、誰よりも強く強く成長していたのは健だったんだなと。これだけでも感動モノです。彼の物語としても、作品の物語としてもここが最大の魅せ場だった様に思います。
 エピローグでは賢一は政治家候補に、璃々子は秘書になっていて。メッセージの補完をしつつ、2人の明るい未来を思わせる余韻ある締め方で良かったです。描き切るべきは十分に描き切ったくれました。


6.さいごに

 まとめになります。

 むっちゃ好みな作品でした。何なら目新しさとかよりも、自分が好きな作品ってこーゆーのなのよ。って云う嬉しさが勝った感じです(伝われ)。メッセージも至ってシンプルなんだけども、それを裏付ける物語の完成度が高いので自然とメッセージに説得力が付いてきました。叙述トリックや、ヒロイン達が負った義務、歪んだ社会のルールなどは設定に過ぎず、物語をきちんと下支えするものでした。賢一もヒロイン達の手伝いはするけれども、最後の最後は成長した彼女達自身の力だけを魅せ、彼には介入の余地がない。メッセージとリンクする、この描き方も終始一貫していて良かったです。どの√でも明確な想い人がいる絆や愛も安心して見ていられました。
 強いて不満点を挙げるなら、2周目以降が作業ゲーと化してしまう分岐構造だった事ぐらい。でも逆に『G線上の魔王』が途中下車式の分岐だったのは、アップデートしたんだなと気付きを得ることができました。

 ライターの"るーすぼーい"先生は、『G線上の魔王』をプレイした時と印象変わらず、本当に癖の無い丁寧で読みやすい文章を書かれるなと。言葉選びも優しいし、綺麗な物語を描くの上手。叙述トリックも初めて触れたので新鮮でした。あと、シュールギャグもかなり好きw

 イラストは有葉先生。CGイラストも立ち絵も安定感あって良かった。この頃からもう苦手な構図とかあまりないんだろうなとか勝手に思ってました。『G線上の魔王』もそうだったけど、シーンが切り変わる際の"第~章"ってCGのヒロイン絵が好きです(感想ツイートに貼ってあるやつ)。

 音楽は計7名が参加し曲数も多め。隠し切れない古臭さが逆に良かった。のどかな雰囲気の楽曲が多いけど、緊迫感のある楽曲、壮大なクラシックもあって、幅広く揃ってたのかなと。「grain of salt」「reason to be Ⅰ」「光の先に」「溶解」「watch out!」が気に入っています。あと、挿入歌「そらの隙間」は名曲すぎ…って思ってたら作曲MANYOさんで思わずニッコリ。

 とゆーことで、感想は以上になります。
プレイして本当に良かったです!『G線上の魔王』で少ししか泣けなかったので、正直少し不安もあったんですが、余裕でボロ泣きしてしまったので。もっと早くやりたかったなと思う程でしたし、るーすぼーい先生の作品が好きになりました。これで満足してますが、少しだけ気になった法月についてはFDで触れられるかなと思ってます。早めにプレイする予定です。また、手元に「ぼくの一人戦争」もあるので、こちらも絶対にプレイします。改めて制作に関わった皆様、ありがとうございました。

 ではまた!



Copyright©AKABEi SOFT2.All rights reserved.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?