百貨店にて

タワーレコード・オンラインで山田祐伸+横山祐太+塚野洋平『knut』を注文した。受け取りは近所のセブンイレブン。到着は2,3日中、送料、手数料は無料だ。

帯広という街に住んでいる。食べ物の美味しい、いい街だ。しかし、田舎だ。

駅前の長崎屋というビルに、喜久屋書店という大きめの本屋があり、新刊本が欲しければ、概ねそこで事足りる。CDに関しては、WOWという建物に入っているWAVEという店が最大規模、だろう。映画館はパチンコ屋の巨大なビルの一番上にシネ・コンがひとつだけある。しかし帯広で一番文化的な施設はBOOK OFFだ。棚一面の商品をラインナップを眺めるにつけ、冗談抜きにそう思う。

山田祐伸は帯広の出身だが、山田祐伸+横山祐太+塚野洋平『knut』のCDが発売日に購入できる帯広近辺のCDショップはひとつもない。注文しようとしたところ、一週間かかると言われた。

正直、もうCDなんて流行らない、のだろう。僕はCDがいつかアナログのように雑貨として人気が出ると思っているが、それも(早くとも)もう少し先の話、だ。

昔、高橋しん『いいひと。』という漫画が好きだった。その中に、こういったくだりが出てくる。

「『百貨店』なんだから、『百貨』揃えましょうよ」

確か、もう閉店が決まったデパートの、スポーツ用品コーナーに出向した主人公が言った台詞で、僕はこの話が『いいひと。』の中で一番好きだ。売れ線だけを置くのではなく、フロアに並べられるだけの種類を置く。そういったアイデアが話題になり、売上につながるのだが……、という話だった。

正直に言ってしまうならば、地元のCDショップなんて、百貨どころか何も置いていないのと殆ど同じだ。少なくとも僕にとっては。

帯広のある十勝という地方では、先日、音楽フェスがあった。食料とは正反対に、音楽的な土壌が痩せ細っている土地で音楽フェスもなにも無いものだと思ったが、案の定、面白くもなんともない面子を揃えた、別に音楽じゃなくてもいいようなフェス、に見えた。

勿論、面白い人たちというのはいる。帯広にもライブハウスがあり、そこに集まる人々があり、ネットワークがある。たとえばthe hatchのアルバムはtoiletのキムさんがやっているSOLDIER FARM DISTROに注文した。手渡しで受け取る予定だ。ちゃんと特典も付く。

御茶ノ水のレンタルCD店『ジャニス』が閉店するらしい。僕は入ったことこそ無いが、まさに『百貨』揃った店だった、と聞いている。しかし、それは東京の話だ。帯広に33年住んでいる人間からすれば、(何度か訪れたことのある)異国の話みたいなもの。

いくらか、普通の人よりは音楽を聴いている。そういった趣味を持っている。僕の教師は近所のツタヤであり、ブックオフだった。

もう、『百貨』揃うことはないだろう。それでも、すばらしい音楽は生まれ続けている。もっと言うのならば、音楽がつまらなかったことなんてない。文化が衰退しているかと問われれば、僕は返答に困る。しかし、この程度、ひと工夫で何とか出来るような気もしている、のだ。


投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。