見出し画像

映画技法講座3「Shot Яeverse shot」

 今回は、会話シーンでよく見られる切り返し/構図逆構図/Shot reverse shotについて解説したいと思います。

構図逆構図


『ディア・ハンター』(マイケル・チミノ)から有名なロシアンルーレットのシーンを見てみましょう。


い

画像3


 手のヨリなど2、3インサート(カットアウェイ)はありますが、基本的に上図の5つのセットアップで構成されています。
 CAM#1から撮られるのは、引き画/状況説明カット/エスタブリングショットと言われるものです。
 CAM#2とCAM#4、CAM#3とCAM#5のペアが、構図逆構図とも言われる教科書的な切り返しです。CAM#2(CAM#3)を構図(Shot)とすれば、CAM#4(CAM#5)は、それぞれCAM#2(CAM#3)を鏡に映したかのような逆構図(Reverse shot)になります。
 では、このような構図逆構図(Shot Reverse shot)を撮影するにはどうすればいいでしょうか。

1)レンズ
  構図、逆構図ともに同じ焦点距離のレンズを使用します。
2)ディスタンス
  構図、逆構図ともに被写体までの距離を同じにします。
3)角度
  マイケル(ロバート・デ・ニーロ)とニック(クリストファー・ウォーケン)の二人を結ぶ線(上図では点線で示されています)をイマジナリーライン(想像上の線)と呼びます。そのイマジナリーラインと、キャメラの光軸がつくる角度を、構図、逆構図とも同じにします。

 以上3点をそろえれば、正確な構図逆構図を得ることができます。

主観と客観

 次にCAM#1、CAM#2、CAM#3を比べてみましょう。キャメラ(光軸)がイマジナリーライン(視線)に近づくにつれて、被写体のサイズが大きくなっているのがわかると思います。
 会話シーンを引き画ではじめ、会話の内容が核心に近づくにつれ被写体のサイズが大きくなり、その正面にまわりこんでいくのがセオリーです。
1)レンズ、あるいは、2)ディスタンスによって、サイズを大きくしていくだけではなく、3)角度を鋭角にしていくことがポイントです。つまり、よりそれぞれの被写体の主観に寄り添っていくかのような効果、傍観から二人の関係性に巻き込まれていくかのような効果を得ることができます。

 一般にキャメラ(光軸)とイマジナリーライン(視線)がつくる角度が、垂直に近く横位置に近いほどより客観的、イマジナリーラインに近く縦位置に近いほどより主観的とされます。キャメラが登場人物の視線(イマジナリーライン)に近づくのですから、それが主観性を帯びるのは当然のことです。もしキャメラの光軸がぴったりイマジナリーライン(視線)に重なれば、それは見た目、Ponit Of Viewと呼ばれる主観ショットになります。
 要するにサイズもさることながら、イマジナリーラインに対するキャメラの角度が主観と客観の度合いを計る、より重要なファクターとなるわけです。
 それを利用すれば、『ファミリー・プロット 』(アルフレッド・ヒッチコック)での以下のような表現が可能になります。

ファミリープロット

 宝石店で、店主と客を装い密談するアーサー(ウィリアム・ディヴェイン)とフラン(カレン・ブラック)を、真プロフィールの構図逆構図と、真正面の構図逆構図で構成しています。ちなみに、真正面ではあってもキャメラ目線(光軸=視軸)ではないので、見た目ではありません。この場合、俳優はレンズのやや上を見るように指示されています。
 ヒッチコックは、店主と客を装う表向きの会話をプロフィールの切り返しで、他聞をはばかる内緒の話を正面の切り返しで描き分けています。疎外された客観的な視点と、登場人物の主観に寄り添った視点を会話の内容に応じて自在に使い分けているわけです。

異空間

 ここまで見てきたように、構図逆構図での切り返しは、イマジナリーラインに対してなされるわけで、結果、見えないはずのイマジナリーラインの存在がそこに含意されます。つまり構図逆構図の切り返しは、見えないはずのイマジナリーラインを見せようとするもので、逆に、イマジナリーラインを見せることができれば、異なる空間であってもつなぐことができてしまいます。

 ここでのイマジナリーラインはボールの動線ですが、そのイマジナリーラインに対して構図逆構図になるよう入念にキャメラの角度がそろえられているのがわかります。

 ここでのイマジナリーラインは、彼女のエールと言っていいかと思います。そのエールが届くように、即ち、構図に対して逆構図になるようにフレーミングされています。映画では、電話での会話シーンで同じような——異空間をつなぐ——切り返しを見ることができるでしょう。

 しばしば、構図逆構図は、教科書的で創意がないものかのように軽んじられますが、決してそんなことはありません。繰り返しになりますが、構図逆構図は、イマジナリーライン、即ち、見えないはずの関係性を我々に見せてくれます。ゆえに『ディア・ハンター』では、イマジナリーライン、即ち、友情という見えないはずの関係性を、張り詰めた緊張感の糸として色濃く見せるために、1)2)3)の条件を全てクリアした構図逆構図が選択されているのです。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?