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2019年10月の記事一覧

傷跡のマリア

他人の傷は何時も見えずに
僕達はそれを抉り笑う
どうして人は繰り返すのか
教えてはくれないのかマリア
あとどれ位貴方に跪き
この手を合わせればいい
僕は何もかも飽きたんだ
沈黙する貴方や美しい世界に
だから壊す事にしたよ
夜明け前にそっと盗んだ太陽で

カノン

声が出なくなった私に
需要が無いと知った
だから今日も音を出す
未来は見えないから
震え凍えそうな夜には
孤独を窘める歌を
故郷へ捨てた過去に
追い付かれない音を

ロシアンルーレットの犬達

相手を選ばずに暴れ回る狂犬は
鉄の柵に捕らわれ処分される
爆弾を巻き付けて特攻する軍用犬は
何の迷いも無くその命を終える
彼らは歩む道など選べやしない
人の掟に背けば始末されて
掟に従えば道具として捨てられる
銃弾を抜かないロシアンルーレットの
日々に散る仲間の躯を横切り
与えられた死の命令に従う
茨で編んだ首輪を嵌められて

自分で選べ

俺のやれたR1ーZが
あの娘のいる街へと向かうよ
君は酷く病んでしまい
死を与えられる日々を待つ
そこに自分の意思は無く
叶わない祈りだけが連なる
俺は父に生も死も自分で選べ
そう教わって生きて来た
正しいか如何かじゃないんだ
誰かに決めて貰う事を
俺は望んだりはしないだけさ
だから君の願いは聞けない
心が砕け人の形を無くしても

ミラージュ

ヒルビリーが演奏するマジックナンバー
ミルクホールのあの娘達は皆で騒ぐ
大人に為れない子供の群れは今日も
悪人の心を研ぎ澄まして切れ捲る
削れたガラスの粒子を数える数学者
何代も血を受け継ごうが答えは出せない
分かった所で誰も何も気にせずに
この世はミラーボールと共に回るのさ

ジュリア

スチレットナイフを使う
赤いスカーフを巻いた老人
遠い過去だけが彼を知る
ジュリアと言われたあの頃を
幾ら標的を消し続けようが
誰も彼を見付けられなかった
今も依頼があれば仕事を受けて
閑散とした街に擬態する
まるで夜にだけ舞う梟の様に
定められた死を届ける為

コークハイ

バラックの隙間から覗く上海で
コークハイを盗んで飲んだ
この世に永遠があるのなら
其れすら皆飽きてしまうのさ
そんな事を思いながらも
眠れない夜の片隅に隠れる
誰にも見つからない様にと
焼却に怯える縫い包みの心で

寒い国から来た娘

あの娘は名前を捨てて
寒い国から訪れた
秘密の任務を内に秘め
ときめきに死す為に
異国の言葉で歌を口ずさみ
月読を抱き人波に紛れる
夜の帳が下りたなら
彼女だけの舞台が始まる
観客も拍手すらない
孤独でしばれる演劇が

捲れた左目

全てを見通す左目のジュリー
慈しむ心さえ今はもう捲れて
枯れ果ててしまったよ
何時から俺達は意味も無い
曜日を祝うようになったんだ
分かり易く教えてくれないか
どんなに巧みな嘘だろうが
この左目は見抜いてしまうけど
騙された振りをするのもいい
どうせ誰にも俺の左目に映る
熱い涙は見えやしないのだから

ゴッドジャズダイス

神に愛されたジャズマスターは
全ての罪を許されるらしい
その場所に辿り着くには
同じダイスの目を28回出せば良い
皆確かな名声と枯れない富を求め
安い命を賭け消えてしまう
しがない儘で死にたくないから
場末のキャバレーで壁に向け
演奏する生き方は選べない
だから今日もダイスを振るのさ
燃え滾る欲望に背中を押されて

或るノアール

崇高なる者だけが
神に仕えられるのだとすれば
俺達はその向こうへ行けない
黒を纏っているのだから
十字架に追い縋るその姿を
俺達は憐れんだりしない
自分で選んだのならば
その命すらも渡せばいい
弱い者は何処に行こうが
踏み付けられ奪われる
其れを瞳に映して俺達は
黒く染まる事を望んだのだから

月と影

一人は寂しいでしょうと
月が話しかける
貴方の明かりを借りると
影はそう答えた
何処か似ているねと
月は遠くを眺めて囁く
貴方には為れないと
影はそう言い残して消えた
満ち掛けた海の向こうへ

彼方

殺す為に生まれて来た
ブリキの兵隊達は
何の疑問も持たずに
戦場で安い命を散らす
倒れて剥き出しになった
鉛の地肌をした仲間の
躯を見て初めて遠い彼方に
行って見たいと思い
今日も皆で死の河を渡る
此処が世の果てとは気付かず

サン・クレイジー

どこで間違ったのかと
今更後悔しようが
腰のベルトに差した
花火を撃つ事は変わらない
所詮使い捨てだろうと
求められたのなら
叶えようじゃないか
狂った太陽に咎められ
父と母の涙が枯れ果てても