#91 読書の夏
生暖かい本
先日、「生皮 あるセクシャルハラスメントの光景」を読みました。
小説家志望(だった)の主人公が、小説講座のカリスマ講師を7年前のセクハラ被害で告発――という話を主軸に、加害者や周囲の人間へと視点を変えて各々の思いが綴られていきます。
表紙から直接的な暴力のある内容を連想してしまいますが、血が吹き出すようなシーンは全くありません。ドキドキハラハラする展開も、意味深な伏線も、スカッとする啖呵もなく、物語は淡々と進みます。みんなどこにでもいる人で決して悪人というわけではなく、それぞれの行動もひとつひとつは「ちょっとした」こと。けれど被害者の傷がどんどん深くなっていくのがわかります。加害者の悪気のなさ、第三者の無責任な誹謗中傷、被害者が自身を傷つけないために行った疑似恋愛という自傷――それらが気持ちが悪いくらい生々しくて、読み進めるのがきついくらいでした。
被害者が「生皮を剥がされた」という表現を使っていますが、まさにこの本そのものが生皮を剥がしたようで。実態としての血は一滴も流れていないのに、ぬるぬるとした血の感触や錆びた鉄の匂いがする本です。
井上荒野さんの本は初めて読むのですが、すっかりファンになってしまいました。人と人との間に生まれる生暖かさの絶妙な描写がたまりません。
この夏読む本リストに、ひととおり作品を入れておこうと思います。
おふたりは、最近読んでおすすめの本や、この夏読もうと思っている本はありますか? 読む本リストに加えさせてください。
追伸。
昨日は仙台で女子中学生に切りつける事件があって、とてもいたたまれない気持ちと恐怖を覚えていたのですが、今日は安倍元首相のニュースが飛び込んできて愕然としています……。安倍元首相がしてきたことは全く支持できないし、自民党には不信感ばかり募っていましたが、回復することを祈っています。
そしてどうか、暴力に訴える行為が神聖化されませんように。
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