地方創生の現場から [ 2 ]-生産性新聞
〜岐阜県の事例・経営コンサルタントの視点〜
東海クロスメディア 代表取締役 三輪知生
2018.11.05 掲載
制約条件=三つの壁の解消が鍵(行政区域間の壁・行政と民間の壁・既存団体との壁)
2020年東京オリンピック競技大会を前に、選手とスポーツ団体の関係性が議論されています。また、かつて好業績を誇り、高い評価を得てきた金融機関で不正が発覚して揺れています。人々の耳目を集めている、組織のあり方をめぐるこれらの諸問題を経営コンサルタントの視点で切り込んでいきながら、真の地方創生の実現を妨げる制約条件について検証し、その解消に向けて何をすべきかについて考える端緒としていきたいと思います。
その昔、黙認されてきた手段を選ばない目標必達を強いる高圧的な指示命令や、指導者の権力誇示の方策が、現代の組織運営や指導方法として不適切であると指摘を受けているのです。短期の業績を猛烈に追求するあまり、ルールを逸脱したり部下に無理を強いたり構造的に歪みを生じさせていたのです。こうした悪しき慣習は強烈であるがゆえに顕在化しましたが、時代の変化や社会の要請についていけない、ガラパゴス化した組織の膿です。
筆者のこれまで6年間の産業振興分野における公的支援の場で、こうした激烈な事象に遭遇することはありませんでしたが、経営コンサルタントの視点として違和感を抱く、静かなる抵抗ともいえる場面は多々ありました。組織が業績向上を図る際に定量的な数値目標を定めてその達成を目指すのは当然ですが、実現を妨げる要因=制約条件に着目して解消を目指すこと、あわせて定性的な指標を持つことは中長期的な視点でとても重要です。
組織内に、健全な成長を妨げる潜在的な制約条件(=三つの壁)が存在していることは、地方創生カレッジの現代経営学研究所(神戸大学)による『DMO特別講座』で指摘されており、その引用から分析を進めましょう。
真の地方創生へ定性的な価値判断基準の規定を
まず一つ目に立ちはだかる壁は「行政区域間の壁」です。講座では観光DMOの設立に際して存在すると指摘されています。予算が行政区域単位で、そして部門単位で縦割りに組まれていると、観光という広範囲な地域と分野を包括している事業を遂行する際に、圏域や部門間を横断的に活動することが難しいというものです。産業振興の分野でも同様の壁に遭遇しましたが、突き抜ける発想で横の連携を図る積極的な仕組み作りを進めました。
次に立ちはだかる壁は「行政と民間の壁」です。行政は事業予算を組んでその執行を推進しますが、その源は税金であり交付金です。そこに事業収益を確保する発想はありません。民間は自社の事業収益を源泉として新たな投資に仕向けます。行政による公共の利益や福祉の理念と価値観が、時として民間による経済合理性への準拠の論理と乖離して問題点として指摘される事例も散見されます。官と民を金銭でつなぐ補助金などは好事例です。
そしてもう一つ立ちはだかる壁は「既存団体との壁」です。観光DMOの設立に関しては、既存の組織として観光協会が存在します。また、筆者が関わった産業振興の分野では、商工会や商工会議所、そして県や市の産業振興センター(通称)が存在します。本来の目的や存在意義は観光や産業を振興しようとするもので、何の疑いもなく共通です。しかしながら実態としては対立の構図が生まれ、組織の存続と権限の維持が自己目的化します。
真の地方創生を実践していくこと=広義の意味で「地方を豊かにする」ためには、経済合理性の原則を無視することはできません。かといって、表層的な議論で目先の数値目標の達成に邁進しても本質的な成果に及ばず、組織は疲弊し人々の心は離れていってしまいます。定量的な指標だけでなく定性的な価値判断基準を規定する必要があり、行政も民間も日本生産性本部が提示する「経営品質」に改めて着目すべきことの必定を感じるに至りました。
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