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『穢翼のユースティア』感想

 どうもです。

 今回は、2011年4月28日にオーガストより発売された『穢翼のユースティア』の感想になります。自分が購入したのは初回版(特典目当て)で、Win10でも特に問題なく動いてくれました。Win10対応の新装版とVita版もありますがご参考までに。


 OP曲、作中で流れるタイミングも完璧で鳥肌でしたね…。元々、数年前にこの「Asphodelus -アスフォデルス-」を聴いて、イントロでもう電撃が走って「これは絶対面白い!」(音楽良いエロゲは8割方面白い)ってなって購入に至ったので、やっと作中で聴けて嬉しかったです。

 購入して1年は積んでたのマジで申し訳ないんですが、今回ようやくまとまった時間ができたので積みゲーの中から一番やりたかった今作を選びプレイしたって感じです。ところで、積みゲーがあるのって幸せな事でもあるよなって思いません⁈ 放置って捉えると良くないイメージですが、まだそれだけやりたい作品があるって捉えると今後も適度に積んでいきたいなと思う次第です。勿論、限度ってものはあるけど(笑)

 では感想に移りますが、先に今作から受け取ったメッセージ、感じた事を書きます。その後、ヒロイン毎の感想を軽くしようかと。プレイした方は分かってくれると思いますが、今作ヒロイン毎にストーリーが大きく変わるっていう事はなく、各ヒロインのエピローグが読めるっていう側面が大きかったのがその理由です。で、最後にまとめと云う事で評価をしたいなと。では、こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。



1.受け取ったメッセージ

 今作、名言っぽい文章、繰り返される言葉が結構あって、色々と受け取り方はあると思うんですが、自分が一番感じた事を書いていきます。簡潔にまとめると、以下の通り。

自らの意思で選択と行動を続けていけば、
それがきっと生まれてきた意味になる。

 何度も反芻されていたカイムの母の言葉ですね。終盤、ルキウスとカイムの決着が着くシーンと、ラストのティアが語りかける言葉達を受けて、これしかないなと思いました。それでは、少しずつ紐解いていきます。

 まず、カイム母の言葉を理解したシーンのモノローグは以下の通り。

人生で大切なのは、精一杯生き、自分が生まれてきた意味を知ること――
今なら、母親の言葉の意味がわかる。
それは難しいことではなかった。
ただ、選べばいいのだ。
どんなことがあっても投げ出さずに進んで行ける道を――
全てが終わるときに後悔せずに済む道を――
自らの意思で選べばいいのだ。

 「選べばいいのだ」については、リシアの”選択によって人が表現される”もそうだし、ルキウスからの忠告シーンでもしつこく言われていました。カイムが自分を省みて、行動を改めるキッカケとなった処です。

「人とは、選択と行動によって人たり得るということを」

 実際、この未来がかかった局面に来るまで、カイム以外は皆、自分で選んだ道を歩み始めていました。ルキウスも、ジークも、フィオネも、エリスも、コレットも、ラヴィリアも、リシアも。カイムには自分を後回しにしていた優しさがあったからっていう側面も無くは無いですが、彼だけがまだこれから歩む道を選べずにいた

 そこでこの後に、順番にヒロイン達の助言や回想があったのが凄い良かったですね。特にエリスの言葉が一番記憶に残っています。

「もうすぐ死ぬかもしれないから、絶対にやり残したくないことをする」
「だって、後悔なんてしたくないから」

 自分も、死ぬ時にやりたい事はあっても、やり残した事は無いように生きている人間なので、凄く共感したし、強気なエリスらしい言葉で気に入っています。この言葉を受けてか、最初に書いたモノローグには”全てが終わるときに後悔せずに済む道を――”という文章が入っていますね。「全てが終わる時」は死ぬ時とも捉えられるので。

 皆の助言を頼りに、ティアを救う事を決心したカイム。あそこのシーンはとても力が入っていて好きですね。例えこの選択の先で行く手を阻むモノがあっても、この道を歩むと決めたカイム。それが彼の生まれてきた意味だという気持ちがしっかり伝わってきました。これも上記のモノローグの”どんなことがあっても投げ出さずに進んで行ける道を――”に掛かってくると思います。「どんなこと」の中には勿論、この世の"不条理な事"も含まれている


 少し補足になるので、この"不条理な事"についても触れたいと思います。今作では分かり易い不条理な事が幾つも描かれていたと思います。大崩壊に階級や暮らしの差、聖女の真実etc...。また、人物で言えば、ガウやコレット、そしてティアが特に象徴的に描かれていたなと感じました。

 まず、ガウの、不条理さに納得できないから不条理な殺しを続けた事についてですが、これ彼女の言い分には同情できると云うか、苦しみみたいなのが凄く伝わってきたんですよね。彼女は、幸せになれる理由があるのなら、不幸になる事にだって理由があって然るべきだろう。と云うのを強く言いたかったんだと思います。

 世の中、理不尽な事、不条理な事は沢山あるけれども、それを受け入れられる、納得できる理由が欲しいと。じゃないと生きていられないっていう気持ち自体はわからんでもないんです。嫉妬心じゃないけど、周りの幸せな人がいると、「どうしてあの人が…」「なんで自分は…」っていう考え方をしちゃうのも人間としてごく当たり前の事だとも思いますし。ないものねだりだったとしても。中盤でメルトに強く当たった娼婦の人なんかもまさしくそうだったと思います。

 ただ、やっぱりその不条理な目に合う理由が得られないからって、他人に同様の想いをさせたり、対応する選択を放棄するって云うのは違う訳です。悲しいけれど不条理な事は絶対に無くならないから、それに対して自分の意思で選択し、行動しなければならない。

 んで、コレットの場合は"信仰"として強く描かれていました。宗教っぽい縋るものではなく、彼女の場合は自分の中の"信仰"を信じていました。信仰を捨てたら最後、彼女は彼女で無くなってしまう。天使の御声は彼女にしか聞こえない訳で、例えそれが周りに理解されなくとも、彼女はその真実を信じ続けた。この真実が彼女の中に在るってのが肝だと思います。自信に満ち溢れ、声を上げ指揮を取る彼女の姿は最後まで美しく凛々しかった。あそこで対抗するリシアも良かったですね。

 そして、最後にティアです。メインヒロインである彼女こそが、この"不条理な事"を以て、"生まれてきた意味"を示してくれたと思っています。
 カイムを…世界を救えるのは私しかいない。これもある意味、不条理な話な訳です。あそこでティアは世界を救わない選択肢だってできた…それでも自分だけがカイムを護る事ができる、世界を救う事ができるなら、と彼女はそこ(不条理さ)に生まれてきた意味があると信じて覚悟を決めました。これは凄く皮肉めいてはいるんですが、同じ想いを抱えてる者達への「救い」を示すものでもありました。自らに課せられた不条理さを以て、世界の不条理さを覆してみせたティア。世界と一体となった彼女の生き方は不条理な事に対する一つの答えであり、「救い」として強く描かれたと思います。苦しい想いをしても、その先に「救い」は必ずあるよ、っていう。彼女は最後、涙を流しながらも笑顔を魅せてくれました。

 改めてまとめると、世の中から不条理な事は絶対に無くならなくて、不条理な事があるのが世の中の在り方なんです。そんなクソッたれな世界で苦しみは絶えないけれど、それをどう受け入れて、乗り越えるかが大事で。その為の選択と行動が、自分を自分たらしめるモノであり、つまりは生まれてきた意味そのものなんだと今作は伝えてくれたんだと思います。

自らの意思で選択と行動を続けていけば、
それがきっと生まれてきた意味になる。

 身の回りには納得できる事だけでなく、納得できない事も溢れているかもしれませんが、それに対してのその人なりの選択と行動を尊重し、背中を押してくれる、素敵な作品だったと思います。力強いメッセージに感謝です。



2.フィオネ・シルヴァリア

 フィオネはかなり堅物な子だった分、デレてからのギャップ凄くてそこがやっぱ可愛かったですね。一度やると決めたら折れない意地の強さは優しさに直結していたし、日記を毎日付けるようなマメな性格は自信に繋がっていたと思います。父や兄もいて育ちの良さが窺える一方で、それ以外のお洒落とか不慣れな事への反応とかからは、元々甘えん坊だったんだろうなと想える節が結構あったので、その辺のポイントも高かった。
 あと彼女は隊長ではあるけれど、正直言って頼れる様な先頭に立つタイプの子では無いと思うんですよね。先頭に立つ姿に憧れてどうにか"立てている"タイプ。"頼れる"んじゃなくて、"頼りたくなる"タイプ。とてもじゃないが1人じゃ任せられない、メンタルも強くはない。名誉や誇りなどのあらゆる重圧が良くも悪くも彼女をそうさせていたなと思います。この強制力が無くなってからは、やはり伸び伸びと活き活きとしていて、新しい自分の道を歩んでくれて良かったなと。物語終盤、羽狩り全員で上層に乗り込んでくるシーンがカッコよすぎて大好きです。



3.エリス・フローラリア

 エリスは今作のヒロインの中では一番好きですね。人並み以上に想いが強くて、それを態度や行動でハッキリ示してくれる子でした。それだけ人の為に尽くす事を厭わないし、その為に努力できる考え方も兼ね備えてたなと。自分がこうなってしまったのは理屈や常識でどうこうできるものではなく、これが私なの。って云う等身大の想いが残酷でありながらも純粋で…。変わろうとすると不器用にしか出来ないのが生い立ちから納得いくからこそ、手探りで出来る事を増やして、幸せを掴み取っていく姿が好きです。どこまでも真っ直ぐではあるんよ。
 彼女が何を考え想っていて、どうして欲しいのか、カイムにはもっと早く気付いて欲しかったなと少しフラストレーションみたいなのはありましたね(笑) それもあってか、彼女がカイムを黙らせたシーンは好きで、強く記憶に残っています。言葉の切れ味も凄いからね、彼女。

「絶対的にわかる。少しの歪みもなく」
「だって、身請けされてからの7年、私は、あなただけを見て、あなたの事だけを考えて生きてきたんだから」

 これとか凄い好きですね、演技も良かったです。人への当りが強めなのも、カイムという絶対的存在がいたからで。そう考えると可愛らしくも思えるんですよ。終盤はとても頼りになる存在で、あとコレットと一触即発な感じとかも好きでした(笑)



4.コレット=アナスタシア

 コレットは思ってたよりも可愛らしい一面が多く、気付いたらハマってました。自分の信仰を信じて疑わない純粋さを極めた鋼メンタル、負けず嫌いで途轍もない根性を持った子でした。手段あっての目的だと、皆を納得させる為の手段として"信じる事"にこだわり、それで自身の存在証明を貫いてみせようとする姿は、一見逞しい様で放って置けない感じもあって。信じる事の良い処だけでなく、悪い処もしっかり描かれていたと思います。自分が"信じる事"にこだわるあまり、ラヴィリアから"信じられている事"に気付いておらず、やっと気付く事ができた展開は皮肉の含みもあって、あの苦しい状況下で追い打ちでもあったと思うんですよ。それに感情移入しまくっちゃって、コレットがカイムの手を振り払ってラヴィリアを助けにいくシーンからは無茶苦茶泣きました…。信じる事の価値、重要性、その想いがどれだけ尊いモノかよく解っているからこそ、コレットはラヴィリアの想いも痛い程に解ったはずです。落下しながらの会話…抱擁も最高だったなぁ…。最後にこの名シーンでの名言を残しておこうと思います。

こんなにも救いのない世界だから。
せめて自分の内にあるものくらいは、信じていたい。
それが、最後には必ず自分を救ってくれる。
ラヴィが、私に教えてくれたことだ。


5.ラヴィリア

 見た目はコレットより妹っぽいけれど、中身は断然彼女の方がしっかりしている、コレットの姉的存在でした。自分は逃げて押しつけてしまったと、ずっと責任と罪悪感を感じているにもかかわらず、それを周りに感じさせない辺りが特に愛おしかった。それが良くも悪くも大人な振る舞い方で、どうして…って可哀想にもなるし、そんな抱え込みすぎなくてもいいのに…と思う事もありました。ただ、そんな姿勢を頑なに貫き、絶対に屈しない辺りはコレットと似ていて、いつか必ず2人とも救われると信じていたのが伝わってきました。コレットが救われる事で自分も救われると本気で想っていたんでしょう。じゃなきゃあの行動は取れんよ。ただそこに哀しさやできれば気付いて欲しいみたいな気持ちも当然あった訳で、それ含め信じている。だからコレットからの言葉を聴けた瞬間が彼女にとって一番救われた瞬間だったんじゃないかと思います。今作屈指のカップリングで2人の√は良い意味で本筋っぽくなくて好きでした。姉妹愛最高。



6.リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィ

 リシアはもう成長ぶりが凄くて、その成長を感じる度にガチで泣いてた…。まじで良かった。幼さがズルいよなぁ、背伸びしてる感じがさ。娘を持った様なお気持ちになる。相当な躾けをされてきて、自由な言動も許されない窮屈さを抱えた上、容易に甘える事もできない境遇だったと。自分はこうしたい、でもこうしなきゃいけない?など、様々な感情に苛まれていたはずで。だから自分で考えるのを止めて誰かの言葉に従う様にもなってしまった。けど、そんな自分を変えたいとも思っていたのが手に取る様にわかるので、カイムとの出逢いをキッカケに行動を少しずつ変えていく、その行動で気持ちも強くなっていく姿は本当に立派でした
 リシア編は本当に見所多かったんですけど、特にヴァリアスを説得させたシーンが音楽も相まって一番気に入っています。剣を握りしめてるやつね。あのCGが今作で一番好きなまである。冷静に的確に自身の願いを王としての言葉として伝える姿、目力も凄いし、ヴァリアスが言葉を失っていたのも頷けます…。あとは演説とか、ラスト王冠の中に花冠があったのは流石に不意打ちすぎてヤバかったです。



7.ユースティア・アストレア

 ティアはエリスも言ってたけど、本当に小動物みたいで最初っから最後まで可愛らしい少女でした。暗くて重い世界観だからこそ、彼女の明るさは貴重で自然と救われている事が多かった様に思います。ごくごく普通の日常生活に憧れていて、それを誰よりも楽しんでいた彼女。望んでいた形は異なるけれど、日常の一部になる事ができた彼女は幸せになれたのでしょう。笑う姿がもう見れないとか思うとやっぱり悲しくはなるけれどね…。
 大それた事を考えられなさそうな小柄な身体で、いつもあどけない表情で傍にいてくれた訳ですが、自分の存在価値と世界の真実を理解するにつれて、1人で世界を背負える位に立派になった彼女。どんなに辛くても頑張れる、その気持ちを突き動かしていたのは、カイムを護る事もそうだけど、牢獄に来てからの全ての想い出だったと思います。序盤からの日常シーンの数々、何気ないシーンでも彼女との掛け合いが描かれいたからこそ、積もり積もって終盤で泣きをもたらしてくれました。最後の涙を流しながら笑う姿と、残してくれた言葉の数々が本当に頭から離れません。ありがとう。



8.さいごに

 まとめになります。

 期待以上の完成度で、一番良かったなと感じているのは物語の強度。突っ込みたくなる隙も無いし、湧いた疑問(伏線)も綺麗に回収していく。徐々に世界の全貌が明らかになっていき、それに比例して右肩上がりに面白くなっていくプレイ感も良かったです。コレット編辺りからそれが顕著に出ていたと思います。
 物語が良いのはやっぱりキャラが良いからだよなとも思えました。特にルキウスの描き方は素晴らしかった。掴みどころが無くて、本当に信頼していいのかわからない。敵の様で味方でもある存在。カイムの兄と判明してからは絶妙な立ち位置で、どちらにも言い分や信念があって、それに納得できてしまう描き方が良かったです。直前で兄らしさ全開なのがこれまたズルいのよ(笑) 彼に限らず、サブまで含めてそれぞれ絶対的な芯のある人間で好感が持てました。

 強いて気になった点で言えば、文章が丁寧すぎる処ですかね…。カイムのモノローグが多いのと、キャラの表情や動作を描写する分が細かく書かれていて読み疲れと若干テンポが悪くなるのを偶に感じた。ここは好みだと思いますが、自分はもう少し余白があっても良かったなと。でも、この丁寧さのお蔭でキャラの心情を汲み取れた事は間違いないですし、重厚な世界観との相性は良かったなと思います。エロゲをプレイしてるんじゃなく、ファンタジー小説読んでる気分でしたから(笑)

 べっかんこう先生のイラストはやっぱ全体的に可愛いらしいのと、瞳や顏の輪郭が優しくていいですね。あといつどのシーンになっても安定感と云うか、安心感みたいなのを感じました。Hシーンもね。CGはリシアの剣を握るシーン、立ち絵はエリスの前屈みになってるのが好きです。

 音楽はかなり作品の雰囲気に忠実で、これぞ劇伴!って感じでしたね。曲数も多く、的確に物語を彩ってくれたと思います。一番聞いていたであろう牢獄のテーマ曲「Blind Alley」、戦闘シーン等で大いに盛り上げてくれた「The Wind, the Cloud, the Earth」、ティアの覚醒シーンで流れた「Ascension」、リシアの名シーンの数々で流れた「La Rosa」辺りが特に好きです。
 ボーカル曲は「Asphodelus -アスフォデルス-」がやっぱ好きかなぁと思いきや、EDを迎える度に「Close My Eyes -クローズ・マイ・アイズ-」も好きかもしれない…ってなって結局両方むっちゃ気に入っています。サビのメロディとその尺が長いのが好き。
 サントラ集も買わせて頂いたのですが、凄い豪華で、ブックレットにはライナーノーツや曲解説もあって有難い限り。暫く余韻に浸る事ができそうです。素晴らしい商品なので、プレイした人は全員買って欲しい…。

ユースティアサントラ


 とゆーことで、感想は以上になります。ここまで読んでくださった方ありがとうございます。そして、改めて制作に関わった皆さん、本当にありがとうございました。
 オーガストさんの作品は今作が初だったのですが、最後まで楽しむことができました。雰囲気だけでなく強度ある物語と、それに伴う確かなメッセージ性に大いに感動しました。この記事には書き切れていない、心に響いた言葉がいくつもあったので感謝しています。作品に浸れていた時間はキツイ時も嬉しい時も全部含めて本当に幸せな時間でした。
 オーガストさんは今年で20周年で、『穢翼のユースティア』も10周年。この年にプレイできたのも何かの縁かもしれません。いい想い出になりました!また機会があればオーガストさんの作品に触れたいと思います!

 ではまた!




© AUGUST



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