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【運用部コメント】直近の原油価格と新興国通貨の動向につきまして

当社では2016年からロシアルーブル建て、2018年からブラジルレアル建てのファンドを販売・運用しております。ロシアやブラジルは新興国であるとともに、原油を産出する産油国としても広く知られています。直近、原油価格の下落に伴って、これらの国の通貨の為替レートも大きく変動しております。今回はこれらの足元の動向と今後の展望につきましてお伝えしてまいります。

直近の原油価格下落の主な要因

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴うリスク資産からの逃避の流れを受けて、新興国通貨は連鎖的な通貨安に直面しています。その中でもロシア、ブラジルをはじめとした産油国では原油市況の低迷も重なり、これらの国の通貨は大きく下落しています(図1)

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原油価格下落の主たる要因としては、OPECプラス協調減産合意が2020年3月末期限であることを受け、2020年末までの減産を訴えるOPEC産油国と2020年6月末までの減産措置の延長を主張するロシアとの間での交渉決裂が引き金となったことが考えられます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、世界の原油需要の鈍化が予想されています。また、世界的に景気後退の局面を迎える中で、減産措置の延長が原油価格の下落を抑える手段にはなり得ず、アメリカのシェール企業に原油市場のシェアを奪われることを懸念したロシア側の判断も伺えます。

ロシアもブラジルも通貨安圧力に弱い国ではない

通貨安圧力に弱い国に共通していることは、外貨準備の少なさが挙げられます。IMFは過去の通貨危機のデータから適正な外貨準備高の基準を設定しており、Assessing Reserve Adequacy Metric(ARAM)と呼ばれる計算法を用いて、①輸出、②マネーサプライ、③短期対外債務、④その他負債をそれぞれ重みづけし、外貨流出リスクを算出、適切な外貨準備高の目安を計算しています。この目安を上回る外貨準備があれば通貨安に対する耐性を備えている国とされています。

各国の「外貨準備高/ARAM」が100%~150%をIMFの適正値としており、この指標によると、図1の新興国通貨の中でもロシア、ブラジル、メキシコ、インドネシアの外貨準備高は適正水準であるといえるでしょう(図2)

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その中でも、ロシアはとりわけ潤沢な外貨準備高を維持しており2015年以降は新興国の中でも抜きんでていることが見て取れます。これほどの外貨準備高を維持しながら通貨の大幅な下落に見舞われているのは、ロシア・ウクライナ間の紛争、ロシアに対する経済制裁などの地政学、政治要因があったためといえます。むしろ、それにもかかわらず、ロシアルーブルが近年比較的安定していた要因の一つには、外貨準備高が適正かつ潤沢であったことが背景にあると考えられます。

一方、ブラジルにおいても通貨安に対する耐性の強さは維持しており、通貨安が広範な債務危機に発展するリスクは限定的であると考えられます。上記のように、ブラジルもロシアほどではないにせよ、外貨準備高が潤沢であり、政府を中心に外貨建ての債務が低いことが挙げられます。

下の図3は各国の対外債務(対GNI比)を表した図となります。ここで、GDPが「国内で1年間に生産されたモノやサービスの付加価値」であるのに対し、GNIは「居住者が国内外から1年間に得た所得の合計」であり、実体に即した国の豊かさを示す指標として GNI が注目されてきています。

ブラジル、ロシア、メキシコなどの外貨建て債務対GNI比は、新興国の中でも相対的に低く、対外脆弱性は低いといえるでしょう。例えば、同じく南アメリカに位置するアルゼンチンなどの新興国では、政府を中心に外貨建て債務比率が高く、外貨準備が枯渇するなど対外面での脆弱性を抱える中で、通貨安が債務危機をもたらしましたが、ブラジルが同様の道を歩む可能性は低いと考えられます。

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新興国通貨反転の鍵を握る原油価格の今後の展望

原油に対する一定の需要は存在することから、多少楽観的な見方にはなりますが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が収束に向かえば、原油需要も増すことが考えられます。また、産油国が2020年6月のOPEC総会を皮切りに協調に向かう展開となれば、原油価格持ち直しというシナリオも描くことができるでしょう。

そして、そのような中、以下の5点が焦点となって原油相場に影響を与えていくものと考えられます。

1.  米国と中国との貿易紛争に関する第二段階の合意に向けた交渉状況
2.  米中をはじめとした世界の経済成長の見通し
3.  石油需要の伸びの見通し
4.  米国とイランとの対立を含む中東情勢の安定性を含めた地政学的リスク要因
5.  収益確保を優先するよう圧力を加えられているとされる一部米国石油会社を含む石油会社のシェールオイル開発・生産方針と生産状況

現時点での状況は極めて厳しく、事態の長期化は世界経済の混乱の火種となることが懸念されるものの、こういう時こそ過度な悲観に振れず冷静な検証、状況判断を心掛けたいところです。

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