あの日、空港で私の見聞きしたすべて

私は空港の待合で、ラップトップを開いて簡単な仕事をすませていた
おおきなはきだしのガラス窓から手入れされた中庭の見える席である
この地方特有のおおきな
だいだいいろのはな
をたっぷりつけた木が等間隔にならんでいて
そのあいだをこどもがふたり
縫うように追いかけあっていた
こどもの感じているだろう
あたたかい日のぬくもりさえ感じられた

こどもの走っていく方向に
ベンチが置いてあって
そこにウンタバッガの老夫婦が腰かけていた
さぞ身分のある方なのだろう
にこやかに談笑する様子は
ゆたかに満ち足りて
優雅だった
かれらもまた
かけまわるこどもを微笑みをたたえつつ眺めていた

ちょうど庭の清掃員がきて
こどもたちに声をかけながら
老夫婦のわきを丁寧な会釈と共に通過して
あの奇妙な木に咲いた
だいだいいろのはな
をもぎとる作業にとりかかった
老夫婦にかまってもらっていたこどもたちは
こんどはそれが気になるのか
清掃員のわきにまで駆け寄っていって
直角にうえをむき
なにごとかを訪ね
またなにごとか回答を得ていた

ふと背後から声がきこえた
あ、あれ、あのふたりって
あ、ウンタバッガだね
いやだな
こんなとこまで来るなよな
(舌打ちの音)

こないだのウンタバッガの事件しってる？
なに、それ
ほら、浜の発電所あるだろ
うん
あれって中には入れないようになってるでしょ
そうね、セキュリティで柵とか、結構厳重なやつね
そう、そこにウンタバッガのこどもがはいったんだって
どうやって？
それなんだよ
めっちゃ厳重だよね
監視カメラとか、警報器とか、センサーとか、山ほどついてる
死角をついたとか？
ないよ、そんなの
ハッキングしたとか
映画じゃあるまいし

じゃあどうやったの？
それがね、ウンタバッガならではの方法でさ
ならでは？
そう、おれもきいたとき感心したもん、でも同時に怖くなった
そうなの
だっておなじ方法をつかえばどんなセキュリティだってあってないようなものなんだから
それはすごいね

で、どうやったの？
それはね……

というところで私の便の案内が流れた
どうやらだいぶぼんやりしていたようで
すでに最終案内の時間がきていた
私の名を呼ぶスタッフの声に
私はあわててラップトップをしまい
かけよってチケットをみせ謝罪した
スタッフは愛想よく
問題ありませんよ
ただすこしだけ早歩きしていただかないといけないかもしれません
と冗談をいってなごませてくれた
ウンタバッガのこどもがどうやって発電所に侵入したのかは
あれから十年がたつが
いまだにわからない