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侵襲と介入

著者:今一留実
査読者:椿麻由美
査読者:江花有亮
2023年7月21日 Ver1.0
 
『侵襲と介入』 
私は、CRCとして長く治験を担当していたので、臨床研究の部門に異動して、最初に戸惑ったのが、「侵襲」と「介入」の概念でした。治験は侵襲・介入ありが大前提なので、「侵襲」と「介入」の定義への該当性について最初は全く理解することが出来ませんでした。指針を学び理解した内容を記述してみます。
 
1.侵襲
【定義】
「研究目的で行われる穿刺、切開、薬物投与、放射線照射、心的外傷に触れる質問等によって、研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担が生じることをいう。」
最初何回読んでも正直理解することができませんでしたが、臨床研究で、効果を調べようとしている治療や検査が「研究目的で行う」のか「診療で行うのか」によって、「侵襲」となるのか、「通常診療」となるのかが分かれます。例えば、あくまで研究のための穿刺や切開、薬剤投与を行った場合は、「侵襲」に該当します。
通常の診療の採血に上乗せして、採血する場合は、「軽微な侵襲」になります。「軽微な侵襲」については、後で説明させて頂きますね。
 
【侵襲の事例】について以下に挙げてみますので、参考にしてみてください。
・研究目的で医薬品や医療機器を対象として研究をする場合
 ※特に以下の場合は「特定臨床研究」になることもあります。
Ø  既承認医薬品・医療機器の保険適応の範囲(効能・効果,用法,用量等)を超えて使用する研究。
Ø  未承認薬を使用する研究。
・研究目的で実施する放射性同位元素を用いた核医学検査。
・研究目的のみで、穿刺もしくは切開して組織を採取する研究。
・研究目的で侵襲的な画像検査[CT検査(被曝があるので造影剤を使用しなくても該当)や造影MRI検査]や血液、組織採取を行う研究。
・心的外傷に触れる質問(対象者にとって思い起こしたくない辛い体験に関する質問)を行う研究。(意図的に緊張、不安等を与えたり精神状態を乱す内容のアンケート等)
 
注意点としては、日常診療で診断や治療方針決定のために採血や検査をしますが、これはあくまでも治療目的であって、研究目的の「侵襲」とはみなされません。
また、よく研究者の先生が間違って解釈されていますが、保険適応のある検査がすべて、「日常診療」であるというわけではありません。保険適応がある検査でも、例えば、通常の診療では治療前、治療後の2回CT検査を行いますが、研究のため治療2週間後に1回多くCT検査を行う場合は、「侵襲」に該当します。
他には、特定の患者さんに他に治療法がないので、救命のため、海外で承認されているが、日本では未承認の薬剤を診療目的で投与したり、既承認医薬品の適応外使用を行なったり、 あるいは未承認医療機器を使用することがあります。この場合は診療目的であって研究を目的としていないので「侵襲を伴う研究」とみなされることはありません。臨床研究のように研究目的が加わることで「侵襲を伴う研究」になりえます。医療機関によって異なりますが、上記のような「侵襲を伴う医療行為」を診療として行っても問題ないか、「臨床倫理委員会」や「未承認新規医薬品等評価委員会」などで審査し、使用しても良いと判断されたら、頻回に使用する場合は、まずは研究として行い、有用と判断されてから日常診療(治療)として使用することが認められています。
※特定機能病院の場合、未承認新規医薬品等評価委員会の設置が義務付けられています。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000138716.pdf
 
2.軽微な侵襲
【定義】
「研究対象者の身体又は精神に生じる傷害又は負担のうち、その程度が小さいもの。」
 
解りにくい定義ですよね。以下に例を挙げてみます。具体例を挙げると、イメージがつきやすいかもしれません。 
【軽微な侵襲の事例】
・研究目的のみで、少量の採血(健康診断時の採血量程度)を行う研究。
・研究目的で実施する単純X線撮影。
・造影剤を使用しない MRI 検査。
※長時間の行動制約等によって身体及び精神に負担が生じない場合
・診療目的で穿刺、切開等が実施された際に、研究目的で採取量や回数を上乗せする場合(程度による)。
 
3.介入
【定義】
「研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動及び医療における傷病の予防、診断又は治療のための投薬、検査等を含む。)の有無又は程度を制御する行為(通常の診療を超える医療行為であって、研究目的で実施するものを含む。)」
 
  「介入」とは、研究者が研究目的で患者さんに特定の治療行為を受けていただくことや、「制御する」行為を伴うものが該当します。例えば、一定期間用法・用量を固定するような研究、2群のどちらかに、割り付けがある研究が該当します。対象群を設けないで、単一群(シングルアーム)に特定の治療法、予防方法、患者さんの健康に影響を与える要因(運動療法や食事療法など)を制限する研究になります。また、研究に参加することで、全員が指定された運動を毎日行うとか、指定された音楽を毎日聞くことも「介入」になります。
一方「通常の診療を超える医療行為であって研究目的で実施するもの」でも疾病の予防、診断及び治療を目的としない場合には「介入」には該当しません。
 
【介入の事例】
 ・前向きのランダム化比較試験。
・シングルアームで特定の治療法に割り付ける研究。
・診療で受けている治療方法であっても、研究目的で一定期間継続することとして、他の治療方法の選択を制約するような研究。
 
介入があるものを「介入研究」と呼び、介入がないものを「観察研究」と呼びます。
介入研究は研究目的で健康に関する様々な事象に影響を与える要因を制御する行為を通じて得られた診療情報を収集する研究です。一方観察研究は介入を伴わず転帰、予後等の診療情報を収集する研究です。
 
 「侵襲」・「介入」の判断は慣れるまでは難しいかもしれません。慣れても判断に迷うこともあります。また、施設によって、判断が分かれる場合もあると思います。黒白はっきりしないグレーゾーンは、研究計画書に「侵襲」・「介入」の有無や目的を明確に記載した上で倫理委員会の判断を仰ぐしかないと思います。
 



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