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ドクターペッパーとルートビア

初めてドクターペッパーを飲んだのは、
小学校の低学年くらいの頃だっただろう。
その頃はテレビコマーシャルもやっていた。
しかし、そのあまりに奇天烈な味に、
すぐに店頭から消え、永い間お目にかかれなかった。

大学時代、高校の同級生の桐井と、
まずいジュースについて議論したことがあり、
お互いに「これはまずい」と思うジュースを持ち寄って、
試飲会などを開催したものである。

当時桐井は高知大学にいて、サーフィンをしており、
サーフィンで行く海岸に、
海風でボロボロに錆びた自販機があって、
そこで売っている・・・(今もあるメーカーなので名前は自粛)の
缶コーヒーがもっともまずいという結論に達した。

桐井いわく「泥水のような味」なのだそうだ。
サーフィンをして喉が渇いていて、
あたりに店など一軒もないので、
しかたなくそれを買って飲むのだが、
何回飲んでも必ずまずいということであった。

僕はその時、ドクターペッパーのことを想っていた。
・・・の缶コーヒーなんて、しょせんは缶コーヒーじゃないか、
泥水風味とはいえ、ベースは缶コーヒー。
ドクターペッパーの、あの、オリジナルな味、
なんと表現したらいいのだろうか、
お母さんの鏡台のような、
もちろん鏡台を舐めたりしたことはないが、
昔の鏡台の周りに漂っていた、安いオシロイのような、
なんとも言えない香り。
三面鏡に顔をつっこんで、右にも左にも、
無限に自分がいるのを見る恐怖にも似た、あの味・・・・

月日は流れて、僕も桐井も立派な社会人になり、
僕は江東区の豊洲に住んでいた。そして豊洲駅前の自販機に、
あの、ドクターペッパーを見つけたのである。

そして桐井が東京に出張で来て、うちに泊った時、
僕は豊洲の駅で降りた桐井に、
「とりあえずこれを飲んでみてくれ」と、
ドクターペッパーを買って渡した。

一口飲んだ桐井は
「紀川、悪いけど、残りは捨てていい?」と聞いたのである。
僕は勝ち誇って言った。「いいよ」と。

ここで、長年のまずいジュース論争に終止符が打たれたのである。
ちなみにダウンタウンが「ガキの使い」の企画で、
「まずいジュースを開発しよう」というのをやって、
「ガキ水」という飲み物を限定販売したことがあるのだが、
こういうことをしてくれるから、
僕はダウンタウンが好きなのである。

さらに月日は流れ、
僕はドクターペッパーを超える飲み物に出会った。
それは「ルートビア」という飲み物である。
ちなみにビールではない。炭酸飲料である。

どんな味かというと、サロンパスのような味、
おばあちゃんが一晩貼って、
朝、はがして捨てようとしているサロンパスをもらい、
鍋で煮て出汁をとり、それを冷やしたような味、
といえば伝わるだろうか?いや、無理かな?

やはりアメリカは奥が深い。
桐井よ、これを飲んでみるためだけでも、
一度戻って来る価値はあるぞ。
ついでに子供にも会ってみたらどうだ?
大きくなってるぞ。
小夏なんか、幸子にそっくりだぞ。

この文章を書いた時、すでに桐井は亡くなっていました。
小夏というのは桐井の娘さん、
幸子というのは桐井の実の妹です。




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