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#青ブラ文学部企画「たんに焦がれて」

京都の木屋町、高瀬川沿いに小さな料理屋があった。カウンター席のみのお洒落な牛たんを専門に出すお店。30才半ばのマスターが若いアルバイトを雇い、ひとりで切り盛りしていた。

私はそのお店を、料理好きの彼氏と一緒に初めて訪れた。

彼とのデートの時は、彼が手料理を振舞ってくれる事もあれば、自分が食べて美味しかったお店には、よく連れて行ってもらった。
このお店もそうだった。

マスター拘りの黒毛和牛のたん創作料理。
注文はいつもお任せコース。
少し照明の落とされた空間に、アシッドジャズが心地よく流れる。ゆっくりとしたペースで、刺し身・煮込み・焼きなど、マスターがまるで魔法をかけたかのような美しい創作料理が提供される。どれも牛たんは絹のように柔らかく、とろけるような舌触りで、御客もマスターの魔法にかかる。

「えー!これもたんなの?こんなに色んな舌のお料理を食べたの初めて!」

私はいっぺんにこのお店の虜になった。

彼と行ったのはこれっきりだったけど、私は何度か足を運んだ。
ある時は会社の同僚を連れて。ある時は近くに住む従兄と一緒に。ある時は会社の直属の上司を連れて。ある時は会社の先輩を連れて…。


何度かお店に通うと、もうすっかり顔馴染みになっていた。
時に酔い潰れて、先輩におぶって貰って帰った事もあった。
マスターは御客の人生をどんな風に見ていたのだろうか?

その内、マスターと会話するようになった。
「ねぇ、マスターは何処でお料理のお勉強をされたの?」
「ねぇ、何故たん専門でお店を出そうと?」
「ねぇ、マスター…ご家族は?」

話している内に、なかなかお店の経営状態は厳しく、やはり黒毛和牛に拘り、たん一本で、しかもこのお値段で勝負するのは難しい…とこぼしてくれた。

「ちよさん、いつかお時間いただけますか?」


一度だけ、マスターと一日を一緒に過ごしたことがある。
その後しばらくして、マスターはお店をたたんでしまった。


時々、京都を思い出す時、あのキーンと冷えた肌を刺す空気と町屋の風景と下駄の音。
そして、あのかどのたん料理屋のマスターを思い出す。

またあのたんに触れてみたい…。


想い出は
  五感の中で
    よみがえる
肌が震える
  記憶と共に


~完~

(923文字)


少しアダルトチック♡に書いてみました…😅
相変わらず拙い表現で稚拙な文章と内容で、お恥ずかしい限りですが、最後までお読みいただき、ありがとうございます
(*´˘`*)Thanks❣❣。

山根あきらさんの企画
#青ブラ文学部 |短歌物語に参加します(*ˊᵕˋ*)

物語の中に短歌を入れると、何だか雰囲気が出るな…と思いました♡

よろしくお願いします!


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