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ミドルコロナの同人誌即売会はどこへ行く?

興味深いニコ生の番組が放送されるらしい。
ネット超会議特番 同人即売会代表座談会@ニコニコネット超会議2020
4/17(金)の19時~。コミックマーケット準備会赤ブーブー通信社&青ブーブー通信社スタジオYOUコミティア実行委員会博麗神社社務所の5団体の代表が集い、

新型コロナウイルス感染症対策の影響、政府の緊急事態宣言、東京都など外出自粛要請により、様々なイベントが開催の中止や延期を迫られています。
そんな中で、この番組では同人即売会を主催する団体の代表の皆さんにお集まりいただき、各団体のこれまでのコロナ禍の影響、資金面など様々な苦境について、また、リアルイベントの大事さをざっくばらんにお話頂きます。
(「同人即売会代表座談会」公式ページから引用)

という企画。コミケGW開催をはじめとしたオリンピックイヤーに向けての『臨戦組織』であった「DOUJIN JAPAN 2020」のうちの主要5団体が集まり、なかなか興味深い話が聞けそうだ。これまでもコミケ当日の一斉点検ソングを公募したり、「ニコニコ超会議」「コミケットスペシャル6 OTAKU SUMMIT」で互いに出展・協力し合うなど、コミケット準備会との協力関係を築いてきたniconicoならではの企画であり、即売会全体の現状について時間いっぱい伺えることを期待したい。

だが、世の中はますます混迷を極めている。同人誌即売会どころか社会全体が袋小路に陥り、出口の見えない暗闇の中でめいめい進むべき道を差しあぐねているようだ。即売会の今後を見渡そうにも、果たして「アフターコロナ」がいつ来るのか…。
現在、中止になった主要即売会の主催団体はSNS・Twitterのハッシュタグにおいて「エア○○○(イベント名)(※1)」を積極的に推し進めることで、存在感をアピールしつつ参加者の継続的な意欲を惹起している。即売会の開催自体を旨とする団体のこれらの行動は、未だ見えない「即売会の再開」へのつなぎ、という要素が強く窺えるものだ。SNSでの一時的な盛り上がりは、悲観的に捉えれば迷宮に点る幻光のようにも思えてしまう。
だが、これを即売会の新しい形の一つと見ることも可能であるはずだ。それは、まさしく今後即売会がどのような外圧を食らい、どのような変化を余儀なく迫られるか、という問題と直結する。そしてその「変化」は今までも「苦肉の策」の結果だった。
つまりはいつの世も、現状の苦難の中に今後の即売会の種が意地悪く蒔かれるのである。

(※1・コミケット準備会は「がんばろう同人」プロジェクトの中で「エアコミケ」をPRするほか、赤ブーは「エアブー」タグを推奨。いずれもSNSを介して参加者・印刷所・同人ショップを結ぶことに力点が置かれている)

今はいかなる「危機」なのか?

C98が「コミックマーケット史上初の中止」になったという事実。これはどのように位置づけられるべきか。
コミケがこれまで迎えて来た、開催に関わる大きな危機を概観すると次のようになる。

1975年…日本漫画大会による運営批判参加者の拒否→コミケ誕生)
 1981年…コミケ分裂騒動→現状維持派が晴海で開催、存続(C19)
 1988年…同年冬コミの会場確保できず→翌年春コミ(C35)として開催
 1991年…有害コミック騒動、コミケ幕張メッセ追放→晴海で開催(C40)
 2013年…東京五輪に伴う2020年会場問題→GWに前倒しで開催(C98)
    ※参考…コミックマーケット準備会「コミックマーケット年表」

個々の詳細は他稿に譲るが、これらの危機は次の3つの要因に類型化することができる。
①「表現の自由」に関わる問題(1991年)
②コミケの規模・会場問題(1988年、1991年、2013年)
③運営の体制問題
(1981年)

このうち②はコミケ特有の問題である。規模が爆発的に膨らんでいくに従って常に付きまとったこの懸案は、とりあえず1995年以降東京ビッグサイトを継続して使用し続けており、長期的には安定を見ている。
同時に③においても、準備会は規模に応じた組織を編成することで「数寄者の同好会」に留まらない地位が承認されるようになった。オリンピック開催により、夏コミ開催が危ぶまれた2020年においても「都知事がGWに開催の便宜を言明する」という形で何とか開催にこぎつけられた(予定だった)のは、長年築き上げた規模と組織の賜物であった、と個人的には思う。

例外的に①は、同人誌・即売会界隈全体に関わる問題であった。そもそもコミケは「日本漫画大会による、運営批判を行った参加者の拒否」に反発する形で成立し、その後の即売会もその流れを汲んでいる。限りなく「表現の自由」を求めてきた同人誌が、法律によってその形を矯めざるを得なくなったのが有害コミック騒動だった。
しかし、この時は同人誌即売会全体が中止に追い込まれる、ということはなかった。民間団体の催事開催は、そう簡単に妨げられることはない。結局のところ、即売会は絶えず「エロ」と「二次創作」の動向に気を配りつつ、何とか現在に至るまでの隆盛を維持してきた。

そして2020年。変則コミケを決定事項としつつ、あとは他即売会の開催機会減少に伴う同人誌文化の減退を何とか食い止める(それが「DOUJIN JAPAN 2020」という形を取ることになる)、という問題意識へと即売会事情は進んでいた。はずだった。

現実は「疫病」という災厄に、同人誌即売会自体があっさりとなぎ倒された。
中規模~大規模な即売会の開催実績は、2月末~3月に急激に変化する。

2/9  (日)…コミティア131(開催)
        →2/1に「体調管理のお願い」を掲載
2/16(日)…TOKYO FES Feb.2020(開催)
2/23(日)…HARU COMIC CITY 東京 26(開催)
      →開催を危ぶむ声もあるが、注意喚起(Twitter)を頻繁に発信した上で開催。
~~~2/26(水)…首相、イベントなどの中止・延期を要請~~~
2/29(土)・3/1(日)…技術書典8(中止
                      →コロナ禍による中規模イベントの中止が発生。
3/1  (日)…M3-2020春(開催)
3/8  (日)…サンシャインクリエイション2020 Spring(中止
        TOKYO FES Mar.2020(中止
      →サンクリ・赤ブーの中止が始まる
3/15(日)…HARU COMIC CITY 大阪 27(中止
3/22(日)…僕らのラブライブ!25(開催)
~~~3/25(水)…都知事、週末の不要不急の外出自粛を要請~~~
3/29(日)…スーパーヒロインタイム2020春(中止
      →これ以後、会場からの要請を受ける形で即売会は原則開催不可に

実際、オリンピックの危機があっても「同人誌即売会」は無くなることはない、と信じていた人が殆どだったはずだ。
「大規模な即売会が危機に陥っても、中小の即売会は開催される。それが中止になっても、また別の誰かが立ち上げれば大規模即売会は戻って来る」。元々、商業誌といった主流の表現へのアンチテーゼ・オルタナティブとして成立した同人誌即売会の持つ「草の根」的性格が、即売会を不滅のものとして信じさせた。どんなにネットが発展しても、どんなに紙の同人誌作りにハードルがあっても、求める人がいれば即売会はそこにある、と私も信じていた。

しかしながら、今回の危機は上記の想定とは異なるものだった。同人誌即売会が「物理的にできなくなる」という異常事態。そこに草の根も何もあったものではない。
多くの生命保険には、免責事由として「戦争による場合」という項目がある。それでも皆が保険に入るのは「戦争など起こらないだろう」という根拠のない自信(諦め?)があるからだ。また、「雨が降ろうが槍が降ろうが」という言い回しがある。「どんなことがあろうとも」という意を表す言葉だが、本当に槍が降ってきてもやり遂げるつもりだったのか。

コロナ禍は日本だけでなく世界を覆っている。かつてコミケット準備会の米沢前代表は、会場が第1期晴海からTRCに移った1986年・C31の挨拶で次のようなことを述べていた。

その広さと孤立性(陸の孤島)でコミケットを巨大化させてきた晴海はある意味で楽園でした。しかし、禁断の果実に手を出さなかったにもかかわらず、コミケットはエデンを追われてしまったのです。(中略)何にしても、今想うのは場所の維持だけです。
(コミケット準備会『コミックマーケット30’sファイル』p130)

これを全ての即売会に置き換えたのが今の現状といえる。問題は、既に件の即売会におけるエデンが全地表を覆い尽くしてしまったことだ。どこまで行っても荒廃したエデン、逃げ場はない。

その点で今回即売会が軒並み中止になるという事態は、同人誌即売会始まって以来の危機である。残された道は「エデンが治癒されるまで待つ」と「地中に向かって活路を見出す」の2つしかない。具体的には、「リアル即売会」と「ネット即売会」の未来である。

同人誌即売会の今後?

現状は前者の路線で動いているようだ。すなわち、「同人誌即売会の枠組みを維持しつつ、開催できるまで待つ」という路線である。

前述の「エア〇〇〇」も含め、この路線には印刷会社・同人ショップの協力が欠かせない。これらと即売会は現状、一蓮托生の関係にある。そしてこの連関は簡単に崩すことはできない。
現にとらのあな・メロンブックスは「コミケカタログ売上の全額を準備会に還元する」ことを謳っている(とらメロン)。これは「同人ショップはコミケ無くしては成立しない(=委託される同人誌その物が発行されない)」一方で、「コミケが無ければ委託書店で買う人が増えるはず(=一回分のカタログの取り分が無くてもある程度の補填はできる)」という、相矛盾する現実と希望的観測の綱渡りであると見ている。
こういった同人ショップが、同人誌即売会からの独立という決断(専売同人誌の発行・商業誌の充実)を短期間で図るとは考えられない。
つまり「共倒れ」か「共栄」のどちらかしか選択肢が無い時点で、同人ショップは即売会・印刷会社の協力体制に入り続ける。そして即売会も同人ショップを切るメリットはない。

この「即売会・印刷会社・同人ショップ」連合のセールスポイントは、何よりも長年の実績と圧倒的な知名度だ。やはりある程度参加してきた同人作家・一般参加者には、ネットよりも同人イベントが好きな人が多い。
彼らの心に付け込むわけではないが、この事態が長期化した場合「寄付(「即売会クラウドファンディング」のような名前?)」を広く呼びかけるのは一つの手だと思う。この場合暗に訴えかけるのは「即売会への恩義」であり、現実的には「即売会消滅の恐怖」ということになる。常連参加者の即売会への帰属意識は強い。ある程度の金銭的援助は期待できるだろう。
ただしその場合は寄付のあり方が問題になる。個別で集めると、恐らく寄付金はコミケットに集中してしまう。その一方で、大型即売会名義で一括で集め分配すれば、知名度のない団体にも追い風となる。しかしその際は「分配」の方法そのものが問題となる。

とはいえ、現状SNSで心理的な団結を強調している既存の即売会は、いずれにせよ貯蓄が尽き次第「金銭的にも参加者に援助を求める」方針へとシフトしていくとなると思う。そして開催できる時をただひたすらに待つ、それしか道が無いように思えてならない。

その一方で、これを機に同人誌の頒布はネット・電子書籍を「第2の中心」とするのではないか、とも考えられる。前項で挙げた「地中に向かって活路を見出す」タイプである。

コロナ禍でいち早く中止を決めた「技術書典」は、元々の性格上ネットへの対応が早かった即売会の一つである。中止直後から「技術書典 応援祭」と銘打ち、オンライン上での即売会を展開した。多くが紙と同時に電子版として販売され、技術者界隈の対応力を見せつける結果となった。成功度合いでは、今後ともリアルイベントと並行して展開される可能性が十分あると思われる。

こうした状況下でも、既存の即売会には参入する余地がある。その鍵はやはり「知名度」だ。
オンライン即売会を開くに当たっても、やはり主催の知名度は大きい。Pixivや新しい技術力と組むことで、ネットにおいてもサークルと買い手を結ぶマーケットの役割を果たしうるかもしれない。その点、Kindle・Fanzaといったパーマネントな場所では得られない、即売会特有の「ハレの日」の高揚感をネットでももたらすことが出来れば、付加価値は大いにアップすることになる。

ここまで「リアル」と「ネット」での即売会のあり方について考えてきた。いずれにせよ、大型の即売会にはチャンスがある。
だがそうなると、また別の悲観的な考えが浮かんでくる。「知名度を持たない小規模即売会・新規即売会の激減」だ。

今回のコロナで、「即売会自体が開催できない」というリスクがあることが分かってしまった。数多の「開催して失敗した」例の中から「継続して開催する」即売会が生まれることは間違いない。だが先行き不安な情勢の中で、未来の主催者の芽は現在形で潰されてしまっている。そして今まで継続して開催できていた主催者も、このブランクの中で撤退してしまうかもしれない。会場費のキャンセルといった金銭的な問題だけでなく、何より「即売会を開こう」という意気に与える悪影響は如何ばかりか、計り知れない。

それでも、ネット即売会の形がどうにか成り立てば小規模な即売会は増えるかもしれない。だが、リアルな小規模即売会は、おそらく年単位に及ぶコロナ禍収束後も元に戻ることは無いのではないか、と思う。ただでさえ個人主催の即売会が減っている中で、コロナが完全に新規即売会の息の根を止めてしまうのではないだろうか…?

とにかくコロナ禍の収束を

私は同人誌即売会が好きだ。それもリアルの、参加者全員が即売会という「共同幻想」を共有する雰囲気が、空気が好きだ。金欠気味なので行きたい即売会全てに行くことは叶わないが、それにしても全くイベントが開催されないこの状況は、私にとっては地獄そのものである。本稿は即売会事情の私見を述べた体裁を取りながら、実を言ってしまうと単なるフラストレーションの発露である。

そうなると、やはり何よりもコロナ禍が早く終わってほしい、と願うほか無い。早く「週末の不要不急の外出」をしたい。即売会に行けない時も「今頃各地で同人誌が売買されているんだな…」と、ひたすら己が身を恨みつつ悶々とさせてほしい。(なんという個人的感情!)

願わくば「なんだ、即売会は変わらずあるじゃないか。心配は杞憂だったなー」と、安心できる日が来ることを。それまでどうか、どうか皆さんお元気で。

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