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米津玄師『STRAY SHEEP』の第一印象

今年のリリースで最も注目されたもの、ということになるのだろうか(まだ8月だが)、僕自身も「Lemon」で米津玄師に注目しだした日の浅いファンということで、新譜として米津玄師のアルバムが聴けることにワクワクしていた。そういうことはあまりあるものではない。

で、第一印象、ということになるのだが。個人的にはこう、『微妙』とまではいかないのだが、『良いけど地味』くらいになるのか、というのがあった。

たとえば、UNISON SQUARE GARDENというバンドが「シュガーソングとビターステップ」という楽曲をアンセム級にヒットさせながらも『Dr. Izzy』というあまりにいつも通りの『守りに入った』アルバムを作ってしまった時、と同種の残念さ、勿体なさを感じた。

と、冒頭からあまりポジティブではない語り口になってしまったが、今作はいいアルバムである。「Lemon」以降のあらゆるヒット・ソング(それらはどれも野心的な仕上がりだ)もすべて収録し、セルフ・カヴァー、発売前から話題になっていたRADWIMPS野田洋次郎とのコラボレーションなど、あくまでオルタナティヴを消化し、そういった層を納得させ得る内容の高品質なポップ・ソングばかりが収録されている。

では『地味』という印象は何と比べて、という話になるのだが、やはり前作『BOOTLEG』だろう。あれらはまだ、『Lemon』級のヒットを為し得てはいなかったが、一曲ごとに何が飛び出すのかわからない『驚き』があったように思う。

僕がこの文章を『印象』としているのもそのためだ。おそらく今作で初めて米津玄師に触れた、という人であれば僕よりももっと鮮烈に衝撃を受けているのだと思う。楽曲のクオリティは明らかに上がっているし、満足度も高い。

その上で、いくつか気になった部分を挙げてみたいと思う。

まず、セルフカヴァーが浮いている。前作『BOOTLEG』と違い、『STRAY SHEEP』という作品はひとつの物語を意識して纏められている(ナタリー等参照)のだが、「まちがいさがし」と「パプリカ」は『米津玄師の世界観』というよりは提供曲のために作り上げたもの、という印象が強い。どちらのアーティストも純朴さや木訥さ、といったものを魅力としていることが、米津玄師の『世の中をヒネたような』魅力を持っている歌唱と相反しており、その大胆なアレンジも含め、元の方が良かったな……と思わされてしまう。

もう少し言うと、この2曲に関しては『ファンサービス』という要素が強いな、とも感じてしまう。提供曲でありながら『米津玄師が歌うバージョンを聴きたい』という要望に応えるためのものであって、何かしらの音楽的意義より先にファンが望むことを、(嫌な言い方になるが)『歌ってみた』的な需要を見込んだもの、という感じがする。

そして次に、バンド・サウンドの大幅な減退。これは好みの問題といえばそれまでなのだが、前作にあった「ピースサイン」のようなわかりやすいバンド・サウンドが鳴りを潜め、全体的に『シンガーソングライター米津玄師』の作品になった、ように思う。もちろんそれはそれでよく完成されているのだが、『BOOTLEG』にあったようなバラエティ感の欠如に繋がってしまっている気がする。

関連して、なのだが、バンド・サウンドよりもモダン・SSW的な作風になったことにより、音のスキマが埋まってしまったような、いくらか息苦しい音作りになった気がする。おそらく、今作で最もロック的なサウンドは「TEENAGE RIOT」だと思うのだが、この曲がもし前作、あるいはそのような作品に入っていたら全然違うミックスだったのではないだろうか。

とはいえ、「TEENAGE RIOT」は国府達矢『ロックブッダ』に端を発してWRENCHやAge Factoryといったアーティストが進化させていった『最新型のミクスチャー・ロック』の流れにある楽曲と思えば、こういったミックスも納得なのではあるが。

しかし、「優しい人」や「ひまわり」は本当に好きだ。特に「ひまわり」は、このタイトルで、この曲調で、この歌詞が書ける、というのが本当に凄い。

米津玄師の歌詞というのは、多作な人なので様々な視点があるのだが特に、様々な『(遠くにいる)あなたへ』と宛てた歌詞が多く、そこに米津玄師というアーティストの持つ、どこか弟的な人懐こさがあるように思う。「感電」の歌詞などは完全にブロマンスというか、商業BLの帯みたいなフレーズが続くな、と思うのだが、フェミニンというか、女性的な視線を一度通したような歌詞を書く人という印象がある(過去作の「アイネクライネ」などはそのままだ)。

今作に対して僕が感じる違和感は、『正解』を掴んだ米津玄師が『正解だけを選び続けているような』アルバムだ、ということに尽きるのかもしれない。それはやはり『守り』のアルバムであって、実験を感じさせない、というのが個人的にしっくり来ない。

まだまだ、米津玄師にしか見せられない、『新しい景色』があるように思う。そう思わされるアーティストの、そう思ってしまうアルバム。


投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。