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研究対象者からのインフォームド・コンセントを取得できる者の範囲

作成者:栗林 航
査読者:武井 陽子
2024年6月12日 Ver.1.0

ICF:Informed Consent Form(説明文書のこと)

【はじめに】

「え、これのどこがいけないの?」
と思った方もいると思います。

研究計画書に記載のない医療スタッフが、インフォームド・コンセントを取得していたことがモニタリング時に明らかになったというオチです。

何故、研究者以外がインフォームド・コンセントを取得してはいけないのでしょうか。

【インフォームド・コンセントとは】

「インフォームド・コンセント」とは、
単に「研究参加について患者さんから同意を得ること」を意味するのではありません。

研究内容(どういう研究か、なぜ対象者として選ばれたか、研究に参加するにあたり守ってもらうルール、その他注意事項)について理解してもらうこと

・参加するかどうかの判断にあたっての対象者からの疑問・質問・心配ごとに答えた上で研究参加についての同意を得る(もちろん不同意や同意後の撤回にも応じる)

この2つ(inform+consent)が揃って初めて「インフォームド・コンセント」となるのです。

【なぜ「研究者等」によるインフォームド・コンセント取得が必要なのか】

研究対象者への必要なインフォームド・コンセントの手続については、当該研究における研究対象者への負担・リスクに応じて、いくつかの選択肢(インフォームド・コンセントの取得のみならず、適切な同意の取得やオプトアウト、情報の通知・公開)が倫理指針第8の1において提示されております。

侵襲を伴う研究
→「文書によるインフォームド・コンセント

介入を行う研究
新たに試料を取得して行う研究」
→「文書によるインフォームド・コンセント
又は
口頭によるインフォームド・コンセント+記録の保存

これは研究参加に伴い、有害事象が生じたり、来院回数が増えたり、研究対象者に起こり得る負担やリスクについて、きちんと理解いただく必要があるからです。

そのためには、説明者は研究内容をきちんと理解している人=研究者等でないといけませんよね。

また、研究者側にとってみても、研究に参加いただくにあたり必要な事項が伝わっているか(来院スケジュールを守ってもらえるか、服薬アドヒアランスはどうか)が確認できないと、せっかく参加いただいたにも係わらず、欠測だらけのデータしか得られないというリスクがあります。

こういった理由から「当該研究に精通している者=研究責任者、研究分担者」がインフォームド・コンセントを取得する必要があるのです。

指針ガイダンスでは、従来のゲノム指針に規定されていた「履行補助者」によるインフォームド・コンセント取得も許容されていますが、「研究者等」の定義に含まれることから、当然に研究者等としての責務を負う必要があります。

倫理指針ガイダンス 第2 用語の定義(17)解説


【「インフォームド・コンセント」と「適切な同意」の違い】

では、「侵襲を伴わず」「介入を行わない」「新たな試料の取得も行わない」研究ではどうでしょうか。

・新たに要配慮個人情報を取得する研究(指針第8の1(1)イ(イ)②(i))
・既存情報を用いる研究(指針第8の1(2)イ(エ))
・既存情報(要配慮個人情報除く)を提供する場合(指針第8の1(3)イ)
・外国に試料・情報を提供する場合(指針第8の1(6))
これらにおいては「適切な同意を受ける」ことが求められます。

インフォームド・コンセント」と「適切な同意」はどう違うのでしょうか。
指針ガイダンス第2の解説においては以下のように記述されています。

倫理指針ガイダンス 第2 用語の定義(22)解説

つまり、インフォームド・コンセントでは研究目的から方法、補償措置等研究内容全般に対して詳細な説明を求める一方、負担やリスクの程度がそれほど高くない研究においては、研究対象者が諾否を判断するための情報があれば足りるます。

「適切な同意」では、インフォームド・コンセントを受ける際に求められる本人確認も必須ではありません(メールでの意思確認や、アンケート用紙における「▢本研究の参加に同意します」という確認欄へのチェックで足りる)。

また、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針Q&A(じほう)」では、既存試料・情報のみを提供する者によるインフォームド・コンセント手続について「提供に関する手続等のみ可」ともあり、「この研究のために提供してよろしいですか」といった説明に留まるもの(適切な同意)であれば、研究者以外であっても可である、と解釈できます。

【まとめ】

インフォームド・コンセントを取得できる者は「研究者等」として倫理指針に定められている以下の者に限られ、いずれも研究計画書に氏名が記載されている必要があります。

・研究責任(代表)者
・研究分担者
・履行補助者

 研究対象者への必要なインフォームド・コンセント手続の実施は、ヘルシンキ宣言や倫理指針の基本方針に照らしても、研究計画において最も重要な部分です。

4コマの事例のように、研究者以外の者が研究対象者からインフォームド・コンセントを取得したりすると、「必要なインフォームド・コンセントの手続を行わずに研究を実施」したことになり、指針への重大な不適合として指針第11の3に基づき大臣報告の対象となり得るので注意が必要です。

退職等により研究者が交代する場合は、インフォームド・コンセントを取得する前に変更申請が必要になるため、事務局としても注意しましょう(研究者から自発的に申し出ていただけると大変ありがたいのですが)。


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