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塗(まみ)れる

逃げることに慣れてしまった。苦しまずに済むように、私は逃げ続けてきた。あらゆる物事から。

しかし何故だろう。苦しみたくない自分の背後に、もう一人の自分の存在を感じる。そいつは際限なく苦悩を欲している。苦悩こそが人生と言わんばかりに、苦しみに塗れながら生きることを楽しんでいる。

苦しみたい私は、苦しむことでしか得られない何かを欲しているのだろう。それは何なのか。苦しまずに済む方法か、哲学的帰結か、生への要求か、死への渇望か、苦悩のための苦悩か。

苦しみたい私が、逃げようとする苦しみたくない私の肩を掴んで告げる。

「苦しみたくない自分、苦しんでいたい自分。どちらも私だ。お前だけいい想いなんてさせてたまるか。一緒に堕ちよう、苦悩とともに」

ヘドロのような苦悩が私に覆い被さる。私は苦しみながら笑う。ヘドロの不快な感触を掌で弄びながら。

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