仮想通貨SF小説『Decentralized Kingdom』 第2章 クォンタム・ブースト
今から約20年後(2038年)の日本。暗号通貨の信用が崩れた世界の物語。
◇崩れる共同幻想
《2038年7月16日 午前10時39分》
僕はベランダから、目前に広がる街を眺める。
いつも規則的に道を流れていた自動運転車の影は、今やほとんどない。民間の市街警備や、警察機構の保有する治安維持用、あるいは暴徒鎮圧用のドローンが、道や空をいくつも行き交う。
人の姿も見えない。だが時折、あちらこちらから怒号が聞こえてきていた。その度にドローンの羽音が唸り、制止音声、そし