僕のネタ帳

かつて競艇の仕事をしていた現場は、
僕(ディレクター)とカメラマンと、
レポーターの三人で回していたのだが、
レポーターは三人いて、
ローテーションで現場に入っていた。

三人は、30代後半のAさんと、
20代前半のCさん、そして、
最近20代後半のBさんが辞めて
代わりに、やはり20代後半のDさんが入ってきた。
AさんやDさんの話も、
いずれすることになるかもしれないが、
今回はCさんの話である。

ちなみにこれは7年前の2014年のこと。

Cさんは大先輩であるAさんに、
時々仕事上の相談をしているらしいのだが、
先日は「私、寒くなってきたら、
すぐ鼻が赤くなるんですよ、
とうしたらいいですかね?」と相談したらしい。

なんともかわいい相談ではないか、
僕にとってはこういう話は好ポイントで、
高ポイントである。

元々Cさんは、
ハムスターみたいな方向性の顔をしているので、
その顔で鼻が赤くなったら、
もう完璧じゃないかと思ったのである。

この話はAさんから聞いた話で、
その話を聞いて僕がこう思うということは、
AさんもCさんのことを
かわいいと思って話していると思われる。

このCさんは、
50代後半のカメラマンのオッサンとは、
若さゆえのちょっとトンチンカンな正義感が原因で、
時々ぶつかることがあり、オッサンからは、
「ああいう子だけは息子の嫁にしたくない」
という愚痴をしょっちゅう聞かされているし、
競艇選手に取材に行く時にも、
「きっと選手はこういう時には、
○○って思っていると思うんですよ」
と、根拠のない思いこみをして、
選手に話しかけるのをためらい、
コメントを取りこぼして、
更にオッサンをイラつかせたり、
いろいろとやらかして、
僕の好ポイントを稼いでいる。

ついでに言えば、Cさんは結構なプニ子で、
本番間際に急いでカメラ前まで走って来る時なんかは、
ユッサユッサと揺れるくらいに胸が大きい。
選手のコメントがとれていなかったり、
オッサンと冷戦状態で雰囲気が悪かったり、
本番前で緊張していたりと、
色々な要素が重なって、いつも悲しそうな、
泣きそうな顔をして走って来るのだが、
その胸がユッサユッサ揺れていると、
なんとも「萌えー」な感じがするのである。

そのうえ目も悪く、
仕事中はコンタクトをしているが、
朝来る時と夜帰る時はメガネをかけている。
プニ子でメガネっ子で巨乳なんて、
セルフプロデュースしているんじゃないかと思われるくらい、
オタク仕様に仕上がっているのである。
ちなみに僕はオタクではありませんよ。念のため。

ある時は控室で、
「紀川さん、ティッシュのことを、
ちり紙って言う事あります?」と聞かれたのだが、
「うーん、あると思うけど、なんで?」と答えると、
「私、6歳年下の妹がいるんですけど、
この前、そこのちり紙とって、と言ったら、
え、何?新聞のチラシ?って言われて、
本気で通じなかったんですよー」
と、残念そうに言うのである。

6歳年下といえば、高校生くらいか、
今時の高校生はちり紙っていう言葉も知らないのか、
とも思ったのだが、もしかしたらその妹は、
知っていてわざと、
トロいお姉ちゃんをからかったのかもしれないなとも思えて、
どちらにせよこの一件も好ポイントだったのである。

僕はこういうエピソードを、
こうやって文章で再現できるくらいに覚えているわけだが、
これはCさんに対して特別な感情を持っているからではなく、
実は身の回りのほとんどの人のことを、
こうして「人間観察」しているのである。

そして自分で脚本を作る時の
キャラクター造形のネタとしてストックしているのだが、
僕らの業界ではこのような行為のことを
「引き出しを増やす」と呼んでいる。

僕は、以前勤めていた会社で、
プランナーとしてものすごい量の仕事をこなしていたことがあり、
その時にこの作業が骨身に叩き込まれてしまって、
今でも人のちょっとした言動やしぐさをきっかけに、
短いストーリーを作って、
それを頭の中で脚本にして、絵コンテにして、
撮影するところまでシミュレーションしてしまうのである。

そして頭の中でショートストーリーができあがったら、
ホワイトボードを消すように一度それをクリアーして、
それが、数年経ってもまだ再現できるような、
面白いエピソードとして記憶に残っていたなら、
やっとそれをアイディアとして採用するのである。

なのでノートに書き留めるようなことはしない。
その作業は、仕事中でも、移動の電車の中でも、
テレビを見ている時でも、
お風呂やトイレや寝床の中でも、
ほぼ24時間体制で自動装置のように行われていて、
時々、考えたセリフが、
実際に音にして聞いた時に、
違和感がないかを確認するために、
自分で呟いてみることもあるし、
撮影現場で役者さんに、
演出意図をなんと言って伝えようかと考えていて、
実際にそれを口に出して言ってみることもある。

そのように、実際に声に出して確認するのは、
一人で車を運転している時が多いのだが、
時には作業に熱中しすぎて、
無意識のうちに言ってしまうこともあって、
それを周りにいる人に聞かれてしまい、
怪訝そうな顔をされることもあるし、
駅のホームとかで、
「あっ、今口に出してしまった」と気づき、
周りを見回したら誰もいなくて、
ホッとしたりすることも時々ある。

もちろん、普通の人は普段こういうことはしないので、
僕がある人についてのエピソードを面白おかしく話すと、
その人によっぽど特別の感情を持っているんじゃないかと、
誤解されることもよくある。

特に女性に他の女性のエピソードを話すと、
露骨に機嫌が悪くなったり、
時にはあらぬ噂を流されたりするので、
あまり話さないように気をつけている。

しかし、僕にはあまり男性の友達がいないので、
こんな面白い話を知ってるのに、
誰にも話さないでいるのは、
かなりのストレスになるのである。

いずれ郊外に行って穴を掘って、
そこにぶちまけようかとも思っているのだが、
とりあえずはfacebookやnoteに書いて、
クールダウンしたりしている。

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