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中年ヒーロー「クリムゾンボルト」の話| 映画「スーパー!」を今年も見た

前の記事で「キック・アス」について話したので、ぼくが知っている中でもう1人、スーパーヒーローになろうとした“普通の人”を紹介したい。映画 「スーパー!」に登場するクリムゾンボルトである。高校の時にTSUTAYAでレンタルしてこの映画を見たぼくは、言葉にできないようなこの映画の魅力にハマってしまい、DVDまで購入した。それで、年に1度は見ている。いつ見ようと特に決めているわけではないが、たまにまた見たくなるのである。いい歳してスーパーヒーローになろうとした、フランクという男を。


ちなみに、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」で監督を務めたジェームズ・ガンが監督と脚本を担当している。



「キック・アス」と何が違うのか

前の記事を読んだ人や、「キック・アス」を知っている人は似たような話かと思うかもしれない。たしかに、“普通の人”が手作りスーツを身に纏ってスーパーヒーローを名乗り出すという点では同じかもしれない。しかし「キック・アス」はアメコミを原作としたヒーロー映画、かつアクション映画なのに対して「スーパー!」はコメディ映画、もっというとブラックコメディである。いい歳こいたオッサンがスーパーヒーローになってやろうと立ち上がる様を、ポップに、それでいてシニカルに描いているのが「スーパー!」だ。

また、「キック・アス」はヒーローオタクの主人公が趣味の延長で始めた自警団的な活動だったのに対して、「スーパー!」は明確な“敵”が存在し、そもそもスーパーヒーローには興味がなかった男性が主人公という点で異なる。

そしてこれはアクション映画ではないので、暴力シーンはしっかりと「暴力」として描かれる。「キック・アス」でも血は飛び散るが、ちょっと面白さを残したような飛び方である。しかし「スーパー!」では、武器は配管用のレンチだし、血はだらだら流れる。

クリムゾンボルトを生んだ環境

では、スーパーヒーローに興味のない男性がなぜスーツを自作し、悪と戦うまでに到るのか。
フランクは人生において2回だけ、完璧だった瞬間がある。それは美人のサラと結婚できたこと、もうひとつはひったくりを追いかける警察官に、「あっちです!」と教えられたこと。それ以外は冴えない人生を送っていた。しかしその美人妻は街のセクシーでイカれたドラッグディーラーに寝取られてしまう。失意の中眺めていたテレビで流れていたのは、子供向けのヒーロー番組だった。そこには子供たちを助ける全身タイツのヒーローが。これしかないと決意したフランクは、ヒーローの研究を始める。盗みはダメだし、映画館の列に割り込むのもダメ。ドラッグの売買や子供への猥褻行為ももちろんダメ!“Shout up crime!”の決め台詞とともに、街で悪さを働く奴らをレンチで殴りまくる。「ヒーローの扮装をした悪漢」だとかローカルニュースで報じられたりもしたが、ひょんなことから正体を知られてしまったコミックショップの店員、リビーとともに、ついに妻を寝取ったドラッグディーラーのアジトに乗り込むことになるのである。

「スーパー!」を見終わって

結末も含め、全ての展開がお決まりと言えばお決まりだが、ハッピーエンドとは呼べないと思う。
そもそも全身タイツに身を包んで暴れる姿がテレビで報じられるほど有名になってしまったし、世を変えてしまうほどの巨悪と戦うわけでもない。冴えない男が愛する人を取り返すためだけに暴れ回る話。現実で起こったら正直、きつい。アイアンマンやスーパーマンのような大規模な戦闘も確かに現実に起きたら世界中に報じられ、多くの関心を集めるだろう。しかし、実際にクリムゾンボルトがいたとしたら、せいぜい「世界仰天ニュース」や「世界まる見え」で数年後に取り扱われるくらいだろう。それくらいの、「ちっぽけな男の人生をかけた戦い」という以外言いようがないのがこの映画だ。

しかし、最後に奮い立つクリムゾンボルトの姿はかっこよかった。

“準備なんて終わらない。
行動を起こす度胸がなかっただけだ”

ダサい男の戦いだが、なぜか年に1回は見たくなる魅力がある。
なお、ぼくが確認したところ、NetflixやAmazonプライムビデオなど、大手の配信サービスでは見ることができない。もしこれでこの映画に興味を持った人は、いろんなことに気をつけながら、久しぶりにレンタルビデオ店に行ってみるのもいいかもしれない。

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