その2:事業承継先を探していたサプリの会社

今回は、僕が期せずして再生に足を踏み込むことになった企業のこと、
そしてその企業が検討していた事業承継について
書いてみようと思います。

その会社は、今年73歳になる僕の叔母が代表を務めています。
厳密には、僕の母の又従姉妹にあたります。
扱う商品は、サプリメント。
表面的にはどこでも手に入るような成分のサプリですが、
この会社の歴史は長く、
ビタミンEの普及に先鞭をつけたパイオニア的な存在で、
高島屋にも商品を卸していました。
販売は、そうした流通業への卸と、
ネットを介さない昔ながらの通販でした。

成分表記は同じでも、レシピは独自のもので、
人に対してとっても誠実な叔母の性格を反映して、
この会社はすごく生真面目なものづくりをしてきました。
検査の時はちゃんとした材料でありながらも、
販売用は原価を下げるために
粗悪な原料を使う業者がいるらしいのですが、
この会社は、同じ成分でも、レベルの高い原材料を使い、
本人や社員が服用し血液検査で検証した
独自の配合を商品化しています。
ある製薬メーカーの方曰く
「ここの商品に比べると、ある大手さんのサプリは、
 まるで清涼飲料のようなもの」だそうです。
同じ成分だからと、
ドラッグストアで手に入るサプリに変えたお客様が、
やっぱり全然違うから、
と戻って来られるケースがよくあるほど。

社長である叔母が70歳を目前にした頃、
事業承継・譲渡を検討するようになりました。
中小企業の事業承継は、いまや社会問題。

創業者だった夫が亡くなって
急遽社長になった叔母には子どもはなく、
兄弟とも縁が切れた状況にあり、身寄りはありません。
その叔母が、夫の事業を後世に残すために、
志を共有できる方に、事業を承継してもらいたい、と
あるコンサルを介して候補を探してもらっていました。

候補には大手企業もありましたが、
叔母の眼鏡にかないませんでした。
「あそこは、うちの老舗としてのブランドと
 独自のレシピが欲しいだけ。
 かなり強引な商売をすると評判の会社だから、
 原価を落とすために粗悪な材料に変えてしまいそうで、
 そんなところなら、いくらお金を積まれても、
 私は廃業を選ぶわ。」
と言うことで、お断りしたそうです。
素晴らしい!
こう言うところが、叔母の誠実でまっすぐなところ。
亡き夫の遺志を継いで、存続させるなら心ある方に、
という思いなんです。

そうこうしているうちに、
僕が、サラリーマンを辞めました。
それを機会に、十数年ぶりに直接お会いするようになり、
母と叔母と僕の家族で食事をすることもありました。
そのうち母から、叔母の相談にのってあげて、と頼まれ、
そうして初めて事業承継問題を、知ることになりました。

叔母は、僕が承継することを期待していたわけではなく、
僕の知っている先に、どこかいい承継先はないかしら、
というものでした。。
廃業の準備がかなり整ってきた段階での、
最後の望みを託しての相談でした。

僕は、即、この分野に詳しそうな
元同僚で友人の女性に相談してみました。
彼女は僕と同様に戦略プランニングを専業としながら、
大学で教鞭をとり、
しかも女性の美と健康を外側と内側から整える
フェムケア・ブランドを立ち上げ、
D2C事業を展開しているスーパーウーマン。

彼女に承継してもらう可能性を想定したわけではなく、
彼女のネットワークに、
こうしたことに関心のある人がいるかもしれない、
と、それぐらいの軽い気持ちで相談してみたのです。

早速、叔母にその友人を紹介したところ、
お互いに波長がばっちりあい、
友人は、自分が承継することを考えてもいい、
と話が進んだのです。
英国風のお花を嗜む叔母の優雅なライフスタイルと
その人柄に惹き寄せられ、
真っ直ぐなものづくりの考え方に共感。
叔母も、「彼女なら志を共有できるわ」と大喜び。

おーっ、素晴らしい!
これで僕の役目は、二人の間を
スムーズにつなぐことに変わりました。
志でつながった分だけ、
お金の話は若干後回しになった感はありました。
財務諸表を見ると、大きな借入金があったのですが、
それは叔母の私有地を売って返済にあて、
ちょうどチャラになる計算でした。
だから、友人には、安心して、
再出発のための準備を進めてもらいました。

友人は、卸先の選別や、
継続販売する商品の取捨選択を進めながら、
ブランドをどう育てていくか、
彼女の中でイメージを少しずつ広げていきました。
老舗のブランドを活かし、
これまでの通販のお客様には
安心して飲用し続けてもらえるようにしつつ、
これからの時代に向けての再出発にふさわしく
パッケージをリニューアル。
こうして、友人の手により、
着実に新しい展開への希望が開けてきました。

ほんとによかった、と、友人に感謝感謝でした。
これで、着実に、順調に、承継が進む、
みんな、そう思っていました。

しかし、そこに、コロナがやってきました。
土地が、想定していた価格では
売れそうもない状況になったのです。

と、この先は、次回に続けます。
人生、何が起こるかわからない。想定外の連続です。

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