ダブルクロスにおける行為判定の確率分布(2)

(C)2009 Shunsaku Yano/FarEast Amusement Research Co.,Ltd.「ダブルクロス The 3rd Edition」

はじめに

前回の記事では、ダブルクロス The 3rd Editionのミドルフェイズやクライマックスフェイズにおける戦闘で、攻撃を当てるために必要なダイスの数とクリティカル値を考えました。特に、命中判定の達成値がそれぞれ15、25になる確率が90%以上となる条件を議論しました。しかしながら、特に後者の達成値25を90%以上というのは実セッションのことを考えるとやや過剰な気もします。また、前回は、命中判定の達成値に修正が入る場合についてあまり議論ができませんでした。

本記事では、達成値に様々な修正が加わっても必要な判定の出目を議論できるよう、ダイスの数が$${n}$$個、クリティカル値が$${c}$$のときの判定の出目$${r}$$に関する確率分布$${f(r; n, c)}$$について考察します。さらに、判定の出目の期待値$${\langle r \rangle(n, c)}$$を考えます。

準備

クリティカル後に振り足せるダイスの数に関する確率分布

ダイスを1個振ったときに$${c}$$以上($${2 \le c \le 11}$$)の出目となる確率を$${p = (11-c) / 10}$$とします。このとき、ダイスを$${n}$$個($${n \ge 1}$$)振ったときに$${c}$$以上の出目のダイスが$${m}$$個($${1 \le m \le n}$$)ある確率$${\pi_1(m; n, c)}$$は二項分布

$$
\begin{equation*}
\pi_1(m; n, c) = \binom{n}{m} p^m (1-p)^{n-m}
\end{equation*}
$$

で与えられます。これは、ダブルクロスの判定で言えば、「クリティカルが1回発生し、次に振り足せるダイスが$${m}$$個ある確率」にあたります。

では、ダイスの数が$${n}$$個、クリティカル値が$${c}$$の判定において、クリティカルが$${k}$$回($${k \ge 1}$$)発生し、次に振り足せるダイスが$${m}$$個だけある確率$${\pi_k(m; n, c)}$$はどうなるでしょうか。これは、「$${n}$$個のダイスをそれぞれ$${k}$$回振ったとき、$${k}$$回とも出目が$${c}$$以上となったダイスが$${m}$$個だけある確率」と同じです。すなわち、成功確率$${p^k}$$の試行に対する二項分布

$$
\begin{equation*}
\pi_k(m; n, c) = \binom{n}{m} p^{km} \left( 1-p^k \right)^{n-m}
\end{equation*}
$$

となります。なお、$${\pi_k(m; n, c)}$$に関する漸化式

$$
\begin{equation*}
\pi_k(m; n, c) = \sum_{l=m}^n \pi_{k-1}(l; n, c) \pi_1(m; l, c)
\end{equation*}
$$

が成り立つことから示すこともできます。

出目の最大値に関する確率分布

次に、ダイスを$${n}$$個振ったときに、出目の最大値が$${r}$$($${1 \le r \le 10}$$)となる確率$${P(r; n)}$$を考えます。ダイスの出目がすべて$${r}$$以下となる確率は$${(r/10)^n}$$となり、ここから「ダイスの出目がすべて$${(r-1)}$$以下となる確率」を引いたものが$${P(r; n)}$$となるので、

$$
\begin{equation*}
P(r; n) = \biggl( \frac{r}{10} \biggr)^n - \biggl( \frac{r-1}{10} \biggr)^n
\end{equation*}
$$

と表せます。

判定の出目に関する確率分布

準備ができましたので、次は本命である、ダイスの数が$${n}$$個、クリティカル値が$${c}$$のときの判定の出目が$${r}$$($${r \ge 1}$$)になる確率$${f(r; n, c)}$$を考えます。

まず、達成値$${r}$$が$${10k+c \le r \le 10k + 10}$$($${k \ge 0}$$)を満たす場合を考えます。これは、クリティカルが$${k}$$回発生して振り足したダイスの出目の最大値が$${c \le r-10k \le 10}$$という状況があることになります。しかしながら、そのような状況では必ずクリティカルが発生するため、これを満たすような$${r}$$はありません。つまり、$${f(r; n, c) = 0}$$となります。

一方、$${10k + 1 \le r < 10k + c}$$の場合、

$$
\begin{align*}
f(r; n, c) &= \sum_{m=1}^n \pi_k(m; n, c) P(r-10k; m)
\\
&= \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} \left( \frac{r-10k}{10} p^k \right)^m \left( 1-p^k \right)^{n-m}
\\
&\quad - \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} \left( \frac{r-10k-1}{10} p^k \right)^m \left( 1-p^k \right)^{n-m}
\\
&= \left[ \frac{r-10k}{10} p^k + \left( 1-p^k \right) \right]^n - \left( 1-p^k \right)^n
\\
&\quad - \left[ \frac{r-10k-1}{10} p^k + \left( 1-p^k \right) \right]^n + \left( 1-p^k \right)^n
\\
&= \left[ 1 - \left( 1 - \frac{r-10k}{10} \right) p^k \right]^n - \left[ 1 - \left( 1 - \frac{r-10k-1}{10} \right) p^k \right]^n
\end{align*}
$$

となります。

確率分布$${f(r; n, c)}$$で議論をしても分かりづらいので、以下ではその累積分布関数

$$
F(r; n, c) = \sum_{s=1}^r f(s; n, c)
$$

を考えます。これは、「ダイス数が$${n}$$、クリティカル値が$${c}$$であるような判定において、判定の出目が$${r}$$以下となる確率」を表します。

クリティカル値が8の場合

最初に、クリティカル値が8の場合について考えます。これは、《コンセントレイト》のレベルが2で、ミドルフェイズでの戦闘における命中判定を想定しています。

ダイスの数が5個から9個、クリティカル値が8のときの判定の出目に関する累積分布関数。

まず、判定の出目が11未満(10以下)となる確率は、ダイスの数が7個以上で10%未満になることが分かります。つまり、前回の記事で議論した、技能レベルが4、その他命中判定の達成値に修正がつかない場合、命中判定の達成値が15未満になる確率が10%未満となるダイス数をちゃんと再現します。

では、例えばエフェクトアーカイブ環境で攻撃に1レベルで取得した《マルチウェポン》を組み合わせたときはどうなるでしょうか。この場合、命中判定の達成値には-4の修正がつくので、命中判定の達成値は判定の出目と一致します。命中判定の達成値が15未満(14以下)となる確率は、$${n=7}$$ならば24.9%、$${n=8}$$ならば20.4%となります。この確率が10%を切る最小のダイス数は、上図には載せていませんが12個(9.24%)となります。また、ルールブック1のサンプルキャラクター「閃光の双弾」のように「命中:-1」の「拳銃」をひとつ装備させると、$${n=7}$$ならば32.1%、$${n=8}$$ならば27.2%となってしまいます。

このように、命中判定の達成値にマイナス修正が入ると、攻撃はかなり失敗しやすくなります。上図を見ての印象としては、マイナス修正は-1、-2くらいが許容範囲、-4、-5などにはならないようビルドした方がよい、といったところでしょうか。

また、上図を見ると、ある程度判定のダイス数が確保できているなら、判定のダイス数を増やすよりも達成値にプラスの修正をつける方がより効果的であることも分かります。

クリティカル値が7の場合

次に、クリティカル値が7の場合について考えます。これは、クライマックスフェイズでの戦闘における命中判定を主に想定しています。

ダイスの数が8個から16個、クリティカル値が7のときの判定の出目に関する累積分布関数。

まず、判定の出目が21未満(20以下)となる確率は、ダイスの数が14個以上で10%未満になることが分かります。つまり、前回の記事で議論した、技能レベルが4、その他命中判定の達成値に修正がつかない場合、命中判定の達成値が25未満になる確率が10%未満となるダイス数をちゃんと再現します。

では、前回は分からなかった、「ダイスの数が$${n}$$、技能レベルが4、その他命中判定の達成値に修正がつかない場合、目標とする命中判定の達成値$${r}$$がいくつだと確率が90%以上となるのか」について考えます。実は、$${n=6}$$だと$${r=17}$$、$${n=7, 8}$$だと$${r=18}$$、$${n=9, 10}$$だと$${r=19}$$、そして$${n=11, 12, 13}$$だと$${r=20}$$となります。つまり、命中判定のダイスの数を11個以上にすると、90%以上の確率で達成値は20以上となり、ダメージロールで3D以上振れることになります。これが、可能なら侵蝕率100%以上で命中判定のダイスの数を11個以上にしたほうがいい根拠になります。実用上はダイス数が10個くらいでも問題はないでしょう。実際、判定のダイスの数が10個なら、89.3%の確率で達成値は20以上となります。

命中判定の達成値にマイナスの修正がつく場合についても考えます。クリティカル値が8の時の議論で、マイナス修正は-1, -2くらいが許容範囲としました。この場合、命中判定のダイスの数が11個以上の場合、90%以上の確率で達成値は18以上になることになります。達成値が18あれば、そうそうドッジされることはない……はずです。なので、やはり命中判定のダイスの数は11個以上にできるならした方がよいと思います。

判定の出目の期待値

今度は判定の出目の期待値$${\langle r \rangle(n, c)}$$を考えます。これは、期待値の定義から、

$$
\begin{align*}
\langle r \rangle(n, c) &= \sum_{k=0}^\infty \sum_{l=1}^{c-1} (10k + l) f(10k+l; n, c)
\\
&= \sum_{k=0}^\infty \sum_{l=1}^{c-1} (10k + l) \left\{ \left[ 1 - \left( 1 - \frac{l}{10} \right) p^k \right]^n - \left[ 1 - \left( 1 - \frac{l-1}{10} \right) p^k \right]^n \right\}
\\
&= \sum_{k=0}^\infty \biggl\{ 10k \left[ \left( 1 - p^{k+1} \right)^n - \left( 1 - p^k \right)^n \right]
\\
&\quad\qquad\ + 10(1-p) \left( 1 - p^{k+1} \right)^n - \sum_{l=1}^{c-1} \left[ 1 - \left( 1 - \frac{l-1}{10} \right) p^k \right]^n \biggr\}
\end{align*}
$$

となります。特に、$${c=11}$$($${p=0}$$)の場合、

$$
\begin{equation*}
\langle r \rangle(n, 11) = 10 - \sum_{l=1}^9 \left( \frac{l}{10} \right)^n
\end{equation*}
$$

と書けることが分かります。

さらに、$${\langle r \rangle(n, c)}$$の表式をもう少し簡単にしましょう。今、$${\langle r \rangle(n, c) = S + T}$$とします。ただし、

$$
\begin{equation*}
S = 10 \sum_{k=0}^\infty k \left[ \left( 1 - p^{k+1} \right)^n - \left( 1 - p^k \right)^n \right],
\end{equation*}
$$

$$
\begin{equation*}
T = \sum_{k=0}^\infty \left\{ 10 (1 - p) \left( 1 - p^{k+1} \right)^n - \sum_{l=1}^{c-1} \left[ 1 - \left( 1 - \frac{l-1}{10} \right) p^k \right]^n \right\}
\end{equation*}
$$

です。ここで、$${|p| < 1}$$で

$$
\begin{equation*}
\sum_{k=0}^\infty p^k = \frac{1}{1-p},
\end{equation*}
$$

$$
\begin{equation*}
\sum_{k=0}^\infty k p^k = \frac{p}{(1-p)^2}
\end{equation*}
$$

が成り立つことに注意すると、$${S}$$と$${T}$$はそれぞれ

$$
\begin{align*}
S &= 10 \sum_{k=0}^\infty k \left[ 1 + \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m p^{m(k+1)} - 1 - \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m p^{mk} \right]
\\
&= 10 \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m \left( p^m - 1 \right) \sum_{k=0}^\infty k p^{mk}
\\
&= -10 \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m \frac{p^m}{1 - p^m},
\end{align*}
$$

$$
\begin{align*}
T &=\sum_{k=0}^\infty \biggl\{ 10 (1 - p) \left[ 1 + \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m p^{m(k+1)} \right]
\\
&\quad\qquad - \sum_{l=1}^{c-1} \left[ 1 + \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m \left( 1 - \frac{l-1}{10} \right)^m p^{mk} \right] \biggr\}
\\
&= 10 (1 - p) \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m p^m \sum_{k=0}^\infty p^{mk}
\\
&\quad - \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m \sum_{l=1}^{c-1} \left( 1 - \frac{l-1}{10} \right)^m \sum_{k=0}^\infty p^{mk}
\\
&= 10 (1 - p) \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m \frac{p^m}{1 - p^m}
\\
&\quad - \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^m \sum_{l=1}^{c-1} \left( 1 - \frac{l-1}{10} \right)^m \frac{1}{1 - p^m}
\end{align*}
$$

となります。したがって、

$$
\begin{equation*}
\langle r \rangle(n, c) = \sum_{m=1}^n \binom{n}{m} (-1)^{m+1} \left[ 10p^{m+1} + \sum_{l=1}^{c-1} \left( 1 - \frac{l-1}{10} \right)^m \right] \frac{1}{1 - p^m}
\end{equation*}
$$

が得られます。

判定における出目の期待値。横軸は判定のダイス数。cはクリティカル値。

ミドルフェイズの戦闘で典型的な、クリティカル値が8、判定のダイスの数が7, 8個の場合、判定の出目の期待値はそれぞれ21.2、22.2となります。達成値の期待値は普通は25, 26くらいになるはずなので、ダメージロールでは3D振ることになるはずです。つまり、ダメージ期待値は16.5+攻撃力となります。

一方、クライマックスフェイズの戦闘の場合、典型的なのはクリティカル値が7、判定のダイスの数が11個から13個ということでした。判定の出目の期待値はそれぞれ31.9、32.8、33.6となります。つまり、ダメージロールでは4D振ることになり、ダメージ期待値は22+攻撃力となります。なお、支援エフェクトなどによってクリティカル値を6にした場合、ダメージロールで1D分増え、ダメージ期待値が27.5+攻撃力になります。

ここで議論したダメージ期待値ですが、しょせんは期待値。実セッションでは、ミドルフェイズの戦闘だとクリティカルがあまり発生しなかったり、クライマックスフェイズの戦闘だと逆に多く発生することもあります。あくまで、ダメージの目安としてご理解ください。

まとめ

本記事では、DX3の判定に関して、判定の出目に関する確率分布とその期待値を導出しました。この確率分布をもとに、特にクリティカル値が8と7の場合について、命中判定の達成値への修正がどのように攻撃の成功率に影響を与えるか議論しました。結果として、ミドルフェイズの戦闘ではクリティカル値を8、判定のダイスの数を7, 8個とする、クライマックスフェイズの戦闘ではクリティカル値を7、判定のダイスの数を11~13個とするのを提案しました。また、それぞれの戦闘でダメージロールが3Dと4Dになる(のが典型的となる)ことを示しました。

では、具体的にどのようなビルドにすればよいでしょうか。侵蝕率60%以上でミドルフェイズの戦闘を行うと仮定すると、判定値が5だとしたら、ダイス数を+[LV+1]個するエフェクトならレベル1で、+LV個するエフェクトならレベル2で取得すれば命中判定のダイス数が8個になります。このビルドで侵蝕率が100%以上になると、命中判定のダイス数は11個となります。判定値が4なら、あるいは判定値は5だけどダイス数を+LV個するエフェクトのレベルを2にする経験点が用意できないなら、クライマックスフェイズの戦闘では命中判定のダイス数を10個で妥協すればよいでしょう。また、判定値が3以下だと、ミドルフェイズ、クライマックスフェイズともに目標のダイス数を確保するのが難しくなり、ダイス数を増加するエフェクトのレベルを高めにする必要が出てきます。したがって、判定値は4以上にし、ダイス数を増加するエフェクトを取得するのがお勧めとなります。なお、命中判定の達成値に関する経験値効率がよいことからダイス数を増加するエフェクトの取得をお勧めしていますが、副能力値も増やしたいならダイス数増加エフェクトは取得せずに判定値を成長させるのも一考の余地ありです。

長々と書いてきましたが、結論として出てきた判定のダイス数などは、結局、様々な人がお勧めしているものと同じです(例えばこのカクヨムの記事とか)。全然真面目に調べていないのですが、今回示した確率分布や期待値を載せているサイトもおそらくあるでしょう(もしかしたら、もっと簡単な表式になるのかも……)。やはり先人の教えにはちゃんと従いましょう、というのが結論になりますね。

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