ダブルクロスにおける行為判定の確率分布(1)

(C)2009 Shunsaku Yano/FarEast Amusement Research Co.,Ltd.「ダブルクロス The 3rd Edition」

はじめに

ダブルクロス The 3rd Editionの行為判定(必ずしもDX3に限った話ではないですが)は、他のシステムの行為判定に比べると、どの程度成功しやすいのか、達成値がどのくらいになるのかが比較的分かりづらいのではないかと思います。そのため、特にDX3を始めたばかりという人にとっては、どうすれば戦闘でそれなりに活躍できるキャラクターを作成できるのか分かりづらく、DX3を遊ぶのに二の足を踏んでしまうのではないでしょうか。

本記事では、能力値をどの程度の値に設定し、エフェクトをどの程度取得すればミドルフェイズの戦闘とクライマックスフェイズの戦闘において攻撃が当たるようになるのか、簡単な状況を考えて考察します。なお、今回は、サンプルキャラクターのような標準的なビルドを考えます。つまり、コンストラクションやフルスクラッチでキャラクターを作成するとしても、

  • 命中判定では《コンセントレイト》を組み合わせてクリティカル値を下げるようにし、

  • 命中判定で使用する技能のレベルは4とし、武器やエフェクトによる達成値への修正はない

ものとします。言い換えると、《サイレンの魔女》型のキャラクターなどが採用するような、命中判定ではダイスロールを捨てて、達成値への修正を大幅に増やす、みたいなビルドは今回は考えません。

ミドルフェイズの戦闘で攻撃を当てる

ミドルフェイズの戦闘において攻撃を敵にドッジされないようにするには、命中判定の達成値は15くらいは欲しいところです。この達成値は、攻撃の判定に使用する技能のレベルが初期作成の最大値である4、他に達成値への修正がないとしたら、命中判定のダイスの出目が11以上、すなわち1回以上クリティカルが発生する必要があります。

クリティカルが1回以上発生する確率

今、ダイス1個を振ったときの出目がクリティカル値以上である確率を$${p}$$とします。クリティカル値を$${c}$$($${2 \le c \le 11}$$)とすると$${p = (11-c)/10}$$となります。ある判定について、判定のダイスが$${n}$$個($${n \ge 1}$$)である場合、クリティカルが1回以上発生する確率$${p_1}$$は、クリティカルが1回も発生しない確率が$${(1-p)^n}$$であるため、

$$
\begin{align*}
p_1 &= 1 - (1 - p)^n
\\
&= 1 - \left( \frac{c-1}{10} \right)^n
\end{align*}
$$

となります。

クリティカルが1回以上発生する確率。横軸は判定におけるダイスの数。cはクリティカル値。

今、90%以上の確率で攻撃を当てたいとします。《コンセントレイト》を取得しない場合、ダイスは22個以上必要となります。これはあまりにも非現実的です。《コンセントレイト》は必ず取得するようにしましょう。

一方、《コンセントレイト》をレベル1で取得した場合、90%以上の確率で攻撃を当てるのに必要な判定のダイス数は11個となります。ルールブック1に掲載されているサンプルキャラクターの「不確定な切り札」ならばダイスを12個以上振ることができるので、フルスクラッチにして「不確定な切り札」の能力値はそのまま、《コンセントレイト》のレベルをあえて1に変更するというのは、ミドルフェイズの戦闘のみを考えるならばアリです。しかしながら、フルスクラッチでキャラクター作成を行う場合、判定のダイス数のために能力値を成長させるのは、ダイス数を増加するエフェクトを取得するのに比べて経験点効率は悪くなります。また、後述するクライマックスフェイズの戦闘のことを考えると、《コンセントレイト》のレベルが1というのは正直かなり厳しいです。

やはり、《コンセントレイト》はレベル2で取得するのがお勧めです。この場合、90%以上の確率で攻撃を当てるのに必要な判定のダイス数は7個となります。実際には、ダイスを7, 8個振れるようにするのがちょうどよいでしょう。攻撃の成功率$${p_1}$$はそれぞれ91.8%、94.2%となります。

なお、《コンセントレイト》のレベルを3にすれば、必要なダイスは5個となります。どうしても判定のダイスの数を増加するエフェクトを取得したくないのであればこれでもよいのですが、侵蝕率が100%以上になった時のエフェクトレベル上昇の恩恵を受けられなくなるので、経験点が少しもったいないです。また、後述するクライマックスフェイズの戦闘では、たとえ《コンセントレイト》のレベルが3でも10個以上のダイスが必要となることが分かるので、単に判定のダイス数を減らす目的で《コンセントレイト》のレベルを3で取得すのはお勧めしません。

クライマックスフェイズの戦闘で攻撃を当てる

クライマックスフェイズでの戦闘においては、ボスの能力値は全体的に高めです。侵蝕率も150%くらいあることが多いでしょう。普通《リフレックス》を持つ敵は出てきませんが、それでも命中判定の達成値が15程度だとドッジに成功される可能性があります。とりあえず、命中判定の達成値が20以上になるようにするのがいいでしょう。

ここでは、話を簡単にするため、命中判定の達成値が25になるのに必要なダイス数とクリティカル値について考えます。技能レベルが4、他に達成値への修正がない場合、命中判定のダイスの出目が21以上、すなわちクリティカルが2回以上発生すればよいことになります。

クリティカルが2回以上発生する確率

判定のダイスが$${n}$$個であるような判定において、1回目のダイスロールで$${k}$$個のダイスの出目がクリティカル値以上となってクリティカルが発生し、2回目のダイスロールで$${k}$$個すべてのダイスの出目がクリティカル値未満となるような確率$${q_{2,k}}$$を考えます。これは、

$$
\begin{align*}
q_{2,k} &= \binom{n}{k} (1-p)^{n-k} p^k (1-p)^k
\\
&= \binom{n}{k} (1-p)^n p^k
\end{align*}
$$

となります。すると、判定のダイスが$${n}$$個であるような判定においてクリティカルの発生が2回未満(0回か1回)となる確率$${q_2}$$は、$${q_{2,k}}$$を$${k=0}$$から$${k=n}$$まで足し合わせたものになるので、

$$
\begin{align*}
q_2 &= \sum_{k=0}^n q_{2,k}
\\
&= (1-p)^n \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} p^k
\\
&= (1-p)^n (1+p)^n
\\
&= (1-p^2)^n
\end{align*}
$$

となります。すなわち、クリティカルが2回以上発生する確率$${p_2}$$は

$$
\begin{align*}
p_2 &= 1-q_2
\\
&= 1 - (1-p^2)^n
\\
&= 1 - \left[ \frac{(c-1)(21-c)}{100} \right]^n
\end{align*}
$$

と求まります。

クリティカルが2回以上発生する確率。横軸は判定におけるダイスの数。cはクリティカル値。

今回も90%以上の確率で攻撃を当てることを考えます。クリティカル値が8, 9, 10の場合、必要なダイスの数はそれぞれ25個、57個、230個となってしまいます。これを実現するための判定値やエフェクトを用意するのは無理なので、クライマックスフェイズの戦闘ではクリティカル値が自力で7になるように心がけましょう。侵蝕率が100%以上になっていることを仮定するならば、《コンセントレイト》のレベルを2にすればよいです。

クリティカル値が7の場合、必要なダイスの数は14個となります。これは判定における出目が21となるのに必要なダイスの数の話でしたので、実用上は10個以上にすることを目指せばよいと思います。ちなみに、$${n=10, 11, 12, 13}$$のとき、$${p_2}$$はそれぞれ82.5%、85.3%、87.7%、89.6%となります。

なお、タイタスの昇華や支援エフェクトによりクリティカル値が6となった場合、90%以上の確率で攻撃を当てるのに必要なダイスの数は8個となります。DX3の経験が浅いプレイヤーが多く集まり、アタッカーの判定のダイス数が全体的に少ない場合は、クリティカル値を減らしたり判定のダイスの数を増やせる支援屋を持ち込むとよいでしょう。

まとめ

本記事では、DX3のミドルフェイズとクライマックスフェイズにおける戦闘において、攻撃を当てるのに必要なダイスの数とクリティカル値を議論しました。ミドルフェイズでは命中判定の達成値が15以上、クライマックスフェイズでは25以上になればよいとして、技能レベルが4、その他達成値への修正がない場合の目標とした達成値以上になる確率を導出しました。さらに、具体的な数値として、ミドルフェイズではダイス7, 8個、クリティカル値8、クライマックスフェイズではダイス10個以上、クリティカル値7となるよう判定値やエフェクトの取得を行うことを提案しました。

実際には、必ずしも技能レベルを4にできるとは限りません(なるべく初期作成では4にすべきですが)。また、いくつかのエフェクトにはデメリットとして達成値へのマイナス修正がつくものがあります(例えばエフェクトアーカイブ環境におけるノイマンの《マルチウェポン》)。あるいは、武器の多くは命中判定の達成値にマイナスの修正を与えます。このような場合、今回議論したような「ミドルフェイズの戦闘では判定の出目11以上、クライマックスフェイズの戦闘では判定の出目21以上」というのは役に立たない可能性が高いです。そこで、次回の記事では、より一般に判定の出目に関する確率分布と期待値を議論します。


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