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女児向けアイドルアニメは、何を「強さ」として見せて来たのか?(前半)――『クリィミーマミ』から『プリチャン』まで

「アイドルを題材にしたアニメ」と言うと、何を思い浮かべるでしょうか?
『THE IDOLM@STER』、『ラブライブ!』といった正統派もの。『うたの☆プリンスさまっ♪』といった恋愛ゲームからの発展。はたまた現在アニメ放送中の『推しが武道館いってくれたら死ぬ』といったファン目線のもの…。

しかし、そういった所謂大人向けのコンテンツの他にも百花繚乱真っ盛りの世界があります。
『アイカツ!』『プリティーリズム』などに代表される「女児向けアイドルアニメ」です(正確には両者ともゲーム原作ですが、それは後述)。

これらのコンテンツは、今や声優や歌唱担当を前面に押し出したライブを開催するなど「大きなお友達」も取り入れた商業展開を行っていますが、あくまでメインは未就学児~小学校中学年までの女児。

「中の人の豪華さ」「萌え重視のキャラ造型」「リアルイベントとのリンク」「キャラ同士の関係性」といったものが通用しない難敵、それが女児というメインターゲット。
そんな彼女たちが一目で夢中になる、分かりやすい魅力こそが、劇中のアイドルが見せる圧倒的「強さ」でした。
今回は女児向けアイドルアニメの歴史を俯瞰しつつ、その「強さ」がどのような変遷を辿ってきたのか分析したいと思います。
なお、流れ上「アイドル」を主軸に据えたもの以外にも触れていきますが、ご了承ください。また、文中の年表記につきましては、「アニメが放映開始した年」を挙げています。

アイドルアニメのあけぼの――「あこがれ」の80年代以前

アイドルとアイドルを取り巻く環境を舞台にしたアニメは、1971年にフジテレビで放映された『さすらいの太陽』(藤川桂介原作、すずき真弓作画)が端緒です。
この作品は藤圭子をモデルにした漫画原作のアニメでした。ひょんなことからデビューした主人公が芸能界で揉まれるストーリーで、ドロッとした展開も織り交ぜたリアル指向のアニメとして好評を博します。ちょうど同時期には『アタックNo.1』、1973年からは『エースをねらえ!』が放映されており、そういったスポ根路線を継承した作品だったといえます。
1978年には東京12チャンネルで『ピンク・レディー物語 栄光の天使たち』が放送されるなど、1970年代のアイドルアニメは「現実の芸能界のショーケース的役割」を果たしていました。

ですが、そうした構図を一気に視聴者側に引き寄せた作品が1983年に登場します。
ぴえろ魔法少女シリーズの第1作目『魔法の天使クリィミーマミ』です。

主人公はどこにでもいる10歳の少女・森沢優。彼女は偶然授かった魔法のステッキにより10歳代後半にまで成長し、謎のアイドル歌手・クリィミーマミとしてスポットライトを浴びることになります。
密かに優が想いを寄せる幼馴染の少年・俊夫がマミのファンになってしまったり、プロダクションの社長・立花慎悟とマミのライバル・めぐみと一悶着あったり…と盛りだくさんの本作でしたが、現在に至るアイドルアニメの重要な潮流を作り上げた記念碑的作品でもありました。

そのポイントは3点。
①主人公は視聴者に近い普通の少女
②不思議な力を行使して容姿が変身
③主人公がアイドルとして成長する
この3つこそ、『クリィミーマミ』の先駆的なポイントにして、それ以後のアイドルアニメにも漏れなく受け継がれるアピールとなります。
(本稿でも、今後断りなく①②③を指し示すことがありますので、頭に留め置いて頂けますとありがたいです)

ですが、本作は「ぴえろ魔法少女シリーズ」を冠するように、①②をメインに据えたものでした。
「クリィミーマミの正体は内緒」ということからも、③はあくまで①②とは切り離された要素だったわけです。(そもそも、③を除けば『ひみつのアッコちゃん』で先んじて条件は満たされています)
女児と同じ目線の「優」から、高嶺の「マミ」への華麗なるメタモルフォーゼ。それこそが当時の視聴者を魅了しました。

ということで、本作における「アイドルの強さ」とは、視聴者層の暮らしに直結する延長線上に位置するものではなく、あくまで手の届かない芸能界に対する「あこがれ」に立脚していたもの。その点では70年代の流れを色濃く反映しています。

本シリーズでは『魔法のスターマジカルエミ(85年)』でアイドル要素が継受されるものの、あくまでメインは①②でした。
しかし、いずれ女児の「あこがれ」はアイドル要素を呑み込み始めます。90年代、①と②がそれぞれ自律性を持った独自の世界を構築し、肝心の③「主人公がアイドルとして成長する」が冬の時代を迎えることとなるのです。

日常か変身か?――「高嶺のアイドル」より「身近な女の子」な90年代

90年代に入ると、もともと付加要素だったアイドルが隅に追いやられます。
87年のおニャン子クラブ解散はアイドルを身近な立ち位置から遠ざけ、90年の『夜のヒットスタジオ』終了はお茶の間における歌番組の衰退をも物語るものでした。
これらは直接女児をターゲットとしたものではなかったとはいえ、90年代前半からの所謂「アイドル冬の時代」はアニメ戦略にも大きな影響を与えることになります。

92年にスタートした女児向けアニメの金字塔『美少女戦士セーラームーン』シリーズは、①②に「前世の神秘的な因果」という要素を加味することで、アイドル業界に代わる「あこがれ」を惹起しました。
さらに同シリーズの「日常と輪廻の狭間」がもたらす魅力的な描写は、「大きなお友達」と呼ばれることになるターゲット外の視聴者への人気も獲得。
この路線は『愛天使伝説ウェディングピーチ(95年)』、また変身ものではないものの『少女革命ウテナ(97年)』へと受け継がれます。

また、①「主人公は視聴者に近い普通の少女」もそれ自身で独立した人気を獲得します。
コメディ風味の『ちびまる子ちゃん』は90年に放映開始。主題歌「おどるポンポコリン」とともに、社会現象を巻き起こすほどの人気を誇ります。またシリアスを含めた作品では、小学高学年~中学までの問題を雄弁に語った『こどものおもちゃ(96年)』がヒットしました。

これらの流行は特筆すべき事項ではありますが、アイドルの「強さ」は影を潜めます。注目に値する点は、これらのブームが全て「なかよし」「りぼん」「ちゃお」という、三大少女向け漫画雑誌(が絡むメディアミックス)によって形成されたこと。
94年の「りぼん」の発行部数は255万部 [1]。現在3誌でトップの「ちゃお」が35万部超ですので、隔世の感を禁じ得ません [2]。
([1]東洋経済ONLINE「りぼん男性編集長が仕掛ける異色アイドル漫画」https://toyokeizai.net/articles/-/275704?page=3
 [2]日本雑誌協会  https://www.j-magazine.or.jp/user/printed/index/44/29

この時期までに勢力図が以上の3誌に収斂したことは、現在もメディアミックスがなされるコンテンツに揺るぎない影響を与えています。ですが、その力は現在の比ではなかったはず。
『セーラームーン』が、元は劇中でアイドル的人気を誇っていたセーラーV/愛野美奈子を主人公とする『コードネームはセーラーV』だったことを考えると、もしこの成り行きが変わっていれば90年代の趨勢が違っていたかも…と夢想してしまいます。

とはいえ、歴史にifは禁物。実際は『カードキャプターさくら(96年)』『おジャ魔女どれみ(98年)』シリーズといった作品とともに、時代は21世紀へと突入。新世紀の変化を予感させます。

奇しくも、現実世界でも97年に「モーニング娘。」がデビュー。女性アイドルブームの復権に第一歩を刻みます。
しかし00年代の女児向けアニメ界は思わぬ方向性へと向かい、復活したアイドルものは2番手としての立ち位置を強いられることとなります。ですがその戦いは、ターゲット層を絞ることで商業的には「アイドルの強さ」を明確にアピールする結果となりました。

ということで長くなりそうなので続きはまた今度。後半は殆ど「強さ」について書けませんでした…。
この後は00年代から現代までの情勢について分析します。
続きはこちらから。

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