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リアリティドラマ シーンイメージ〜「キッズジャーナルエディタ試験 シノハラセリアのケース」(ドラフト)

子供によるジャーナリズム。『キッズジャーナル』のエディタ
シーンイメージ

篠原セリナ
2007年生まれ。
姉弟のシングルマザーの長女。

試験

(どうか受かりますように)

セリナはモニターの前で両手を組んで祈る。
『就学義務猶予免除者等の中学校卒業程度認定試験(中卒認定)』いわゆる中認。今年2019年秋の問題。
ただジュリはまだ12歳だから本物の試験は受けられない。中認が受けられるのは15歳からだ。日本ではまだ義務教育での飛び級は許されてない。
ではなぜその試験問題に取り組んだかと言うと、それが条件だったからだ。『キッズジャーナル』に入るための。

『キッズジャーナル』は子供だけでやってるニュースサイト。20歳までの子どもたち・若者だけで企画取材編集をすべて行う。内容は子供向けではない。一般向けだ。
スタッフに年齢の下限はないが、中卒認定レベルに相当する学力があることが条件。15歳に満たなければ全科目90点以上が原則だ。相当厳しい。

セリナは早くこの活動に参加したくて仕方なかった。母親の影響があるのだろう。シングルマザーのセイコはベンチャー企業を経営していて、仕事や色々な活動に小さい頃から連れ出していた。いろんな大人と直接触れ合っていろんなことを見聞きした。そんな彼女だから『キッズジャーナル』に関心を持つのは自然なことだったのかもしれない。

「シノハラセリナさん。合格です。よくやりましたね。」

ネットの向こうから審査員の声が聞こえてくる。点数はリアルタイムで出るから、まぁこれはいわば儀式だ。

「やったぁ!」

セリナは何度もガッツポーズをして、後ろを振り返り、母親の胸に飛び込む。母親のセイコはジュリをぎゅっと抱きとめる。

「セリナ、グッジョブだね。さすがママの子」

「ねえちゃん、すげーや」

横にいる弟のケントと手を握る。

「でも・・・まじか?ズルしてない?」
ケントはちょっと意地悪い表情に変える。

「あら?ケント。あなたならズルするの?」
セリナが顔色を変えそうなのを見てとって、すかさずセイコは問いかける。

「んー、そうだなぁ・・・僕だったら・・・するかも」
「あんたは要領がいいからね」
たしかにテストとはいえ監督官が見張ってるわけでもなし、ズルならいくらでもできる。

「でもねえちゃんの目的はキッズジャーナルだろ?それと中認とあんま関係ないじゃん」
「あんた10歳のくせしてちょっと分かったようなこと言って・・・」
セリナはケントのおでこを小突こうとして手を上げる。

「ママだって言ってたよね。スマホを使えば解けるような学校のテストなんてって」
姉の攻撃をひょいとかわしてケントは母親を見上げる。
「あら、そんなこと言ったかしら?」
セイコは肩をすくめてベッドに腰を下ろす。

「たしかに・・・正直言うと・・・そうね。スマホで検索したり電卓で計算すれば済むテストなんか今の時代どうなのって・・・」
セイコはふたりを前に並んで座らせる。
「言ったかもなぁ・・・」
目線を上げて軽く頭を揺らしながらおどけてみせる。

「ねぇケント。あなたサッカーやってるわね。なんで手を使わないの?」
ケントは口を開こうとするのを人差し指を立てて遮る。
「あ、あ、キーパー以外はね」
ケントはそういう減らず口を叩きたい年齢だってことは知ってる。

「う・・・ルールだから」
「そうね。ルールがあってそれを守ってプレイするわよね。ルールを破ったらどうなるの?」
「ペナルティ」
「そのルールって、どうなの?おかしい?納得いかない?」
「いいや。サッカーってそういうスポーツだもん。手を使いたいならバスケやる」
「納得してるのね?セリナはキッズジャーナルの条件に中認ってどう思ってるの?」
今度はセリナの方を向く。

「ん・・・そういうもんだと思ってたけど・・・でもありかもって思う。社会のことをちゃんと大人向けに記事にする編集やるのに、義務教育くらいの知識は最低限だよね」

『キッズジャーナル』は子供の”学校新聞”じゃない。ちゃんと会社やお役所とかの大人に取材して一般のジャーナリズムの発信するニュースと同じクオリティの記事を発信する。いやある点ではそれ以上かもしれない。それはわかりやすさ。既存のジャーナリズムとの最大の違いは「子供の視点」。ピュアな子供の視点で、疑問を納得いくまで詰めていく。忖度なんかない。文字通り「子供でもわかるように」説明を求める。”大人の事情”なんて誤魔化しは許さない。そこが子供の有利なところだ。

「でもそんなもん、必要になったら調べればいいじゃん」
ケントも譲らない。
「そのくらい頭に入ってないとだめだよ。いちいち調べたりしなきゃいけないなんて」

「それはそうね。じゃテストって何だと思う?それってサッカーとかのスポーツと似たようなものと言えるわ。みんなが同じルールに従ってやる、ゲームみたいなものね。ルールがあるからみんな同じ条件で比べられるの。」
「ゲームかぁ・・・」
同じことを感じたかどうかは別にして、ふたりともちょっと考え込む。

「”読み書き算盤”、ってわかるわよね」
「読んだり書いたり計算とか!」
ケントが先を争って答える。
「そうね。お勉強の基本だけど、実はそれ以上のものなのね。頭を働かせること」
セイコは自分の頭を二度指でつついてみせる。

「頭を働かせる癖をつけるのって大事なのね。だいたい12歳までって言われてるわ。憶えることや考えることもね」
「あなたたちよく言い合いしてるわよね。今もやってるけど、どう?いっぱい色々知ってる方が有利でしょ?」
「ママはね、いつも感心するの。あなたたちの言い合いって、”バカ”とかみたいな低レベルな言葉は言わないのね。ちゃんと中身のあることを言い合ってる。セリナは年下だって手加減しないし、ケントはお姉ちゃんにしっかり鍛えられてるってこと。あなた達は頭をいっぱい使う習慣がついてるのよ」
セイコは笑顔で言う。
「ケントは今10歳だけど頭は12歳、いえもっとね。ね、サッカー、強い相手とやるのと弱い相手とやるの、どっちが面白い?」
「そりゃやっぱ強くないとつまんないな。へなちょこじゃやる気になんない」
「その方が自分も上手くなれるでしょ?それと同じなのよ。知能も。」
「セリナはよくママの仕事に連れていくけど、いろんな大人の人とお話してるでしょ?」
「うん。あれ楽しいんだ。結構人によっては言うことが違うんだよね。あれも面白い」
「そうね。人それぞれでいろんな考え方があるのね。立ち位置とか情報とかで正反対のこともあるわよね。それをちゃんと受け取って理解しようとしてるあなたはそれだけ成長してるのよ。ママはそれがすっごく嬉しいの。だから『キッズジャーナル』やりたいって言ってくれた時、ナイスって思ったわ。」
「うん。だからやりたいと思ったんだ。もっといろんな人の考えを知りたいって」
「でもねえちゃん、もう前から取材とかやってるじゃん。10歳からだよね。僕は9歳からだから、僕の勝ち!」
「その時はあんたわたしの取材に一緒について来てただけじゃない」
「ちょっとちょっと、そこに勝ち負けはないわね。弟のあなたがとっても賢いのはこの素晴らしいおねえちゃんのおかげよ。2レベルくらい上の強敵と毎日戦ってるんだから」
セイコはふたりを制して言う。

インタビュークルーはサイトから自由に登録して、用意されたテーマについて自分で調べてポストすればいい。ただしチームを組むことがルールだが。地元で取材が必要なテーマについて実際に関係者にメールとか時には会ったりして話を聴く。結構な有名人とか企業とか政治家にも直接取材が取れる。それは『キッズジャーナル』の”看板”のおかげだ。ネットに流れてる二次情報ではなく一次情報を集めるのも『キッズジャーナル』のポリシー。

「でもひとりひとりに結構時間がかかるから、やっぱりそんなたくさん聞けないんだよね。そこがちょっとじれったくてさ」
とセリナ。
「だから編集やりたいの。世界中のいろんな人のいろんな考え方を知りたい」

今『キッズジャーナル』は日本国内だけに留まらず、インターナショナルなネットワークを作ろうとしてる。何カ国かにサイトがあって現地で同じように子どもたちが取材する。共通のテーマについて国ごとの状況を取材して併記する。
世界共通のテーマといえばたとえば今一番ホットな「温暖化」みたいな。それも予め”正しい”という前提じゃなく、世界中の懐疑論やとんでも陰謀論まですべて網羅してデータでパラレルに比較する『ファクトフルネス』。また単に危機としての問題だけじゃなく、自分たち世代の未来にも視線を向けている。それを解決する今実際にあるテクノロジーやビジネスについて日付入りの『フューチャーヒストリージャーナル』を作っている。

「でもテーマもいろいろたくさんやりたいのがあるから、困っちゃう。あー時間がない」
「あなたはほんといろんなことに興味を持ってるものね。とりあえず15歳までのタイムラインを描いてみるといいわ。良かったわね。『SCHOORE』だから時間は全部あなたのものよ」

実はセリナもケントも学校には行っていない。というか文科省教育の学校には通ってはいない。オンラインとソーシャルラーニングの『SCHOORE』というシステムで学んでいる。
知識教育はオンラインでビデオコンテンツや学習アプリ。15歳までに、中卒認定取得を学習の目標としている。学年という区分はなく、それぞれのペースでレベルを進める。カリキュラムは完全にパーソナライズされている。
もちろんオンラインだけでは不十分だ。コミュニケーション力。社会で生きていくための重要な力。それを育成する仕組みがソーシャルラーニング。それは学校という”箱庭”ではなく実社会で学ぶシステムになっている。いろいろな分野の社会人が”指導者”になって子どもたちに実際的な教育機会を提供する。企業ならプチ・インターンシップ。ボランティアもあればボーイスカウトもある。『CrowdVenture』で生まれたプロジェクトの多くがそこにジョイントしている。そして『キッズジャーナル』も同様にだ。

”時間は全部あなたのもの”
『SCHOORE』は完璧に自由だ。極端な話、勉強が嫌ならやらなくてもいい。ただひとつだけ知っておくべきこと。自分にはどんな未来があるのか。
つまりそれは自分で自分の未来をデザインしていくこと。それが最初の一歩だ。

「さ、これから第二ステージね」

「これでエディタセクションできるんだよね?」
ジュリは母親の顔を見て確認する。

「あ、そうね。もう一歩。インタビューを受けてOKだったらね」
エディタセクションに入るには面接がいる。オンラインで5回、5人のインタビューを受ける。

「あーそぉだったぁ・・・」
ジュリはちょっと口を尖らせて天を仰ぎ見る。

「じゃ面接の申込みをなさい」
セイコはスマホをジュリに渡す。

「これはあなたのよ。合格のお祝いね」
ジュリは目を輝かせながらそれを受け取った。


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