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「ひとり。時々ふたり」


とりあえず目的だけを決めておいて
あとの事は決めず
時間の事もあまり気にしないで
住んでいる所から離れた街を
歩くのはとても楽しい

この日は蔵前に住む友人に会いにいった
近くに宿はとっていたが
「うち泊まっていかんかいね」と言われ
甘えさせてもらうことにした

翌朝帰る時になって
「帰りひとりやとさみしいやろ?」と
気を利かせて最寄り駅まで送ってくれた

上京して10年以上経つ彼女は
私よりも歩くのが早く
先をいく

彼女と出会ったのは東京だけど地元が同じで
部屋にはイラっとくるほどガラクタを溜め込んでいて
ドアノブにはカバーがかかっていたりする

家ではやたら「白湯」を飲み
スニーカーの事を「ズック」と言う
嫌いなものは「とんち」のない会話

そして歩きながら恋の話をしだした頃には
歩く速度が同じになっていた
私に合わせてゆっくり歩いてくれているのがわかった

お喋りしながら来たので
あっという間に感じたけれど
実際には駅までの道のりは思ってたよりも
ややこしくて遠かった

「遠いしややこしいやろ。ひとりで行けって言えんやろ」
彼女はそう言って私が地下鉄に降りて行くのを見守ると
その遠くてややこしいその道のりをひとりで戻っていった

素の優しさが身に染みたせいで
寂しくなりポツンとなった

いつも「ひとりが好き」って
ついつい言ってしまうけれど
それはただ強がっているだけ

一緒にいたいと思う人とは
離れたあとに、少しだけ、寂しくなる

子供の頃、大人はよほどのことでない限り
寂しがったりないものだと
それが大人と思っていたけれど
そうではないという事を知った

それでもしばらくしてまた歩き出し
ひとりでふらりと立ち寄る先に
これから友達になる人がいるかもしれない
そう思い、ひとりでてくてく歩くのは好き

そしたらそれはそれで
ひとりもやっぱりいいもんだと
思えてくるし
別れ際に寂しくなるのも
悪くはない

DEC. 10 2015



#旅コラム #東京 #下町 #梅佳代 #nimder

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