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#16 忘れられないひと言/くろさわかな

【往復書簡 #16 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈おまえ二度とそんな言葉使うんじゃねえぞ〉
水曜日:泖〈愛だぜ〉
金曜日:くろさわかな〈ジャックナイフを咀嚼する〉

ジャックナイフを咀嚼する

「くろさわさんのイメージは、ジャックナイフだなー」

協働していたあるデザイナーの方に言われた言葉です。
時折ふと思い出しては、ジャックナイフっていうのはどういう意味だったんだろうと考えます。

それは、仕事でライターさんやデザイナーさんと諸々の打ち合わせが終わり雑談している中の出来事でした。なんとなくそれぞれの持っている相手の印象を話す流れになり、あるライターさんに言われたのが
「くろさわさんってミューズですよね!」
という一言。
ミューズ、の意味がわからずに「え?…石鹸?」と言って恥ずかしい思いをしたのもセットで覚えているのですが、ミューズというのは女神という意味ですよ、と教えてもらいました。

女神…なんと恐れ多い褒め言葉。女神に対するイメージが貧困すぎて、そのとき思い描けたのは「きれいなジャイアン」で有名な「きこりの泉」の女神でしたが。

(画像を探していたら、女神のニットトップスを発見。買うべきか。)

そこで一緒に会話を楽しんでいたのが冒頭のデザイナーの方でした。「そうかなあ…」という様子で伝えられたのが、「女神ではなくジャックナイフ」「安全だと思っていると突然刃が出てくる感じ」。

悪口を言うような人ではないし、その方との関係も良好だったので、そう言われたときは「のほほんとしているけど会議では鋭い意見を言うという褒め言葉かな?」と捉えていました。それってちょっとかっこいいんじゃない?って。けれど最近、あれは褒め言葉ではなくって、戒める言葉だったんじゃないかしらって思うんです。

ナイフって、ものを切るという用途意外に人を脅したり傷つけたりもできるし、気をつけないと、自分自身怪我をすることもありますよね。
ジャックナイフの例えは、「鋭い言葉は投げかけた人を傷つけたり萎縮させたりすることに繋がりやすいよ。乱暴に使うと自分が傷ついてしまうことだってあるんだよ」と、そういうニュアンスも含んでいたのかもしれないなって。

「いいものを作る」というゴールを目指すのであれば、仕事をする上で意見を出し合うことはとても重要。人間関係が悪くなると困るから気になることはあるけど言わないでおこう、では目指すゴールにたどり着けない──そう考えて、あのときのわたしは「嫌われてもいいから意見を言う役目はきちんとしよう」と一生懸命でした。言葉がきつくならないようにと気をつけてはいたものの、「ジャックナイフ」って言われるくらいですから、受け取る側が怪我をしかねない言葉を投げてしまっていたのかもしれません。

もちろん、今でも「いいものを作る」のに「嫌われるから言うのはやめとこう」みたいな仕事のやり方は違うと思っています。けれど「いいものを作る」ための意見交換のはずが、そこで交わされた言葉のせいでやる気をなくしてしまったり、萎縮して意見が言えなくなってしまったとしたら、本末転倒なのです。
参加者全員が全員を信頼して、自由に意見を言いあえる場所が成立して初めて、ナイフを持ち込んでも大丈夫になるんですよね。
わたしはその部分の認識が足りていなかったなと、今更ながら反省しています。

言葉は自由であってほしい。だけどというか、だからというか、おふたりの書簡を読んで、自分の発する言葉に対してもっと相応の意識をもたなくちゃなと思いました。
そして、誰かから投げかけられた言葉について、それが毒でも薬でも、わたしには咀嚼する自由も投げ捨てる自由もある、ということを忘れないようにしようと思います。

くろさわかな

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