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エッセイ

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#自己紹介

人生を変えた「鉄の棒」

「今までの人生の中で一番のターニングポイントとなった出来事はなんですか?」 ともしも誰かに聞かれたら、私は迷わず、 「鉄棒です」 と答える。 ===== 小学1年生のある日、体育の授業で鉄棒をすることとなった。横一列に並ぶ鉄棒を前に生徒が並ぶ。順番に、「つばめ」という技から練習に入る。鉄棒を両手で持って、自分の体を持ち上げ、上体をやや前傾に保ち、まるで燕が飛んでいるかのような格好をすることだ。 私はつばめに関しては難なくクリアすることができた。そのあと先生が「次は前

シチューを作ると「ガラスの天井」が崩れる音が聞こえた

「これは食べ物じゃないから捨てるね」 大学2年生の秋。この言葉を聞いて以来、私は料理を辞めた。当時付き合っていた彼女に言われた言葉だ。 大学の近くに一人暮らしをしていた私には、半同棲をしていた彼女がいた。正確にいうと、門限が厳しく、夕方になると実家に帰るような人であった。 そんな人が、今日は両親が旅行で出かけているから...という漫画でしか聞いたことがないセリフを言って泊まりに来た。 普段なら絶対起きていない時間帯まで、映画を観たり、夜通し話をした。電気を消して天井を

3メートル先を照らしながら歩いていく

私と「はたらく」の初めての出会いは、1メートル四方の試着室の中だった。 社会に出て働きたいなんて一度も思ったことはなかったが、大学3年生の時に、ついにリクルートスーツを買った。 正確には親に買ってもらった。これから就職活動をする私のために、正月の休みを使ってスーツを選んでもらった。 「試着してみなよ」 と言う親の声に、全く気乗りしない声で面倒臭そうに答えて試着室へ向かう。 「サイズが合わなければお声がけください! 」 店員が餌を見つけたかのような声で、試着室のカー

堕ちて出逢えた「無色」の自分

中学校の終わりくらいの歳になってからだっただろうか。誰かの目に映ることを極端に恐れるようになった。一方で、「何者か」にはなりたかった。自己表現したいけれどうまくできない、そんな曖昧な思春期を送っていた。 そんな中、自分を表現する唯一の手段があった。それはバドミントンだった。 暑さ40度を超える体育館の中、乾いた床にシューズが甲高く擦れる音。わずか8センチにも満たないシャトルを打つ音。ぶっ倒れる寸前まで走り込み、コートの傍で汗を拭いながらキンキンに冷やしたポカリスエットを飲