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38歳、ぽんこつ処女道 ~初夜編①~

私は38歳まで鉄のパンツを履いていた。

いわゆる高齢処女というやつだ。

処女にも色んなタイプがいると思うが、私は開き直って笑いをとれるほどオープンな性格ではなく、むしろ二重三重に扉を閉めた上、南京錠かけて、「経験人数?2人ですが?」などと適当に嘘ぶいて誤魔化すタイプなので、誰とも悩みを分かち合えずにいた。
(でもたまに、「付き合ったことあるの?」と探るように言われていたので、バレバレだった可能性はある)
 
私自身、「吾輩は高齢処女である」とシェアしてくれたブログに大いに励まされたし、四半世紀もののコンプレックスを成仏させたいという想いから、脱・処女までの道のりを書き記すことにした。
 
 

 
 
まず私のスペックだが、アラフォー、フリーランスのライター、似ていると言われたことのある芸能人は、ジャッキー・チェン。
30歳の時に1人だけお付き合いしたことがあるが、キス止まり。(昭和風にいうとA!)
賞味半年ぐらいのお付き合いで、会った回数も片手で足り、なおかつ最終的にはアロハシャツを着た先輩に紹介されてビジネスの勧誘もされた。
 

 
恋愛偏差値が低すぎて、付き合うということがいまだに未知だ。 
しかし普通に恋愛してきた人からすると、私の方が未知の生物なのかもしれない。 
 
例え今から新しい彼氏が出来たとしても、38歳処女にドン引きされて女のプライドが粉砕されるぐらいなら、もうこのままでいい!と開き直ったり、
1秒後には、いやいや、一番のコンプレックスを抱えたまま生きるのか?と自問自答したり、「処女の初めて承ります」と掲げたピンクのサイトを開いては閉じたり、とにかく40を手前に揺れまくっていた。



そんなある日、私を前進させる本と出合う。

それは、実在する霊能者を主人公にした実話系ホラーコミック。

内容は、「童貞のまま死んだことが心残りで美女に取り憑くストーカー幽霊の話」だった。

嘘か誠か、人は幽霊になったら社会性もモラルもなくなり、本能のみのエゴの塊になるらしい。

つまり、生きている間は自分を誤魔化せても、死んだら理性など関係なく
一番の心残りに執着し続けるという。

え……


私もヤバない??


めちゃくちゃ思い当たるんですが。

 
処女に対する後悔と執着で成仏できずに、好みの男にまとわりつくなんてダサ過ぎる。


……


うん、やっぱり処女のまま死にたくないっす。

 
やはりこれが、嘘偽りない正直な気持ちだった。
大切なことはすべて漫画が教えてくれた。


私は自らを変えるべく、行動に打って出ることにした。

マッチングアプリに登録したのだ。
 
 
ここまで書くと、私がマッチングアプリを始めた理由はヤリモクみたいだが、それは違う。
純粋に好きな人としたい、という気持ちはどうしても譲れない。そこが譲れるぐらいなら、とっくに卒業している。

マッチングアプリで数人とやりとりした結果、初めて一人会うことになった。

彼のスペックは、40歳、売れない俳優、俳優だけでは食べていけないのでバイトのかけもちをしている。

仮名として「トリさん」と呼ぶ。
理由は、彼が昭和の脱獄王・白鳥由栄のファンだから。

神社仏閣好きという共通の趣味で盛り上がったし、メールのやりとりも紳士的だったので好印象だった。
さらに、マッチングアプリのプロフィールに、「恋愛に自信ない」というタグがついていたのも好印象だった。

そして何を隠そう、トリさんこそが、人生で二人目の彼氏となる。

純愛系エッセイなので、順を追って付き合うまでの道のりを綴りたいけど、エロビデオの前半は早送りされる定めなので、初めてトリさんの家へ行った夜まで話を巻く。


*初夜編①*

せめて鉄筋1Rであれという願いも空しく、トリさんの家は木造ボロアパートの一室で、リアル神田川だった。
屋根裏をねずみが走る音に驚愕していると、「ねずみ取りを仕掛けてあるから大丈夫」と言われて、何が大丈夫なのか全然分からなかった。

ねずみに気をとられたけれど、そもそも、「彼氏の家へ行く」ということ自体、初めての経験である。

まず最初の難関は、カミングアウトするかどうかだった。

処女だと言わずにいけるのか?バレずに出来るもの?

痛みは千差万別というし、それとなく経験あります風を装えばバレずにすむんちゃうか?

ここまできても私は安いプライドを手放せず、悪あがきをしていた。

しかし熟考した結果、やはり正直にカミングアウトすることを決意する。
 
 
演技ができないというのも理由の一つだが、それ以上に好奇心の方が勝っていた。

付き合っているとはいえ、38歳の女が「実は処女です」とぶっちゃけたら男性はどういう反応をするのか。

ドン引きするのか?

初めてで嬉しいとかいうのか?

気にしないのか?


果たしてどんな反応をするのか、第一声に非常に興味があった。


私は奥手なくせに、変に好奇心旺盛な面があり、注射の時は血を抜き取られる瞬間を凝視するタイプだし、年下ばかりの婚活に参戦したらどれほどの地獄を味わうのか、あえて体験しに行ったこともある。


だって、こんな機会ないでしょ!


38歳が処女をカミングアウトして、言われた男性の素の反応を見られる機会!!


まさに私にしか出来ない使命!(謎の使命感)


ひどい言葉を言われるなら、それはそれで生の反応として、どんな言葉が飛び出すのか知りたい。
恐いのと同時に、内心めっちゃワクワクしていた。



酒を飲みつつ、機を窺う私。

  
言うぞ!と決心したものの、いざ現実になるとなかなか言い出せない。

会話の内容に集中できず、悶々としながら飲んでいると、不意にこの状況が奇妙に思えてきた。

なんせ私は、人生で彼氏がいた期間の方が断然短い。
38年中、半年にも満たないから、ねずみの糞みたいなものだ。

だから「彼氏」という単語もまったく自分の人生に馴染んでないし、
なのに出会って数回の男性の家で飲んでいるこの状況。

急に、何してんだ私…とシラフになる。

なので会話が途切れた時に、正直に言ってみた。

「なんか今、この場にいることが不思議なんですけど…」

「俺も」

「全然まだ(付き合っている)実感がないです」


「……一線越えてないからじゃない?」


「!!!」



今!?今じゃない!?言うなら今でしょ!!
(ですよね、林先生ーー!)


頭の中で大騒ぎしながら、ここしかない!と思い切って口を開いた。


「実は私……シたことないんです」

「……」


「…え!!?」


言ったーーー!!

かなりドキドキしたが、謎の使命感から、彼の反応を見逃すまいと

じーっと観察していると、彼は一瞬絶句した後、、




正座しました。




正座されたwww



高齢処女をカミングアウトしたら、男性は正座します。

以降のやり取りは、こんな感じ

「え!あ、そうなんだ」

「すみません、言ってから付き合うべきかとも思ったんですが、タイミングがなくて…」

「いや、全然。そうなんだ…」

(何度目の「そうなんだ」。私より動揺しとる)

「……」

目が合わない。

彼もなんと声をかけるべきか、混乱しているようだった。

そして、しばらく口ごもった末の、彼の第一声は、、

「言いにくいことを正直に言ってくれて、逆に嬉しい」


さらに、


「それが理由で、翔子さんを嫌いになることはないから」


だった。


良かったああぁーーー!!泣

正直、マッチングアプリに出会いを求めたのは、
ドン引きされても簡単に次に行ける、浅いつきあいだし互いのプライベートも知らないから、誰にも知られずドン引きされた事実を闇にほうむれる、という理由からだった。

それでも、相手は誰でもいい、というわけじゃなかった。

色んな人とメッセージのやり取りをして、

その中から実際に会ってみて、

「この人なら」と思う出来事もあったから、お付き合いしてみようと思ったのだ。

コンプレックスの塊で警戒心ガチガチだった私にとって、

私の人生最大の恥で、長いつきあいの友人にすらひた隠しにしてきた秘密を、男性(しかもマッチングアプリで出会ったほぼ知らん人)にカミングアウトすることは、

恋愛の前に「人を信じてみたい」ということに繋がっていた気がする。

「受け入れてくれたから」相手を信じるのではなく、

相手の反応は二の次で、「まず自分が心を開く」というチャレンジをしてみたかった。

もちろん受け入れてもらえたことは嬉しかったし、死ぬほどほっとしたけれど、

それ以上に、勇気を出せた自分を褒めてあげたかった。

脱・処女云々より、心をオープンにする、ということの方が、

私にとって重要課題だったんだなあ。


アラフォーで初体験に挑むのは、バンジーを飛ぶようなものだった。

その証拠に、カミングアウトで力つき、ライフが0になった私は本気でそのまま帰ろうとした。

しかし普通に引き留められ、まさに少女漫画の「帰らないで!」みたいなシチュエーションで抱きしめられたことにギュンとときめいてしまい、そのまま押し倒されて、さらにギャンギャンにときめいた。

ええ~、好きな人に押し倒されるって、こんなにときめくの~!?(はわわ)

私は感情の起伏があまりないと思っていたので、自分にもこのような感情があったのは新鮮な驚きだった。

好きな人が自分のことを好きって、やっぱり奇跡。

とかなんとかいって、すっかり浮かれて少女漫画界の住人になったつもりでいた私だが、初夜の最中に、「は?(怒)」という事件が起き、一気に男女のセックス観のすれ違いを描くレディコミ界へと落とされる。


結果、初夜では貫通せず。
その後、二週間連絡を断ちました。

少女漫画の朝ちゅんはギルティ。

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