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才能バースト











序.           才能が無い









私には、

才能が、

無い。




正確には、



才能の有無や、
才能のレベルを判断できる才能、
だけを、持っている。



自慢じゃないが、
私が発掘し、その後、花開いた才能は、
10や20どころではない。

演技の才能、文章の才能、美しさの才能、
運動の才能、交渉の才能、音楽の……絵の……
etc etc……

発掘した、とは、言い過ぎかもしれない。

要は、本人が気づいていない才能に、
きっかけをあげることを、多々、行ってきた。



個人的に、我慢強く、誘導した。

どうしても、黙っていられないのだ。

有るものを、使わない者を、見ていられない。

もったいない。


私は、才能を見抜く才能、だけ、一流なのだ。


それも素晴らしいじゃないか、と。
思う人もいるだろう。

わかっている。
重々、わかってはいる。


わかっているが、私は、プレイヤーになりたい。


私が、生み出したいのだ、何らかの、力を。


見つけるだけでは、足りない。 満たされない。

私に無いものを持っている人の、
背中を押す。


それだけでは、終わりたくない。

どうしても。

どうしても。



しかし。


才能を見抜ける、ということは、

自分自身に才能が無いことをも、
残酷に見抜く、ということだ。

あらゆることを、やってはみた。

それこそ、ありとあらゆることを。

58歳の、今まで、ずっと。   ずっと。

結論。

私には、才能を見抜く以外の才能は、皆無。

まったく、無い。



まったく、何も無い、のだ。



あまりの虚しさに、


本気で死にたくなることも、日常、だった。









起.      ダイレクト・メール







SNSは、一通りやっている。

年齢のわりには、精通していると言っていい。


ある日、私の、ひとつのSNSに、DMが届いた。

珍しくはない。
それこそ種々多様なDMが、毎日のように届く。


送り主のアイコンは顔写真で、
プロフィールを読むに、
本人であり、加工も一切無い、らしい。

ほう、と私は興味を持った。

少しキツい印象はあるが、とても美しいからだ。

誰にも言っていないことだが、
私はバイ・セクシャルで、
どちらかと言えば同性、つまり、女性を好む。


本人の投稿を、いくつか確認する。

綺麗な、無害な、景色や自撮りや食事など、
画像や動画の投稿が主で、
文章は一言程度しか、添えていない。


特に、問題は見当たらない。


DMの内容は、このようなものだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めまして。

突然のDM、失礼致します。

都内在住の、ミサキと申します。
20代、女性です。
アイコン、本人です。

ご迷惑でしたら、ブロックなりスルーなり、
お好きになさってくださいませ。

相互フォローとなり、
早や半年ほどになるかと記憶しておりますが、

○○さんの投稿を、
いつも楽しませていただいておりまして、

どうやら、ご近所にお住いのようです。

図々しくも、お友達になれたら……なんて、

思ってしまったのです。

もし、ご迷惑でなかったら、
ご返信くださいませ。

よろしくお願い致します。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


私は、う〜ん、と唸りながら、熟考した。


20代女性、しかも、美しい女性。


私のような、
平凡な、おばさんに、会いたい、と?


普通に考えれば、凄まじく、怪しい。

宗教か、マルチか、自己啓発か?



まあいいや、と、声が出た。

思惑が何であれ、どうせつまらん日常だ。

会ってやろうじゃないか。上等だ。







渦.            ミサキという女







結論から言えば、

ミサキは、魔性的な女、だった。



写真や動画では、
まだまだ表しきれていなかったのだ、と。

実物は、溜息が漏れるくらいに、美しかった。

初対面の時、私は震えさえした。


冷静さには自信があったのだが、

ミサキと会っている時の私は、

まるでアイドルとデートする男子中学生のような、ひどい有り様だった。


ミサキはやけにボディタッチが多く、
距離も近い。

近づく度に、甘い香りがして、
私は、いちいち手汗をかいた。



まさか、ミサキもバイ・セクシャル、
または、レズビアン、なのだろうか?



いい歳をして、私はいったい何をしているのか、と、情けなくなってきた頃。


ミサキが、まっすぐに私を見つめ、言った。


「○○さんの、夢は、何?」






転.             才能をあげる






夢は、何か?

ミサキに、そう問われて、

私は即答した。


「才能が、欲しい。」


ミサキは黙っている。

言い方が、重過ぎたのだろうか?


不安になってきた頃、

ミサキはにっこりと笑みを見せ、

「じゃあ、あげる。」

そう、言った。

声が、今までとは、違う。

まるで、井戸の底から、響いたように感じた。



急速に意識が遠のき、視界が暗くなる。

私は、喫茶店の椅子から、

ゆっくりと、滑り落ちた。






幕.              才能バースト







ミサキとは、
初対面のあの日以来、会っていない。



SNSアカウントも、
本人が消したのか、存在しない。


LINEや電話番号まで交換していたが、
すべて、繋がらない。存在もしない。


あの日、私が意識を取り戻したのは、
店員が、青い顔をして、大丈夫ですか、と連呼している時だった。


体調に問題は無く、救急車も断り、

店員に訊いた。

私の連れは、と。

店員は、お客様は1名様だったはずですが……と、困惑気味に答えた。



それからもう、2年が経っている。

そして私は、
いわゆるインフルエンサーに、
なっていた。

それも、半端なインフルエンサーではない。

テレビにも出る、新聞にも載る、
あらゆる有名人と、
コラボ企画を多々、行っている。


何をしたのか?  

あらゆることだ。

作詞作曲、歌唱、ダンス、イラスト、お笑い、
シニアモデル、配信、芝居、etc  etc……


こうなっては、他に、理由を考えられない。


ミサキ、とは、神様か何かで、
私に、あらゆる才能を、与えてくれたのだ、と。



現実感など、まるで無かった。

夢を見ているような、という表現しかできない。



おばあさん、という年齢ではあるが、
どういうわけか、異常に若返り、私はモテた。

若返りだけではない。

顔すらも、かなり変わっている。
整形とまでは言わないが、それに近いレベルで。

つまり、美の才能も、いただいたのだろう。

1年前から、有名女優と、同棲している。

私より、10歳若い、
いわゆる大御所というのか、
そういったポジションの、人気女優。



恐怖を覚えるほどの、幸せ、快楽、刺激の絶頂。



その日は、彼女の誕生日で、
私たちは、テーブルを挟んで向かい合っていた。



見つめ合い、

ワイングラスを鳴らした時。



ミサキが現れた。



私の右側に、立っている。

一瞬で、現れたのだ。

私も彼女も、

一時停止ボタンを押したように、止まった。

思考と呼吸はできるが、体が動かない。


ミサキが、
とても早口で、
こう言う。


「○○さん、お久しぶりです。

さて。約束通り、才能を、あげました。

存分に発揮してくれて、私も嬉しい。
ただね、サービスはここまでなの。

才能を継続するには、
対価が、必要になります。

あなたが今、才能と同じくらい大事なもの。

その素敵な彼女。

彼女が、才能の、対価になります。

さて。

対価を支払うか、否か?

今、すぐに、答えて。

声を出さなくても、思うだけでいいですよ。」


私は

私は

私は……

「遅い!」

ミサキが叫ぶ。凄まじい怒号。

瞬間、
彼女の両前腕が、
破裂した。

「早くしなさい。

次はもう、

命が無い。」

ミサキが私の背中をバチン、と平手打ちする。

私は   私は  私は………………………

脳が、追いつかない。どうすれば、どうすれば、


「わかりました。

おめでとう。」


ミサキは、優しく、そう言うと、

私の頭を、撫でた。

彼女の顔が、
胴が、脚が、全身が、破裂していく。

リビングはまさしく、血の海となり、

私は動物のように、おおお、と叫んでいた。


ミサキが、指を、鳴らす。


彼女の、血肉の、すべてが、消えた。


私は、ミサキを見上げる。


椅子に座ったまま、失禁している私を、

微笑みながら見下ろすミサキは、

やはり、人とは思えぬ美しさだった。

「あ、人じゃないんだった。」

ぼそりと呟く私に、

対面に座りながら、ミサキが言った。



「さ、飲みましょ。」




ワイングラスを合わせる。



その響きは、



深夜の静寂の中、


いつまでも、

どこまでも、

泳ぎ続けた。











┈┈┈┈了┈┈┈┈


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