棚から一つまみ01『Tubular Bells』(1973年・洋楽)

TOKYO FM系「山下達郎のサンデー・ソングブック」の企画(括り?)「棚からひとつかみ」。
「自宅のレコード棚から気に入った曲を掛ける」という同企画に倣い、好きな音楽・マンガ・映画等について書こうと思います。
しかし書き溜めてもいないので「一つまみ」です、残念ながら…。

さてまずは、
まずは私の一番好きなアルバムの筆頭である
マイク・オールドフィールド『チューブラー・ベルズ』についてです。

0.誰もが知っている『エクソシストのテーマ』?

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(出典・https://www.amazon.co.jp/Tubular-Bells-Mike-Oldfield/dp/B0026S1XD2)

チューブラー・ベルズ』(原題『Tubular Bells』)は、1973年にイギリスのミュージシャン、マイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)によって発表されたアルバムです。
A面に「PART1」、B面に「PART2」が収録され、各25分計50分にわたり
「Tubular Bells」という(殆ど)インストの曲が、ただ1曲だけ収められています。
知らない!という方も、YouTubeあたりで冒頭を聴くと「聴いたことある!」となる方が大半だと思います。

この『チューブラー・ベルズ』、
1973年公開のホラー映画『エクソシスト』のテーマ曲として使われた曲です(悪魔に憑かれた少女の背面走りシーンが今でも滅茶苦茶怖い)。日本でも、TVのバラエティ番組などでお馴染みです。
そのお蔭で、この類のいわゆる「プログレッシブ・ロック」では抜群の知名度を誇るこの曲ですが、
「延々と続く不気味な音」「7/8+8/8拍子の独特のメロディが繰り返される構成」といういかにもホラーじみた曲調から、
夜中に聴けない曲」の代表格として語られることも多いようです。

ですが、その扱いは実に不当です! なぜなら、真にこのアルバムを聴くべきシチュエーションは「夜明け前、部屋を真っ暗にしてリラックスした状態」だからです。

ポイントは次の3点。
1.19歳の青年が作曲&ほぼ全楽器を演奏。
2.ロックにフォークとワールドミュージックを織り交ぜた、圧巻の構成。
3.巨大企業の第一歩を記した歴史的価値。
各々(私見を織り交ぜつつ)解説していきたいと思います。

1.19歳の青年が作曲&ほぼ全楽器を演奏。

このアルバムのアーティスト、マイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)は、発売日でなんと弱冠20歳。録音は彼が19歳の時、スタジオに1週間籠もって仕上げた作品です。

もともと姉のサリー・オールドフィールドとデュオを結成したり、ロンドンのセッション・ミュージシャンとして活動していた人物でしたが、早熟な彼はとにかく多彩な楽器に親しみ、弾きこなしてきました。

そんなマイク・オールドフィールドは内向的な天才でもありました。10代後半からとある楽曲の構想をひたすら、ただひたすら練り続けます。その結果、19歳にして彼の頭の中には、60分近くに及ぶ壮大な組曲が描かれていたのです。

「チューブラーベル」(「のど自慢」でお馴染みの鐘)の名を冠したその作品を形にするため、彼はそれまで培った楽器の才能を一気に開花させます。
Wikipediaから引用すると、彼が演奏した楽器はピアノ、グロッケンシュピール、オルガン、ベース、エレクトリック・ギター、アコースティック・ギター、チューブラーベル、ティンパニ、スパニッシュ・ギター、それにコーラスも一部参加。(ドラムスなどは他のミュージシャンが演奏しています)
途中ギターをミスっていたり、肝心のチューブラーベルの残響音が残ってしまっている、などのご愛嬌はありますが、
なんと一人で2000回以上もの多重録音を行って完成させています。(しかも当時はデジタル録音なんてものはなく、すべて16トラックのテープレコーダーです)

アルバム自体が楽曲となるような数十分の組曲&一人多重録音という作業。
マイクはこの作品に続く『Hergest Ridge(1974年)』『Ommadawn(1975年)』『Incantations』といった初期の傑作、
それに1990年「CD1枚に60分の1トラック」というとんでもない売り方で登場した『Amarok』といった意欲作でも同様のアプローチを披露しています。

マイク・オールドフィールドは録音場所こそ違えど、宅録の元祖といえるのかもしれません!

2.ロックにフォークとワールドミュージックを織り交ぜた、圧巻の構成。

さて次は「彼の頭の中にあった壮大な組曲」の中身について。

先ほども述べたように、ホラーなおどろおどろしい部分は開幕5分ほどで終了。そこからはまるで悪夢を抜け出したかのようなギターの広がりとともに、マンドリンの調べが夜明けを告げる草原の風景を映し出します(先程「夜明け前に聴くべき」と言ったのはそういう訳です)。

その後もイントロのメロディをリプライズしながら、激しいエレキギターのカッティングとの応酬が繰り広げられますが、もうこの頃には完全に『チューブラー・ベルズ』の世界観の中。
静と動、それらを巧みに使い分ける構成に圧倒されます。

弦楽器で爪弾かれる多彩なフレーズ。時には「パブで演奏されるアイリッシュ音楽」風味の陽気さ、また時には
情熱的なスパニッシュ・ギター」の戯れ、そして
マイナー調の沁み入るフォークギター」まで
様々な顔を見せます。
それらエスニックな土着があるソウルと、「躍動するロック」が一つの組曲に違和感なく詰め込まれている、それこそが何回聴いても新たな発見がある最大の魅力だと思います。

まさに20世紀の音楽展覧会、現代の音楽絵巻と呼びたくなる、鮮やかな構成です。

例えばPART1の終わり、ベース1本のリズムに次々と楽器が紹介と共に乗せられていき、最後の「Tubular Bell!!」の宣言と同時に鐘の音が鳴り響く前半のフィナーレ。
最高に盛り上がった直後、殆どの音が波が引いたように消えていき、あっという間にアコギ1本のみの呆気なく、しかし大作のカーテンコールに相応しい〆。そのままPART2へ、穏やかなスタートから静かに沸き立つ展開へと結び付きます。


ダイナミズムな楽器の競演から静謐な展開、そしてまた徐々に沸騰していくようなコードが絶え間なく訪れる、贅沢な時間。
例えれば、潮の満ち干きを俯瞰している感覚、でしょうか。

3.巨大企業の第一歩を記した歴史的価値。

さて少し語った所で、普遍的事実に戻ります。

このアルバムは、リチャード・ブランソンという中古レコード商が始めた「ヴァージン・レコード」というレーベルの第1回リリースとして発表されました。

そして、1曲50分というとっつきにくさにも関わらず『エクソシスト』のヒットもあり、全英1位を獲得。
稼いだ元手をもとに、ブランソンは事業を広げます。

そしてその結果、彼の企業は「ヴァージン・アトランティック航空」を初めとした世界的な多業種グループ「ヴァージン・グループ」として、現在もなおその名を轟かせることとなりました。

レコード1枚の売上が分水嶺になった?とは思えませんが、こうした世界的巨大企業の第一歩を踏み出すきっかけになった一枚としても記憶されるアルバムです。

ですが皮肉かはたまた歴史の因果か、マイク・オールドフィールドとブランソンの関係は拗れていきます。
Platinum(1979年)』における「楽曲「Sally」差し替え事件」(これも語りたい)に始まり、前述の60分一本勝負『Amarok』でわざとラジオOA用の短尺バージョンを作りにくくしたり。
マイクはその後、変奏バージョンである『Tubular Bells II(1992年)』から始まる「Tubular Bells」シリーズを作り続けることになりますが、
最早彼はブランソンの下を離れていたのでした…。

それでも2人は今でも、それぞれの分野で活動を続けています。アメリカン、じゃなかったブリティッシュ・ドリームの生き証人が今も元気なのは嬉しい限りです。

おわりに

ということで、『チューブラー・ベルズ』の感想でした。書く自体が自己満足目的でしたが、願わくば一人でも多くこの名盤を聴いて欲しい、それは偽らざる気持ちです。

ということで今日も頑張りました! 寝ます!

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