2017年の映画、マイベスト27本ランキング

去年と同様、自分なりに設定した10項目+「特別な思い入れ」で採点しています。海外で見たものは、タイトルをアルファベットで綴っています。

1位 『立ち去った女』 ラヴ・ディアス監督 《映画の時空を観客がともに生きる、稀有な映画体験。アンゲロプロス以来の新たなワンシーン・ワンカットの巨匠誕生。唯一の欠点は、3時間48分という上映時間が短すぎることだ。》

2位 『L'Empire des Sens(愛のコリーダ デジタルリマスター版)』 大島渚監督 《主役二人が四畳半一間に「官能の帝国」を築く過程に一瞬の迷いも躊躇いもない。愛と欲望の融合反応は凄まじい速度で臨界点に達する。雨中の「闘牛」場面からもエロスと死が迸り出る。》

2位 『パターソン』 ジム・ジャームッシュ監督 《ナレーションと字幕の両方で同じ詩の言葉が繰り返され、日常の生活に埋もれた宝を発掘していく幸福感に、じわじわ包まれる。バスとマッチとギターと犬と永瀬正敏の使い方が、たまらない。》

2位 『動くな、死ね、甦れ!』 ヴィターリー・カネフスキー監督 《ロシアにはときどきとんでもない映画作家が出現する。暗くて重い巨大な力が世界の基盤をぐらぐら揺るがしてくる。日本の民謡の使い方は、大島渚映画へのオマージュに違いない。》

5位 『午後8時の訪問者』 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 《ダルデンヌ兄弟の映画は、いつでも「アクション映画」だ。精神がぎりぎりまで追いつめられたとき、どうしようもなく身体が反応し動いてしまう。それを捉える目が敏捷で繊細で的確だ。》

5位 『希望のかなた』 アキ・カウリスマキ監督 《主人公がつまびくサズの演奏を、難民収容所のベッドに横たわった面々が聞いている。互いに横たわった姿勢だからこそ人の心はあふれ出す。カウリスマキ映画は、人の姿勢が雄弁だ。》

5位 『ありがとうトニ・エルドマン』 マーレン・アデ監督 《娘の肉親ストーカーになり果てて、ハチャメチャな行動を繰り出すお父ちゃんの顔はあくまで無表情。小津安二郎のサイレント映画に登場する可笑しく哀しい父親の無表情にかぶさってくる。》

8位 『メッセージ』 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督 《人類の新たな進化を描く点で、『2001年宇宙の旅』を継承する正統SF映画。重力の変化による空間の変容や、無重力爆発シーンの音の消滅など、キューブリック映画へのオマージュもたっぷり。》

9位 『トッド・ソロンズの子犬物語』 トッド・ソロンズ監督 《毒にも薬にもならない興奮や感動は映画に必要ない。猛毒を摂取可能に薄めて投与し、痺れた観客に世界のリアルを見せてやるっていう、確信犯の仕事。解毒剤はないのでご用心。》

9位 『浮雲 デジタルリマスター版』 成瀬己喜男監督 《とことん堕ちてく人間たちが、綺麗で色っぽい。そんな逆説的な賛辞が意味を持ってた時代が、日本にはあったのだ。クズもヘタレも生きている、生きることで輝いた時代があったのだ。》

9位  『牯嶺街少年殺人事件』 エドワード・ヤン監督 《思春期の鬱屈とエネルギーが凄まじい光と影のドラマになってる。しかもそれが、そのまま台湾のある時代をまるごと表現するメタファーになっている。チャン・チェンが暗く美しい。》

12位 『ウィッチ』 ロバート・エガース監督 《おびえてるんだかわくわくしてるんだか全く読めないアニヤ・テイラー=ジョイの目に魅せられて、彼女と一緒に暗い森に分け入っていったら、ものすごい場所に連れて行かれてしまう。》

12位 『湖の見知らぬ男』 アラン・ギロディ監督 《ゲイの「狩り場」の湖に集まって横たわる男たちは、まるで水辺に群がる動物の一群に見えてくる。本能的な欲望に導かれる人間の生態を、不思議な距離で観察する視点が新鮮だ。》

12位 『街角 桃色の店』 エルンスト・ルビッチ監督 《惹かれあう男女は、反発し合うことで互いへの思いを伝える。それが歯切れのいいテンポで生き生きと語られるとき、映画はグルーヴあふれるジャズみたいに、観客を幸福で包み込む。》

15位 『Les Filles d'Avril』 ミシェル・フランコ監督 《2代にわたる母親ふたりの間の牝の闘いを、戦々恐々と見つめるしかないけれど、この監督にはどこか人の生を突き放して俯瞰する目があって、見終わって、大きなドラマを見せられた感が残る。》

15位 『ノクターナル・アニマルズ』 トム・フォード監督 《入れ子構造で語られる二つの混ざるはずのない物語が交錯する瞬間のドキドキ感は、ヤバい。A・アダムズとJ・ギレンホールの見開いた目とM・シャノンの薄い目とが、強烈なコントラストだ。》

15位 『ミューズ・アカデミー』 ホセ・ルイス・ゲリン監督 《無限に続くかのような男女の旺盛な喋りに、飽くなき生殖行為を見せられてるみたいな気になって来る。相手を征服することで得られる興奮と快楽が、あられもなく丸出しになっている。》

18位  『光りの墓』 アピチャッポン・ウィーラセタクン監督 《のんびりと過ぎていく日常を撮っている⋯⋯ように見せながら、土地の記憶やら人々の情念やら異界からの誘惑やらが、揮発するように立ち昇って来る。マジカルな夢の時間に遊ぶ快感。》

18位  『人類遺産』 ニコラウス・ゲイハルター監督 《廃墟萌えとは次元が違う。廃墟が生で迫って来る。廃墟と共に生きる。そこから始めないことには、文明とか自然とか時間とか人間とかを考えるには及ばない、という腰の据わり方。》

18位  『ニノチカ』 エルンスト・ルビッチ監督 《スカンディナビアン・ビューティ、グレタ・ガルボの冷たい無表情が爆笑に変わる瞬間は、映画史的に劇的だ。ルビッチ先生、例によってレストランの空間の使い方が、極上の名人芸。》

18位  『秋津温泉』 吉田喜重監督 《和装の裾もおかまいなく、岡田茉利子が走って走って走りまくる。走ることで失われゆく時間に追いすがるかのように。ラストの川辺の移動撮影には、奇跡のような映画的カタルシスがある。》

22位  『キングコング 髑髏島の巨神』 ジョーダン・ボート・ロバーツ監督 《第二次大戦で人々の大量の命を呑みこんだ太平洋の森が、ベトナム戦争でナパーム弾によって焼き払われたカンボジアの森が、言葉を発し始める。そんな文脈を感じさせる怪獣映画。》

22位 『バーフバリ 王の凱旋』 S・S・ラージャマウリ監督 《身体や武器の機能の拡充と、アクションと空間との関係性の斬新さ、といった点で、『スター・ウォーズ』も『ロード・オブ・ザ・リング』も軽く凌駕する上に、強烈な音楽とダンスが加わる。》

24位 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』 ジェームズ・ガン監督 《スペースオペラという乗り物にどれだけ詰め込むかっていう、圧倒的な積載量。キャラの多彩さ、アクションの強度、エモーションの切なさを積みこんで、ひたすら映画は飛んでいく。》

24位  『8年越しの花嫁 奇跡の実話』 瀬々敬久監督 《登場人物に悪人が一人も登場しない。肉体の変異とか時間の残酷な流れとかの運命に、ただただ人が向き合い闘うことに焦点が絞られる。その意味では、ギリシャ悲劇的ドラマ。》

24位  『ドリーム』 セオドア・メルフィ監督 《トランプの時代をぶっ飛ばす映画。米国には強い女がいるもんだ。彼女らの頭のキレ、身体のキレを捉えるのは、フルスロットルのアメリカン・コメディ。各場面の弾力の強さに、脱帽。》

24位  『散歩する侵略者』 黒沢清監督 《親しい人がある日別の何かに入れ替わってるっていう『ボディ・スナッチャー』系侵略映画。そんな侵略者が何事もなく日常を過ごしてるのが黒沢映画。松田龍平がひたすら気持ち悪い。》


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