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デジタルアイデンティティの相互運用を可能にするプロトコルRarimoの概要

1,はじめに


デジタルアイデンティティはオンライン上のコミュニケーションを行う上で重要な役割を果たしていますが、今後はオンラインだけでなく、オフラインを含む様々な場面で自身を証明するものとして普及し、僕らのデジタル体験を向上させるものとして期待されます。一方で、中央的な企業や行政によるID管理に対する懸念があることも確かであり、そのような背景からWeb3の文脈で議論が増えているのがSSI(自己主権型ID)という概念です。分散型識別子(DID)によってユーザー自身の個人情報(クレデンシャル)を紐付けし、ユーザー自信で管理可能にするアイデンティティの探索が行われています。

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Web3時代の身分証明の在り方 DID/SSI/VCの概要

しかし、ブロックチェーンを用いるサービスの中で、デジタルアイデンティティを柔軟かつプライバシーに配慮して管理するにはまだ課題も多く、現時点ではそのようなサービスは一般的に普及していません。

今回は、このような課題を解決するためのアイデンティティの相互運用を可能にするRarimoというプロトコルをご紹介します。

2,概要


Rarimoは、Rarimo Foundationが管理するクロスチェーンメッセージングプロトコルで、異なるチェーン間でトークン、データ、アイデンティティの相互運用を実現するために作られました。2023年4月、大手ベンチャーキャピタルPantera CapitalのマネージングパートナーであるPaul Veradittakit氏が自身のブログで「Rarimoは相互運用領域でのリーダーになるために有利な立場にある」と発言したことで界隈で話題になり、注目を集めるようになりました。

Rarimoは、さまざまなブロックチェーンプラットフォーム間での高速で安全な通信を可能にするいわゆる「インターオペラビリティ(相互運用性)」系のプロトコルに分類されます。このような異なるブロックチェーン間でブリッジするためのプロトコルは他にもありますが、その多くがトークンの相互運用に重きを置いています。トークン以外にもCosmos IBCやChainlinkやLayer Zeroなどデータのブリッジも可能なプロトコルは一定数存在するものの、その数はまだ多くはありません。Rarimoは、異なるブロックチェーン環境でトークンやデータの相互運用性を実現させることはもちろん、それに加えてプライバシーに配慮した形で、個人やアイデンティティまでをも一元的に管理します。異なるブロックチェーン間でメタデータを取得可能にし、アイデンティティ情報を複製することで、SBT、NFT、及びオンチェーンアイデンティティのコンポーネントをシームレスに移動することを可能にします。

Rarimoは、ホワイトペーパーで、現在のブロックチェーンエコシステムの問題点として次のようなことを指摘しています。

1. 相互運用性の欠如:異なるブロックチェーン間でのデータや資産のやりとりが困難である
2. スケーラビリティ:一つのブロックチェーン内での処理能力に限界がある
3. プライバシーとセキュリティ:個人情報や資産の安全な移動と保管が十分でない


Rarimoがこれらを解決する方法は、単一のプロトコルでこれら全てをカバーすることだとしています。そのために、資産、データ、アイデンティティを一元的に通信できるようにし、様々なツールを提供することでユーザーや開発者が簡単に既存のdAppsや新しい機能を統合できるようにしています。

現在は、Ethereum、BNB Chain、Solana、NEAR Protocol、Avalanche、Polygonといった主要なブロックチェーンプラットフォームに対応しており、Web3エコシステムにこれまで以上に多層的な相互運用性をもたらすことが期待されています。

3,アーキテクチャと仕組み

3-1.アーキテクチャ

Rarimoは、「Rarimo Core」「Rarimo Contracts」「dApps Contracts」という技術要素で構成をされています。

1.Rarimo Core
これはRarimoのプロトコルの核となる部分です。BFTベースの合意形成アルゴリズムを使って現在数十のバリデータによって維持され、ゼロ知識証明ベースのデジタルアイデンティティの作成、クロスチェーンメッセージング、およびコンセンサスアルゴリズムの処理がここで行われます。また、EVM互換のスマートコントラクトをサポートしています。

2.Rarimo Contracts
Rarimo Coreに接続されているスマートコントラクト群です。EVM互換のスマートコントラクトがデプロイされることで、クロスチェーンメッセージングを実現します。これらのスマートコントラクトは、資産の移動、アイデンティティの検証、手数料の処理など、Rarimoプラットフォーム上での各種トランザクションを担当します。

3.dApps Contracts
Rarimoプロトコル上で動作する分散型アプリケーション(dApps)のスマートコントラクトです。Rarimo ContractsやRarimo Coreと連携して、エンドユーザーにアイデンティティの確認やトークンの送受信などが行われます。

これらのコンポーネントは連携して動作し、全体としてのセキュリティと効率性を高めています。以下にその他の主要な機能とその仕組みを説明します。

3-2.採用される技術


クロスチェーンブリッジ
異なるブロックチェーン間でデータを転送する際には、スマートコントラクトが使われる「クロスチェーンブリッジ」が動作します。これがトークンやスマートコントラクトの命令、デジタルアイデンティティなどのデータを一つのブロックチェーンから別のブロックチェーンへ安全に移動させます。

トランザクションバッチ処理
高いスループットと効率を保つために、複数のトランザクションを一つのバッチとして処理します。

オラクルサービス
外部のデータをブロックチェーンに取り込むため独自のRarimoオラクルが統合されています。Rarimoオラクルは、分散化されており、誰もがクロスチェーンメッセージを配信し、検証する機会を提供するために構築されています。

多重署名(Multi-Sig)
セキュリティを高めるために、特定の重要な操作は多重署名によって承認される必要があります。

4,RMOトークンについて


RarimoはネイティブトークンRMOを発行しています。このRMOは、Rarimoプロトコル内で複数の役割を果たします。トークンやメッセージを転送する操作の手数料として使用されるまた、ガバナンストークンとしても使うことができ、プロトコルのアップデートやバリデータの選出など、重要な投票に参加できるようになります。また、RMOはステーキングにも使用できます。特定の量のRMOをステークしたノードは、他のトークン保有者からもトークンをステークされ、その結果、プロトコルのガランター(保証人)となることができます。バリデータがルールに違反した場合、ステークしたRMOはコミュニティプールに移されます。一方で、外部データをRarimoコアに持ってきたサイン(署名)者には、報酬としてRMOトークンが与えられます。

RMOトークンは、手数料支払いからガバナンス、セキュリティの強化まで、Rarimoエコシステム内でユーティリティを提供します。

5,Rarimoアイデンティティプロトコル


Rarimoのアイデンティティプロトコルは、他のインターオペラビリティプロトコルにはないユニークな機能です。簡単に言うと、これによりユーザーが自身の個人情報を安全かつプライベートに証明できるようになります。アイデンティティプロトコルは、Iden3に基づいています。「Iden3」とは、分散型アイデンティティを開発してるプロジェクトで、ゼロ知識証明(ZKP)を用いて、秘匿性の高いクレデンシャルで管理・検証が行われます。

このようなゼロ知識証明による利点は、ユーザーがチェーン上で具体的な情報を公開する必要がない点です。また、状態ハッシュは接続されたネットワークに定期的にブロードキャストされ、多様なブロックチェーン環境で使用することができます。状態の緊急な更新が必要な場合、ユーザーやアイデンティティプロバイダー自身がこの更新を行うことができます。

このIden3によって、アイデンティティプロバイダーは高品質な検証可能なクレデンシャル(VC)を発行し、それに基づいてWeb3の新しいマーケットプレイスを形成することが期待されています。

6,Rarimoの活用事例

6-1.Circle社CCTPとの統合


2023年4月、ステーブルコインのUSDCの発行者であるCircle社は、クロスチェーン転送プロトコル「CCTP」でRarimoを統合しました。これにより、ユーザーは任意のチェーンで保持されているUSDCで、異なるチェーンにあるNFTを購入できるようになりました。

これまでは、あるチェーンでUSDCを保持していても、別のチェーンで保持されているNFTを購入するにはUSDCの移転プロセスが必要でした。例えば、AvalancheにUSDCがあり、EthereumのマーケットプレイスでNFTを購入したい時、取引所を通じてUSDCを手動で交換するか、ブリッジを使用してUSDCをEthereum上の資産に変換することを余儀なくされます。RarimoとCCTPが統合されたことでAvalanche上からUSDCを使ってEthereum NFTの購入をすることが可能になります。また、USDCを保持しているすべてのチェーンの残高を表示することが可能です。
このソリューションはユーザーにとって非常に便利であるだけでなく、ブリッジのセキュリティ面のリスクも排除できます。

6-2.Polygon IDのマルチチェーン運用


Rarimoはプライバシー保護IDのインフラストラクチャであるPolygon IDと提携して、ユーザーのクレデンシャル(資格情報)をマルチチェーンで相互運用を可能にしました。Polygon IDはゼロ知識証明を使ってオフチェーンの資格情報を生成できます。Rarimoとパートナーを結ぶことにより秘匿性の高いアイデンティティをマルチチェーンで運用することが可能になりました。

これまでPolygon IDのクレデンシャルは、最初に発行されたチェーンでのみ使用できました。例えば、Polygonでクレデンシャルを発行した場合、Ethereumでは使用できなくなることを意味します。Ethereumで使うためには、新しくEthereumで使うためのクレデンシャルを発行する必要があったのです。しかし、Polygon IDはRarimoのソリューションを使うことでRarimoに対応する全てのチェーンでPolygon IDを利用することが可能となります。

6-3.Proof of Humanityプラグイン


WorldcoinでAIテクノロジーの発展によるBotの脅威が懸念されていますが、Rarimoは、ユーザーがデジタルID管理プラットフォームにアクセスする前に、そのアカウントが真の人間であることを証明できる「Proof of Humanityプラグイン」を立ち上げました。これによりオンライン上で「人間性の証明(Proof of Humanity / PoH)」が可能になります。

現在、「Proof of Humanityプラグイン」は、主要なデジタルIDプラットフォームのUnstoppable Domains、Gitcoin Passport、Civic、Worldcoinに対応しています。

参考
https://rarimo.medium.com/why-proof-of-humanity-is-so-important-and-why-rarimo-built-the-worlds-first-poh-aggregator-8d7088192c28

6-4.MetaMaskのSSI対応ウォレット化


先日、MetaMaskから「MetaMask Snaps」という、サードパーティー拡張機能を使ってユーザーが自身でMetaMaskをカスタマイズできるようになったことが発表されました。RarimoはこのMetaMask Snapの拡張機能としてMetaMaskでトークンを管理するのと同じように、自身のデジタルアイデンティティを保存および管理できるツール「RariMe」をリリースしました。これによりユーザーはチェーン全体でクレデンシャルをシームレスに活用することが可能になり、MetaMaskを使った自己主権型アイデンティティの世界を実現します。

RariMeのデモはここで見ることができます。

参考
https://rarimo.medium.com/why-storing-your-identity-in-your-metamask-wallet-is-such-a-big-deal-5e7428f14aaf

7,まとめ


インターオペラビリティプロトコルのRarimoについて解説してみました。Web3のデジタルアイデンティティ領域はまだまだデファクトスタンダードがなく、これから様々なサービスが登場し競争が活発になるのではないかと予想しています。その中においてもRarimoがやろうとしているソリューションは、他に例がなく、その独自性からWeb3の重要なインフラとなる可能性は十分あるのではないかと思います。

Polygon IDとの連携やCircle社のCCTPとの統合など、大手のプロジェクトにも採用されていることから、一気に利用が増える可能性もあるため、今後も定期的にチェックしていこうと思います。

尚、まだ新しいプロジェクトであるため、今回リサーチするにあたり公式ドキュメントや英語記事を参考にしましたが、細かい部分の認識や解釈に誤りがあるかもしれません。参考記事などのリンクを貼るようにしましたが、もし誤りがあればご指摘いただけるとありがたいです。

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